「毎日のように怒ってしまう」「言うことを聞いてくれなくて困る」「夫(妻)と育児方針がかみ合わない」……などなど、育児に悩みは尽きません。特に、毎日忙しく過ごしている共働き夫婦なら尚更でしょう。

ここでは、育児中のマイナビニュース会員に"育児の悩み"についてアンケートを実施。寄せられたお悩みに対して"どのようにすべきか"を、NHKの育児番組でキャスターを務めた経験を持ち、現在は育児のセミナー講師や書籍執筆なども行っている天野ひかりさんに、アドバイスしてもらいます。

  • 子どもへの「教欲」を気を付けるべき理由


3大欲求に加え、4つ目が「教欲」と言われることもあるほど、自分が知り得た情報や獲得した知恵などを人に教えたくなる欲求が人には備わっているそうです。教える側は良かれと思ってのことですし、教えてもらう側もありがたいと思うので、人間ならではのコミュニケーションだと思うのですが、子育てに関しては、少し注意が必要です。

今回は「子どもにいくら教えてもできるようになりません。どうしたらいいのでしょうか」というご相談に、親子コミュニケーションアドバイザーがお答えします。

教えた人はできるようになる

子どもにいろいろ教えることが自分の役割だと思い込んでいるお母さんお父さんは多いでしょう。

しかし、自分に置き換えて考えてみてください。何かを教えてもらったからといって、すぐにできるようにはならないことも多いのではないでしょうか。また実際に自分で問題に直面して必要に迫られ、初めて腑に落ちる経験をされた方も多いと思います。

もしかしたら子どもたちも教えられたことを理解はしていても、経験が少なく腑に落ちていないためになかなか身につかず実行に移せないのかもしれませんね。では、どうしたらできるようになるのでしょうか。具体例で見てみましょう。

「自分のものくらい自分で片付けなさい!」これは、子どもにいくら教えてもできるようにならないことの上位に入る悩みです。

しかしこの悩みは子どもに限ったことではなさそうです。書店に「片付け」に関する本や指南書がたくさん出回っているのは、小さい頃からずっと言われ続けて大人になっても、依然として片付けができるようにはなっていない証拠でしょう。

興味深いことに、「これはここに片付けてね」「この本は上の棚に並べようね」「靴下はこうたたんで、ここにしまおうね」とお母さんが子どもや家族に教えると、なんと教えたお母さんがどんどん片付けられるようになっていきます。

なぜなら、お母さん自身がきれいに整頓された部屋をイメージして片付け方を具体的に考え、言葉にしてわかるように教えているからです。しかし、教えられた子どもや家族は、お母さんと同じようにはできるようになりません。整頓された部屋をイメージしたわけでもなければ、片付け方を自分で考え出したわけでもないからです。「片付ける」という作業を教えられただけでは、できるようにはならないのですね。

この方法は学校の授業でも行われ、効果が実証されています。たとえば、算数の問題を解けた子どもがその解き方を友だちに教えると、教えた子の成績がどんどん伸びていったそうです。

そのため、最近では先生が全員に教えるという受け身の一斉授業のスタイルではなく、子ども同士が教えあったり話し合ったりする形に変わってきています。このスタイルにすることで、全体の学びが深くなっているそうです。つまり能動的に取り組んでこそ力を発揮するということだと思います。

子ども自身に教える経験をさせよう

これを家庭の中にも取り入れましょう。お子さんにやり方を教えてもらうのです。最初は変なやり方や、回りくどい説明で教えられるかもしれません。しかし頭ごなしに否定したりダメだしをしたりするのではなく、子どもが自分で考え出したことに感心しながら教えてもらえるといいですね。

つまり、子どもが自分自身でより的確に教えられるように考えて、その過程でできるようになっていくことが大切です。なぜなら人は教わることより教えることが好きだからです。子どもが得意気に教えてくれた時こそ、子どもの力になると信じて教わりましょう。

歯がゆいし癇に障るという声も聞かれますが、「愚者は教えたがり、賢者は学びたがる」という言葉があるように、人生経験が長く賢い親が、おもしろがって子どもから学べるといいですね。子どものうちに教えたがる経験をたくさんし、やがて賢者に育って欲しいものです。

そしてもうひとつ。「うちの子は教えたらすぐにできるから大丈夫」という一見すると育てやすいお子さんも気になります。もちろん、1をきいて10わかる子もいるのでそういう場合は問題ないのですが、大人になっても教わる側から抜け出せなくなってしまうともったいない気がします。ずっと教え続けることはお互いに大変です。

将来自分で考えて教えることのできる力を持った大人になるために、親子の中でそういう体験をできる場を、日常的に増やしていけるといいのではないでしょうか。