【あらすじ】
コマガール――。細かい女(ガール)の略。日々の生活において、独自の細かいこだわりが多い女性のこと。細々とした事務作業などでは絶大な力発揮をするが、怠惰な夫や恋人をもつとストレスが絶えない。要するに几帳面で神経質な女性。これは世に数多く生息する(?)そんなコマガールの実態を綴った笑撃の観察エッセイです。

結婚してから一番変わったことは何か? 人にそう訊かれたら、僕は「子供がかわいいと思えるようになった」と答える。自分でも驚くような心境の変化だ。

正直、独身時代は子供に興味がなく、親戚や友達の子供と接する機会があっても、一緒に遊びたいなどとは思わなかった。それどころか、得体の知れない子供の心がまったく読めないため、そういう謎の生き物に対して、どんな表情及び口調をしていいかもわからなかった。だから、どうせ戸惑うぐらいなら「触らぬ神に祟りなし」の精神で、子供とは距離を置いたほうがいいと考えていた。子供も子供で、そんな僕の割り切った胸中が読めるのだろう。目線を下げないオジサンには無理に近寄らない、つまり懐いてこない。かくして、独身時代の僕と子供の間には、米ソ冷戦のような微妙な空気が流れていたのだ。

誤解を恐れずはっきり書くが、造形としての子供(ヴィジュアル面)に関しても、僕の中に「かわいい」という感情はほとんどなく、友達に自分の子供の写真を嬉しそうに見せられても、リアクションに困っていた。いつだったか、仕事でお世話になっている方の家で、子供の運動会のDVDを延々2時間見せられたときは、生き地獄を感じたものだ。

あのころの自分を思えば、まさに劇的な変化だ。結婚という二文字は、未熟で自由気ままな独身男に一家の主たる自覚を芽生えさせるのか、昨年の夏ぐらいから僕の中に少しずつ、だけど着実に自分だけの家族、すなわち「子供のいる家庭の風景」を求める気持ちが湧いてきた。平たく言えば、最近の僕は子供が欲しくてたまらないわけだ。

ただし、欲しいからといってすぐに授かれるほど簡単ではなく、また後先考えないで無鉄砲に子供を作ってしまうのもどうかと思うため、現段階ではなるべく冷静かつ慎重に考えている。いずれにせよ、新米夫婦にとってはデリケートな問題である。

そうなってくると、人間とは一方的な想いだけがますます膨らんでいくもので、最近の僕の頭の中は子供に対する渇望と羨望にすっかり支配されている。かつてはあれだけ興味がなかった子供の造形にも胸がときめくようになり、それはすなわち、他人の子供のことも心の底から「かわいい」と思えるようになったということだ。

たとえば電車の中で子供たちがはしゃいでいる光景に出くわすと、思わず目尻を下げて相好を崩してしまう。たとえば近所の幼稚園の小さなグラウンドで大勢の子供たちが遊んでいる光景を見かけると、思わず立ち止まって柵越しに眺めてしまう。もちろん、変な意味ではございません(念のため)。けど、通報されないように気をつけます。

中でも我ながら一番大きな変化は、テレビの中の子役たちに対する気持ちである。かつての僕は子役というものにまったく興味がなく、子役が出るバラエティ番組やドラマ、CMなどに目が留まることもなければ、数年前に大ブームを巻き起こした加藤清史郎くんや大橋のぞみちゃんに対しても、どこか冷ややかだった。以前、仕事の関係で子役時代の神木隆之介くんと接したことがあるが、そのときも前述の冷戦的な対応に終始した。

ところが、である。恥を承知で、あえて稚拙な表現をするが、最近は芦田愛菜ちゃんや鈴木福くんといった今が旬の人気子役のことが、もう本当にかわいくて、かわいくて、テレビの前で無意識にデレデレしてしまうのだ(気持ち悪いですね、ほんと)。

そんな僕のデレデレぶりは妻のチーも呆れるほどで、テレビに芦田愛菜ちゃんが出演しているCMが流れれば、思わず目が釘付けになり、鈴木福くんがバラエティ番組で愛嬌を振りまけば、無意識に「かわいいなあ」と呟いてしまう。マルモリダンスもおおいに結構だ。いやはや、我ながら気持ち悪い。いよいよカウンセリングが必要かもしれない。

したがって、昨年ごろから増えてきた、二人に対する"アンチファン"の存在が気になって仕方ない。テレビで人気者になると、アンチが増えるのは世の常だが、それは子役に対しても容赦がないようで、やれ子供らしくない、やれ完璧すぎて不自然だ、やれ優等生を強いられているようで気の毒だ、などといった批判的な意見も少なくない。子供特有の無垢な笑顔と愛嬌が最大の魅力である一方で、インタビューの受け答えなどで見せる子供らしからぬ対応力と語彙力に、いちいち冷や水を浴びせているわけだ。

正直、そういうアンチファンは無粋だと思う。ニーズを理解し、それに的確に応える姿は、確かに子供らしくないかもしれない。しかし、そもそも間違ってはいけないのは、彼らは人気"子供"ではなく、人気"子役"なのだ。つまり、役者としてメディアに登場しているわけであり、したがって公の場では世間(この場合、クライアントが中心)から求められる理想的な子供を演じていると考えるのが妥当だろう。立派な演技力だ。

また、子供にまでわざわざアンチ精神を出さなくていいじゃないか、という不快感もある。余計な詮索をすることなく、「なんでもいいじゃん、かわいいじゃん」といった直感的な言葉だけで子役を語るほうが粋というものだ。テレビ・芸能は表の文化であり、大義的には広告メディアだ。人気子役は、完璧すぎる表の子供でいいわけだ。

なんだかとりとめもなくなってきたので、このへんで終わりにする。昔は子供に興味がなかった人間が急に子供好きになると、こんなに盲信的になるのか。自分が怖い。

<作者プロフィール>
山田隆道(やまだ たかみち) : 作家。1976年大阪府生まれ。早稲田大学卒業。おもな著作品に『雑草女に敵なし!』『Simple Heart』『阪神タイガース暗黒のダメ虎史』『彼女色の彼女』などがある。また、コメンテーターとして各種番組やイベントなどにも多数出演している。私生活では愛妻・チーと愛犬・ポンポン丸と暮らすマイペースで偏屈な亭主。チーが几帳面で神経質なコマガールのため、三日に一度のペースで怒られまくる日々。
山田隆道Official Blog
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