古今東西で「黒いもの」ときたとき、「タイヤ」と答えて不正解になる心配は、まずありません。クルマのタイヤは黒いものと相場は決まっているからです。でも、なぜタイヤは黒いのでしょうか。輪ゴムなんかは、けっこうカラフルですよね? モータージャーナリストの内田俊一さんに聞いてみました。

  • トヨタの「2000GT」

    クルマのタイヤは黒ばかり。一体なぜ?

コピー機のトナーと同じ色!?

「カーボンブラック」と呼ばれる黒い炭素をご存じだろうか、これは直径3~500nm程度の炭素の微粒子で、コピー機のトナーやプリンターに黒色の着色材として使われている。ここでお気づきの方もいらっしゃるかもしれないが、このカーボンブラックがタイヤの黒色の正体だ。タイヤを作るとき、ゴムの強度を高めるためにカーボンブラックを混ぜ込んでいるのである。タイヤメーカーのブリヂストンによる解説は以下の通りだ。

「輪ゴムなどのゴム製品は、生ゴムに硫黄を混ぜて加熱することで強度を高めています(これを加硫という)。しかし、クルマの重さを支えたり、エンジンの力を路面に伝えたりする役割を担うタイヤに使われるゴムには、非常に大きな力がかかるため、加硫だけでは十分な強度を得ることができません。そこでゴムにカーボンブラックを加えることで、ゴムの強度が飛躍的に向上し、タイヤとしての性能を発揮できるようになるのです」

カーボンブラックには紫外線を吸収する能力もあるため、耐久性も向上するそうだ。

  • 三菱自動車の「コルト ギャラン」

    タイヤの黒はカーボンブラックの黒だった

タイヤの進歩

ここで少し、タイヤの歴史を振り返ってみよう。

いまのような空気入りの自動車用タイヤは、1905年頃には標準品になっていた。発明者はアイルランドの獣医であったJ.B.ダンロップ氏と伝えられ、息子の自転車を乗り心地のよいものにしようと考案したタイヤが最初であったという(諸説あり)。ミシュラン兄弟が1895年の自動車レースで使用したことから、空気入りタイヤは一躍有名になっていった。

近年はタイヤもさまざまな進化を遂げている。ひとつは「シリカ」の配合だ。シリカとは二酸化ケイ素からなる白い粉体のこと。タイヤに配合すれば転がり抵抗を下げ、ウェット性能を上げる効果を得られる。

では、シリカをたくさん入れることができれば、より性能の高いタイヤができるかというと、そう単純な話でもない。絶妙な配合の比率と、ほかの配合材とのバランスが重要なのだという。その割合については各タイヤメーカーにノウハウがある。

  • ミシュランのビバンダム

    タイヤの配合については各メーカーにレシピがある

ここまで、タイヤは黒いものという前提で話を進めてきたが、では、別の色のタイヤを作ることはできないのかというと、そうでもない。実は「カラータイヤ」というものがあり、黒以外のカラフルなタイヤも存在する。

さらにいうなら、初期の空気入りタイヤやそれ以前のタイヤは天然ゴムで作られていたので、色は鉛色や白であった。しかし、前述の通りカーボンブラックを使うようになったことから、タイヤは黒くなったのだ。

近年はシリカの配合が増え、カーボンブラックは性能向上というよりも、着色のために混ぜるものとしての意味合いが強くなってきたといわれている。そんな中で着色材を使ったカラータイヤも生まれているのだが、まだ耐久性や性能面で確立していない部分があることから、主流になるには至っていないのが現状である。