近年、メルセデス・ベンツが「CLA」や「CLS」などに「シューティングブレーク」と呼ばれるボディタイプを登場させ、話題となっています。このシューティングブレークとは一体、どんなクルマを指す言葉なのでしょうか? いまいちよくわからなかったので、モータージャーナリストの内田俊一さんに聞きました。
ルーツは狩猟用のクルマ?
「シューティングブレーク」という言葉の語源をたどるとイギリスにたどり着く。貴族が狩り(シューティング=shooting)をするため、犬を乗せて狩場に向かうのに作らせた特別な「ワゴンスタイル」(英語でブレーク=brake)のボディタイプがシューティングブレークだ。
諸説あるが、初期の形はクーペあるいは4ドアサルーンをベースに2ドア化し、リアにテールゲートを加えたスタイルだった。その床面にはウッドがはられていることが通例だ。貴族たちが自らのロールスロイスやベントレー、あるいはアストンマーティンといった高級車をコーチビルダー(イタリアでいうカロッツェリア)に持ち込み、1台1台ワンオフで作らせた。
従って昔のシューティングブレークは、現代の新車のようにカタログモデルとして販売されていたものではなく、オーダーした人たちの好みをそれぞれが反映していたので、各車が個性的だった。例えばピクニックテーブルを内蔵していたり、ライフルをキレイに収納できるような設えがなされていたりするクルマもあった。
いずれにせよ、スペシャリティなクルマである。先ほど「犬を乗せて」と書いたが、イギリス人にとって犬は家族以上の存在といわれているので、同じクルマで移動するのは当然のことなのだ。あるいは、犬専用のクルマを用意する場合もある。獲物をしとめた時は、執事か誰かがランドローバーなどで付き添っているだろうから、そこに積んで帰ってくることになる。
ここで本来のシューティングブレークを定義するならば、
・4ドアサルーン、あるいはクーペがベース
・2ドア
・テールゲート、あるいはガラスハッチがある
ということになる。
メルセデスのシューティングブレークは、この定義に当てはまらない。そもそも、ドアの枚数が違っている。ではなぜ、メルセデスはこれらのクルマをシューティングブレークと呼ぶのか。実は、何人かのメルセデスのデザイナーにこの質問をぶつけてみたのだが、明確な答えは得られなかった。
彼らの話を総合すると、メルセデスにとってシューティングブレークは新たなボディタイプであり、背の低いクーペスタイルのワゴンをデザインする中で、過去のボディタイプを振り返った際に、シューティングブレークが目に入ったとのことだ。まさに、彼らが求める新しいスタイルに近いことから、その名が与えられわけだ。つまり、背の低いスポーティーなスタイルのワゴンが、メルセデス流のシューティングブレークなのである。
クルマの世界ではボディタイプの細分化が進んでいる。流行りのSUVを見ても、「Gクラス」や「ジムニー」のように箱型のものから、「GLCクーペ」や「カイエンクーペ」などのように自らクーペを名乗るような車種まで、その形はさまざまだ。ワゴンにだってボクシーなものがあってもいいし、スリークかつスタイリッシュなものがあってもいい。そうした中で生まれたのが、現代のシューティングブレークなのである。