屋内の「端と端」をつなぐなら……

ここ数年で急速に一般化した「無線LAN」。ほとんどのノートPCに標準装備となったほか、任天堂DSやPSPなどのゲーム端末、デジタルカメラに至るまで、小型で携帯が容易なデジタルガジェットの多くが無線LAN対応となった。統計資料を確認したわけではないが、ブロードバンドルータを買い換えるとき、多くのユーザが無線LANアクセスポイント (AP) として機能する機種を選択したのではなかろうか。

しかし、無線LANも万能ではない。2.4GHz帯という高帯域の電波は直進性が強く、波長も12cm程度と短いため、屋内にある大部分の物体が通信の障害物となりうる。鉄筋コンクリート造はもちろん、木造建築でもAPから離れてしまえば、通信速度の低下はてきめんだ。家の中心部にAPを設置できるならともかく、部屋割りの都合などで家の端にAPを置かねばならぬ場合、さほど広くない家でも"無線LANの死角"が生じてしまう。

コンセント直結型のPLCアダプタ「PLC-ET/MW」シリーズ(アイ・オー・データ機器)

鉄筋コンクリート造のマンションに暮らす筆者も、その例にもれない。APがある書斎の隅とリビングの定位置との間は十数メートル、途中にはコンクリートの壁と木製の扉2枚がある。IEEE 802.11gの速度は出ず、5Mbpsがやっとというところ。Apple TVでYouTubeを楽しもうとしても、バッファリングによる中断ばかりで興ざめしてしまう。

そこで目を付けたのが、PLCアダプタ。従来の据置型はスペースをとるため常用するには至らなかったが、今年に入り続々とコンセント直結型が登場。このタイプならば場所をとらないうえ、無線LANに比べ通信は安定、しかも親機&子機のセットで1万円台と入手しやすい。アイ・オー・データ機器のご厚意により、間もなく発売の「PLC-ET/MW」シリーズを試用する機会を得たので、ここに紹介させていただく次第。

MacBookのACアダプタと比較してみたところ。これならリビングにも使える

小さく、速くなったPLCアダプタ

屋内の電力線を通信回線に流用する技術「PLC」には、HD-PLCとUPA、HomePlug AVの3種類がある。HD-PLCは松下電器が開発 / 推進する規格で、現状チップは松下の単独供給となっていることから、今回紹介するPLC-ET/MWシリーズにも松下製チップが搭載されている。スペック的には、今年4月に発売されたPanasonic PA300と同等と考えていいだろう。

最大の変化は、やはりその形状。本体サイズは55×90×36mm、重量も約130gと大幅に小型化されたことにより、コンセント直結が可能になった。部屋を移動するときにも、それほどジャマにならない大きさだ。

従来のHD-PLC機器との違いは、形状の変化にとどまらない。新型LSIの採用により、通信速度が80Mbpsから90Mbps (UDP方式、SmartBits測定値) へと約11%向上、動画など大容量データに対応しやすくなった。消費電力も4Wから3Wに低減、子機は無通信状態が約20分続くと1W以下の省電力モードへ移行するという新機能も追加。耐ノイズ性能の改良により、最大通信距離も150mから200mへと延長されている。

差し込んでボタンを押すだけ

このPLC-ET/MWシリーズ、小型化され設置場所を選ばなくなった (コンセントの確保は必要だが) こともさることながら、セットアップの容易さがうれしい。親機と子機を同じコンセントに差し込み、ボタンを押すだけで準備OKなのだ。ランプの点灯で設定終了を確認したあと、親機をルータ / ハブに、子機を液晶テレビやPCに、それぞれEthernetケーブルで接続すればいい。IPアドレスの設定は不要、PCの知識も必要なし。データはAES 128bitで暗号化され、同じ電力線以外からは接続できないため、無線LANでいう"野良AP"の心配もない。

最初は親機のボタンを押す

続いて子機のボタンを押し、両方の「PLC」ランプが点灯すれば準備完了

ルータやPC、各種デジタル家電とはEthernetケーブルで接続する

工事不要で高速&安全な有線LANを構築できるPLCアダプタ。STBなどのデジタル家電用にお勧めだ

気になる通信速度だが、NTT東日本Bフレッツ / マンションタイプを利用している筆者宅で、「gooスピードテスト」を使いテストしたところ、ふだんは無線LAN (IEEE 802.11g/b) で5Mbps前後という通信速度が約23Mbpsにまでスピードアップ。体感速度も大幅に改善され、YouTubeを視るときのイライラもほぼ解消された。ちなみに、Ethernet 100BASE-Tでルータ接続しているマシンは55Mbps前後。ノイズの有無や電力線の状態など環境にもよるのだろうが、無線LANより高速かつ安全な屋内LANがかんたんに構築できることは確かだ。

以上、当コラムにしては当たり障りのないレビューとなってしまったが、コンセントに差しボタンを押すだけというライター泣かせのかんたん設定ゆえに仕方のないところか。ともかく、ルータから離れた位置にApple TVなどのセットトップボックスを置いているユーザには、費用対効果の高いデバイスであることは間違いない。

○アイ・オー・データ機器
PLC-ET/MW 」シリーズ」
機能 ★★★★
価格 ★★★★★
楽しさ ★★
怪しさ ★★
衝動買い ★★★★
TOTAL ★★★★