クルマのボディタイプにはセダン、ワゴン、シューティングブレークなどさまざまな名称がありますが、今回は「ファストバック」を取り上げます。この言葉、気になり始めたのはマツダが「MAZDA3」を発表してからで、「ハッチバックじゃないの?」と思った覚えがあります。ファストバックとは何なのか、モータージャーナリストの内田俊一さんに聞きました。
正直にいって、「こうだからファストバック」という明確な定義はない。例えばMAZDA3のファストバックも、「これとハッチバックは何が違うの?」と問われると、たぶん誰も答えられないだろう。そこで、ある程度の例外はあるということを大前提としつつ、概念としてお話をしよう。
まず、大きな特徴はクーペスタイルであるということ。つまり、ルーフラインがなだらかにリアに向けて傾斜していくスタイルである。ただし、トランク部分がきちんと分かるようにデザインされているのではなく、あくまでもリア後端まで一筆書きのように流れているものを指す。テールゲートの有無は問わない。
具体的に、クルマを例に説明しよう。アウディ「A5/S5」だ。
S5はきちんとトランクスペースが確保されていることが外観からも明確にわかるので、こちらはクーペ。一方で、A5 スポーツバックはどこからトランクが始まるか外観からあまり想像できないので、ファストバックといっていいだろう。
ただし、あくまでもこれは概念的な説明であり、見る人それぞれに解釈できるのが厄介なところではある。
さて、以前、「リフトバック」という名称があったのをご存じだろうか。1970~80年代にトヨタ自動車「セリカ」や「カローラ」などにあったボディタイプだ。2ドアのファストバックスタイルで、テールゲートを備えたクルマをそう呼んでいた。
特にセリカリフトバックの場合、なだらかなファストバックスタイルの典型といえよう。一方のカローラはルーフ後端に明確な角があるため、どちらかというとハッチバックの派生というニュアンスが見て取れる。ほぼ同時代のクルマである6代目「スカイライン」には、テールゲートが備わった5ドアハッチバックがあった。日産のディーラーが、「我々は、リフトバックではなくハッチバックと呼びます」と名称を強調していた記憶がある。
あくまでもファストバックはノッチがない、つまり、折れ、切欠き、段差がないボディタイプの総称と捉えてもらえればいいと思う。