「この法律で定める労働条件の基準は最低のものである……」
労働基準法第1条にはこのように書かれています。
つまり、労働基準法(以下、労基法と言います)は最低の基準を定めているものですので、基本的にはこれを下回る労働条件で働かせることはできないのです。したがって労基法は、契約上、立場が弱い「労働者」を保護するための法律ともいえるのです。
中には「うちは労基法をしっかり守っているのでホワイトだ!」なんて胸を張って言い切る社長を見かけますが、"やって当たり前"のことをしているだけなので、そうそう威張るような事ではありません。まあ、世の中には最低基準すら守ろうとしない企業もありますので、そちらに比べればよっぽどホワイトかもしれませんが。
労基法は、その内容も様々で、労働条件の明示方法や、労働時間、休憩、休日、休暇のルールから解雇のルールまで本則のみで100条以上に及んでいます。例えば賃金については、(1)通貨で、(2)労働者に直接、(3)その全額を、(4)毎月一回以上、(5)一定期日を定めて支払わなければならないと決められています。ですから「うちの給与は2カ月に1回」なんて会社は労基法に違反しているのです。
1. 使用者と労働者
労基法では労働者を「職業の種類を問わず、事業又は事務所に使用される者で、賃金を支払われる者」と定めています。これに該当すれば労働者なので、国籍や年齢、性別はもちろんのこと、契約期間の有無などパーソナリティや雇用形態によって区別されることはないのです。
したがって、日雇い労働者や派遣労働者であっても労働基準法の保護対象となっています。よく、学生アルバイトの中には「学生には年次有給休暇はない」と思い込んでいる、もしくは教えられている人がいますが、当然のことですが労基法上の労働者ですので、要件さえ満たせば年休の権利を得ることができるのです。
一方、労働者に該当しない例としては、法人の役員やいわゆるフリーランスと呼ばれる業務委託契約などがあります。これらは労働者ではない為、労基法の保護は受けられません。なお、インターンシップの場合は、使用従属関係(使用されているかどうか)や賃金の支払いなど実習の実態を踏まえて判断されます。
使用者は「事業主又は事業の経営担当者その他その事業の労働者に関する事項について、事業主のために行為をするすべての者」と定められています。ここで注目すべきは「事業主のために行為をするすべての者」というところです。
これは「経営担当者」いわゆる社長をはじめとした役員以外でも使用者になる可能性があるということです。つまり、労働者にも、使用者にも該当する可能性があるということです。昨今、労基法違反で「直属の上司を書類送検」するケースがあります。社長や役員でもない管理職が、使用者として罰則を受ける可能性があるということです。
2. 労働条件の明示
労基法は労働条件の中でも最低基準を定めたものです。したがって、具体的な労働条件は「労基法そのまま」ではなく、労働契約や就業規則により定められています。これらの優先順位としては(1)労基法(2)就業規則(3)労働契約の順になっています。
つまり、労基法や就業規則を下回る労働条件を定めている労働契約は無効となり、その部分については就業規則もしくは労基法の基準に自動的に引き上げられるというわけです。なお、労基法を下回る就業規則も同様に自動的に引き上げられるのです。
たまに「本人と同意の上」という理由で、残業代を支払っていないような使用者がいますが、たとえ本人と同意の上、その旨、労働契約を締結したとしても、そもそも労基法に違反しているのであればその部分については無効となり、残業代の支払い義務は免れないのです。
「聞いていた話と違う」
条件に納得して会社に勤め始めたものの、後になったら条件が変わっていたという事例もあります。そこで、労基法では使用者に対して労働者へ労働条件を明示する義務を課しています。そして明示すべき事項は、必ず明示しなければならない絶対的明示事項と定めをする場合には明示しなければならない相対的明示事項に区分しています。具体的には次の通りです。
絶対的明示事項
(1)労働契約の期間に関する事項
(2)期間の定めのある労働契約を更新する場合の基準(期間の定めのある労働契約であって、その労働契約の期間終了後に労働契約を更新する場合がある契約に限る)
(3)就業の場所、従事すべき業務に関する事項
(4)始業、終業の時刻、所定労働時間を超える労働時間の有無、休憩時間、休日、休暇、労働者を二組以上に分けて就業させる場合における終業時転換に関する事項
(5)賃金の決定、計算及び支払いの方法、賃金の締切り及び支払いの時期、昇給に関する事項
(6)退職に関する事項(解雇の事由を含む)
相対的明示事項
(7)退職手当の定めが適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算及び支払いの方法、退職手当の支払いの時期に関する事項
(8)臨時に支払われる賃金、賞与等、最低賃金に関する事項
(9)労働者に負担させるべき食費、作業用品などに関する事項
(10)安全及び衛生に関する事項
(11)職業訓練に関する事項
(12)災害補償及び業務外の傷病扶助に関する事項
(13)表彰及び制裁に関する事項
(14)休職に関する事項
以上になりますが、(1)~(6)の絶対的明示事項(昇給に関する事項を除く)については書面により明示しなければいけないことになっています。なお、書面の名称は「労働条件明示書」「雇用契約書」など様々です。会社によっては就業規則を交付することによって 大部分を賄うこともあります。
ちなみに、明示された労働条件が事実と相違する場合には、労働者は即時に労働契約を解除することができます。さらに、就業のため住居変更していた労働者が契約解除の日から14日以内に帰郷する場合には、使用者は帰郷旅費を負担しなければならないのです。
※画像と本文は関係ありません
著者プロフィール: 大槻智之(おおつき ともゆき)
特定社会保険労務士/大槻経営労務管理事務所代表社員 1972年4月東京生まれ。日本最大級の社労士事務所である大槻経営労務管理事務所代表社員。株式会社オオツキM 代表取締役。OTSUKI M SINGAPORE PTE,LTD. 代表取締役。社労士事務所「大槻経営労務管理事務所」は、現在日本国内外の企業500社を顧客に持つ。また人事担当者の交流会「オオツキMクラブ」を運営し、220社(社員総数18万人)にサービスを提供する。