第1回のピーチ・アビエーションに続いて、第2回は100%ANA資本のバニラエアである。バニラエアも2016年度に初の黒字転換を果たし、さらなる事業拡大を図る意向だ。9月14日に台北から以遠権を使って成田=ホーチミンを就航、12月25日に成田=セブ線を開始した一方、2017年2月19日には成田=函館線を、同年3月18日には関西=函館線を開設する。
LCC初の函館線の活用法
北海道新幹線開通で観光が活性化している函館線はLCC他社に先駆けての就航なので、当面の成算は見込めると思われる。また、成田=函館線では新幹線との片道相互利用などのオプションもあるため、一定のインバウンド需要取り込みが期待できるだろう。
一方、関西=函館線は基礎需要がどこまで広がるか、そして、2018年から新千歳の拠点空港化を明言しているピーチが、後追いで関空・成田から函館に就航することも考えられるだろう。ANAグループ同士の直接対決がどうなるか、注視が必要だろう。
本邦初となる「以遠権」の難しさ
一方、苦戦しそうなのがホーチミン線だ。大きな理由はまさに本邦初という「以遠権」による運航という点だろう。乗り継ぎ便とは言え、コネクティビティ(接続利便性)は大変良く、ワンストップ便の競争力に不安がある状況ではない。しかし、もともと最大のドル箱路線で高利用率を保つ成田=台北線につなげる路線であるため、この区間の旅客で座席が先に埋まることが考えられる。そのため、高需要期にホーチミン=成田線の旅客のための座席が足りない局面が出てくる。
そこで、新路線の路線採算を保つためにはホーチミン=台北間の旅客を開拓することが必要になるのだが、この"外国地点間の需要開拓"は「日本クオリティ」をアピールするだけでは台湾・ベトナム人への有効な需要喚起効果にならず、大手でも難しいものである。商品造成や法人・団体客の開拓などは現地代理店任せではうまくいかないので、バニラエアとして現地に入り込んでマーケティングを展開するなど、大きなパワーを割かねばならなくなる可能性がある。
ANAも今後、ミャンマーの新航空会社「Asian Blue」が立ち上げれば同じ問題に直面するだろうが、本拠地ミャンマーのパートナーなどの協力が得られる分まだやりようがある。バニラエアの「外地販売戦略」において、ANA海外支店との実効ある連携やサポートが得られるかがポイントになると思われる。
バリューアライアンスが抱える課題
このほか、5月に設立されたLCCアライアンス(バリューアライアンス)が今後どううまく機能できるかという問題もある。乗り継ぎ他社便も一括して予約・決済ができる仕組みだが、予約システムの機能が各社広く構築されているわけではなく、現在ウェブ画面で他社便接続のチケット購入システムはまだ完成していないようだ。
また、他社便とのコネクティビティはほとんど考慮されておらず、何より手荷物のスルーチェックインが現時点では行えない。そのため、乗り継ぎ地で一旦イミグレーションを通って入国した上で、新たに搭乗手続きをしなくてはならない。使い勝手はまだ悪く、アライアンスが実効的な需要増につながるかは心もとない状況にとどまっている。
一方、バニラエアにとっては直接競合にもなるタイガーエア台湾がバリューアライアンスに加盟していないが、直接競合はずっと残るものだ。12月25日開設の成田=セブ線では、アライアンス内のセブパシフィック航空との競合が発生している。ここはむしろ、同じ路線でのアライアンス仲間を増やし、連携を強化してお互いの以遠路線も含めたコードシェアを行う方が便数利便やネットワークの競争力が高まり、双方にプラスの相乗効果をもたらすと考えるがどうだろうか。
バニラエアは国際線比率が高く、区間ごとの運航距離がピーチ、ジェットスター・ジャパンよりも長いため、座席キロあたりコストでは6円程度とLCCでは最も低い一方、旅客キロあたり収入(イールド)が低い構造になっている(2015年度実績)。為替と燃料価格にもよるが、前年同様の環境だと平均利用率が80%を切ると赤字に陥ることが考えられ、販売・営業力の強化が今後の事業進展には不可欠であろう。
次回は、黒字継続が課題とされるジェットスター・ジャパンである。
筆者プロフィール: 武藤康史
航空ビジネスアドバイザー。大手エアラインから独立してスターフライヤーを創業。30年以上に航空会社経験をもとに、業界の異端児とも呼ばれる独自の経営感覚で国内外のアビエーション関係のビジネス創造を手がける。「航空業界をより経営目線で知り、理解してもらう」ことを目指し、航空ビジネスのコメンテーターとしても活躍している。スターフライヤー創業時のはなしは「航空会社のつくりかた」を参照。