お酒好きであれば、自分が飲んでいるお酒の基本的な製造工程を知っておくと、さらに深く楽しめるようになります。例えばウイスキーを飲むとき、「このウイスキーは直火蒸留なんですよ」とか「このウイスキーはシェリー樽熟成です」と言われて、「そうですか」としか思わないと少しもったいないと感じます。

「それならトースト感のある香りが楽しめそうだな」(直火蒸溜)、「芳醇な香りと甘やかな風味があるのかな」(シェリー樽熟成)――と分かると、より味わい深く堪能できます。そこで、今回はウイスキーの基本的な製造工程について紹介しましょう。

  • ウイスキーの基本的な作られ方を知っていると、また違った感性で味わえます

原料をモルトミルで粉砕する

ウイスキーの原料である麦芽から石などのゴミを取り除いてから、モルトミル(麦芽粉砕機)にかけて粉々にします。粒を荒くすると効率が悪くなりますし、細かくし過ぎるとろ過できなくなるので、バランスが重要です。粉砕してふるいにかけ、最も細かい粉を「フラワー」と呼び、10%ほど使います。粗びきの「グリッツ」が60%~70%、もっと粗い「ハスク」が20%~30%となっています。

ウイスキーの原料としては大麦を発芽させた麦芽(モルト)以外にも、ライ麦やトウモロコシといった穀物(グレーン)も使われます。大麦も穀物ですが、別扱いになっているのです。ほかにも、ライ麦、きび、あわ、そばなどが使われることもあります。聞いたことがない穀物のウイスキーを出されたときに、こんなのウイスキーじゃない、なんて態度は出さないようにしましょう。

  • Porteus社のモルトミルです。写真は静岡蒸留所にて撮影

  • 粉砕したモルトです。3本あるうち、右がフラワー、真ん中がグリッツ、左がハスクです。写真は静岡蒸留所にて撮影

お湯を使って麦芽を糖化させる

マッシュタンと呼ばれる大きな容器に、粉砕した麦芽とお湯を注いで攪拌(かくはん)します。すると、麦芽の中にある酵素によって、でんぷんが糖分に変化します。この液体を麦汁(マッシュ)と呼びます。この作業をすることで、アルコールを生成する発酵が行えるようになるのです。

ブドウやリンゴなど、元から糖分を持っている原材料の場合は不要な工程ですね。

  • 金属製のマッシュタンで麦汁を作ります。写真はブナハーブン蒸留所(スコットランドのアイラ島)にて撮影

発酵させて糖分からアルコールを生成する

麦汁に酵母を加えると、糖分がアルコールと二酸化炭素に変化します。このとき、ウイスキーの基本的な香りが作られます。発酵槽は木製で、発酵中は大量の泡が発生します。あふれかえらないように、泡切りのカッターが回っていることもあります。2日~3日ほど発酵させ、アルコール分が7%~8%のビールのようなもろみと呼ばれる液体が得られます。

  • 発酵槽に麦汁と酵母を入れて発酵させます。写真はブナハーブン蒸留所にて撮影

  • 発酵槽の内部です。発酵中は泡だらけで、炭酸ガスが鼻を突きます。写真はブナハーブン蒸留所にて撮影

もろみを蒸留して雑味を除去、アルコール度数を高める

もろみを蒸留し、ウイスキーの原酒を作ります。水よりも沸点の低いアルコールを先に蒸発させ、冷やして液体に戻して回収することでアルコール度数が高くなるのです。

蒸留器には、1回ずつ蒸留する単式蒸留器と、連続して蒸留できる連続式蒸留器の2種類があります。連続式蒸留器のほうが新しく登場し、アルコール度数を効率的に高められます。

どの蒸留器を何回使うのかはウイスキーの銘柄によって異なります。一般的には、単式蒸留器のポットスチルで2回蒸留することが多いのですが、アイリッシュウイスキーのように3回蒸留することもあります。バーボンやグレーンウイスキーの多くは連続式蒸留器を使い、ポットスチルの場合もあります。

蒸留器を熱するときは、中に設置したパイプに熱い蒸気を通すタイプが一般的。ですが、まれに石炭や薪を燃やして加熱する直火式蒸留器を採用している蒸留所もあります。直火式のほうが力強い原酒になることが多いです。ちなみに、ニッカウヰスキーの余市蒸留所(北海道)は石炭直火蒸留、ガイアフロー静岡蒸留所は薪直火蒸留機を採用しています。

さて、蒸留して得られた液体は透明。ニューポットやニューメイクなどと呼びます。バーボンの蒸留所ではホワイトドッグと呼ぶことも。この時点ではアルコール感が強いだけのお酒です。

蒸留するごとに雑味が減るので、3回蒸留したウイスキーはスムーズな味わいになります。ちなみに、筆者がBARで飲んでいるときに「スムーズ」と言ったところ、「スムースね」と指摘されたことがあります。スムーズとスムースは同じ言葉なので、人に指摘しないようにしてください。とはいえ、ウイスキー領域では「スムース」が使われることが多いようです。

  • ポットスチルで蒸留します。写真はボウモア蒸留所にて撮影

樽詰めして熟成させ琥珀色の液体に変化させる

蒸留して得られるニューポットのアルコール度数は70%前後です。しかし、木製の樽で熟成させるなら63%前後が適していると言われています。そのため、まず水で薄めてから樽詰めして熟成します。冷暗所に保存し、何年も眠りにつきます。

ウイスキーと呼ぶことができる熟成年数は国によって異なりますが、基本的には3年以上です。ちなみに、ストレートバーボンと名乗るには2年以上の熟成でOKです。

ウイスキーを熟成させる樽は、おもにホワイトオークの木材で作られています。バーボンは新樽を使うことが決められていますが、ほかのウイスキーはさまざまな樽を使います。別のウイスキーを作ったあとの樽を使い回したり、シェリー酒やワインなどほかのお酒で使ったあとの樽を再利用することもあります。

「シェリー樽で寝かせた」というのは、シェリー酒を入れていた樽にウイスキーを入れて熟成させたということです。樽の種類によって味わいや香りが大きく変化します。例えばシェリー樽であれば、フルーツの風味やスパイシーなニュアンスが加わり、色は深い琥珀色になり、フィニッシュは長くなる傾向があります。

樽のサイズも、容量によって名前が付いています。約180リットルのバーレル、約230リットルのホッグスヘッド、約500リットルのパンチョンといった具合です。樽が小さいほど熟成が進みやすく、大きいほどゆったりと熟成します。

ホワイトオーク、フレンチオーク、ジャパニーズオーク(ミズナラ)は木材の名前、シェリー樽、バーボン樽、ワイン樽などは以前にその樽で作っていたお酒の名前です。初めてお酒の熟成に使う樽なら、「1stバレル」や「新樽」などと呼びます。

別のお酒で使った樽でスコッチウイスキーを作り、そのあとでまたスコッチウイスキーを熟成させる場合は「セカンドフィル」と呼びます。3回目の熟成なのにセカンドフィルというのは紛らわしいところです。その次はサードフィルで、2回目以降をまとめて、リフィル樽で熟成した――と言うこともあります。

  • 樽詰めされた原酒は3年以上の眠りにつきます。写真はメーカーズマーク蒸留所にて撮影

  • 基本的に、樽は横に寝かせるのですが、縦に補完する蒸留所もあります。写真はカヴァラン蒸留所にて撮影

  • 時間が経つごとに樽の成分が溶けだし、色が濃くなります。写真はカヴァラン蒸留所にて撮影

樽出しして、ブレンドや加水を行い完成

熟成が終わったら、樽から出して最終工程へと進みます。ブレンデッドウイスキーであれば、モルトウイスキーとグレーンウイスキーをブレンドします。シングルモルトウイスキーであれば、加水してアルコール度数を調整します。

樽から出してそのまま瓶に詰めたものを「カスクストレングス」と呼びます。樽(カスク)から出したままのアルコール度数なので強烈ですが、うまみもそのまま。カスクストレングスのウイスキーを頼んだときは、アルコール度数が高いなどと文句を言わないようにしましょう。

シングルカスクは1つの樽から取り出したお酒――という意味です。大量生産品は多数の樽を混ぜ合わせて均一の味わいに仕上げますが、シングルカスクは樽ごとに違った個性を楽しめます。同じ銘柄のウイスキーでも味わいが大きく異なるのです。なお、似たような単語のシングルモルトは、単一蒸留所の原酒で作ったウイスキーを意味します。

  • 樽からウイスキーを出します。黒いカスは樽の中から出てきた「おこげ」です。写真はジムビーム蒸留所にて撮影

  • ほかの樽で熟成したウイスキーとブレンドし、加水調整のあと、瓶詰めされます。写真はジムビーム蒸留所にて撮影

以上が、ウイスキー好きなら知っておきたい製造工程です。イレギュラーはありますが、基本的な工程を知っておくと、ウイスキーが樽の中で眠る姿や年月に想いを馳せたりしながら、より深く味わえることでしょう。