「毎日のように怒ってしまう」「言うことを聞いてくれなくて困る」「夫(妻)と育児方針がかみ合わない」……などなど、育児に悩みは尽きません。特に、毎日忙しく過ごしている共働き夫婦なら尚更でしょう。

ここでは、育児中のマイナビニュース会員に"育児の悩み"についてアンケートを実施。寄せられたお悩みに対して"どのようにすべきか"を、NHKの育児番組でキャスターを務めた経験を持ち、現在は育児のセミナー講師や書籍執筆なども行っている天野ひかりさんに、アドバイスしてもらいます。

  • 相手の立場になって考えられる子に育てるには?


新しいことに挑戦できる子や挫折しそうなときに努力できる子は、ベースに自己肯定感が育っていると言われています。自分で自分のことを信じて行動できるからですね。

先日お母さんから「自分のことばかりではなくて、相手の立場になって考えられる子になって欲しいのですが、どうしたらいいのでしょうか」というご相談がありました。これは本当に大切な力ですが、育てるには逆転の発想が大切です。どうすればいいのか、親子コミュニケーションアドバイザーがお答えします。

子どものエンパシーを育てる

相手の立場になって考えられる力は共感力「エンパシー」と言われていますが、これがあれば地球全体が平和になると思うほど、大切な力だと私は思います。自国や自分の立場だけでなく、相手や相手国のことを想像できる力があれば、差別や戦争もなくせるかもしれませんね。

お母さんお父さんは我が子に相手を思いやる力を持って欲しいと願っています。しかし、「言われた相手の立場になってよく考えてごらん! と、いくら子どもに言い聞かせても、理解しているのかわかりません」と不安になってしまう方が多いようです。

先日、駅で中学生くらいの女の子が待ち合わせに遅れたらしく「ごめんね! 待っててくれてありがとう。ここ暑かったよね、大丈夫?」と息を切らしながら謝っていました。待たされた女の子も「大丈夫だよ。何かあった? 大変だったね」と答えている会話を聞いて、少しほっこりしました。なんでもない会話のようですが、私を含めこれを言える大人に今までほぼ会ったことがありません。

大人でも遅れたときに「ごめんね。今朝ね……、電車が……」など言い訳を先にまくしたててしまって、相手がどんな思いで待っていたのかまでとっさに気遣うことは難しいでしょう。その中学生を見ていて、年齢関係なく相手の立場になって考える力は身に付けられるのだと思いました。

では、どうやって身に付けられるようになるのでしょうか。

親が子どもの立場にたって話しかけよう

相手の立場で考えられるようになるには、自分のことを認めてもらった経験が大切だと言われています。なんだか逆のように思えますね。一見、自分のことは後回しにして相手のことを考える力のような気がしますが、子どもはかけてもらった言葉を真似してできるようになっていきます。

つまり、お母さんお父さんが自分ではなく、子どもの立場にたって話しかけていくことが子どものエンパシーを育てる上でとっても大切なのです。

親はつい子どもに「また宿題もお片付けもせず、ぼーっとしてないでお手伝いくらいして」と思ってしまいますが、これは親の視点。子どもの立場になれば、学校であった駅ごとに、悔しかったり悲しかったりいろいろな思いを抱えて悩んでいるのかもしれないですね。まずは親自身が子どもの立場になって言葉をかけることからスタートしましょう。

子どもは「ぼーっとしてないでお手伝いして」と言われたら、「僕だっていろいろあるし、ぼっとしてるわけじゃないし、今からやろうとしてたし……」と自分のことを正当化することばかりを考えてしまいます。相手(この場合はお母さん)のことを考える余裕は生まれにくいのです。

しかし、「今日学校で何かあった?」と優しく寄り添ってもらえたら、「ううん、べつに」と言いながらも、「自分をわかってくれるお母さんがいる」という安心感から力をもらうのではないでしょうか。そしていずれ、誰かにも「何かあった?」と相手の気持ちに寄り添い、相手の立場を気遣えることばをかけられるはずです。

そしてもうひとつ大切ですなのが、自分と子どもという"タテ"の関係だけでなく、お母さんとお父さん、兄弟や祖父母同士などの"ヨコ"の関係のなかで、相手の立場を尊重する会話を見せることです。夫婦や家族の会話も、子どもはとてもよく聞いて、影響を受けているからです。

自分の大変さをわかってもらうことばも大切ですが、相手(妻・夫)の立場に立って話す会話を子どもがどれだけ聞いて育つのかによって、子どものエンパシーも変わります。

夫婦の間で「私の大変さを少しでもわかってよ」と思ったら、まずは相手の大変さを想像できるようになりたいものです。「あなたも今日1日大変だったのね。お疲れさん」と伝えましょう。

「そんなに大変なら、家事を手抜きすれば」と思ったら、「君も忙しいから、代わりに洗い物しておくね」と伝えましょう。

相手が嬉しいだけではなくて、それを聞いている子どもは、相手の立場に立つことが当たり前となって自分の力にしていくはずです。

子どもに「相手の立場になって考えなさい」と言い聞かせるより、日常的に、相手を気遣う会話を聞く方がずっとその力が育つには早いのです。

実はこの共感する力「相手の立場にたって考えられる力(エンパシー)」は、冒頭に書いた「1.新しいことに挑戦できる力」「2.壁を乗り越えられる力」に加え、自己肯定感を育むと発揮される3つめの力だと言われています。

まさに、子ども自身が認められることで相手を認めることができるようになり、認め合う会話を聞いて育つことで実践できるようになるのです。