【あらすじ】
コマガール――。細かい女(ガール)の略。日々の生活において、独自の細かいこだわりが多い女性のこと。細々とした事務作業などでは絶大な力発揮をするが、怠惰な夫や恋人をもつとストレスが絶えない。要するに几帳面で神経質な女性。これは世に数多く生息する(?)そんなコマガールの実態を綴った笑撃の観察エッセイです。

去る1月2日の夜、大阪の実家に帰省していた僕は、地元の幼馴染み4人が集う新年会に出席することになった。4人の幼馴染みは全員同じ年の男性で、昔も今も変わらず大阪で暮らしている。ちなみに、そのうち3人が既婚者、さらに子供をもつパパである。

その前日、僕は一緒に帰省していた妻のチーに言った。

「明日の夜は地元の新年会があるから、帰りが遅くなると思う」。

このとき、実は内心ドキドキしていた。たった数日しかない貴重な正月休みだけに、たった1日でも僕が1人で夜遊びに行くと知ったら、チーは憤慨するかもしれない。

ところが、実際は意外な反応だった。もっとも、僕の一人遊びに賛成してくれたわけではない。なぜか嬉しそうな笑顔を見せながら、さも当然かのようにこう言ったのだ。

「いいねえ、新年会。私は何を着ていけばいい? 」

こいつ、自分も参加しようとしている――。僕は思わず面食らった。

きっと他のみんなは、新年会に男1人だけで参加してくるはずだ。特にそう決めたわけではないのだが、それが暗黙の了解なのは間違いない。したがって、僕1人だけが妻を同伴させるわけにはいかないだろう。もし同伴させるなら、みんなに了解をとらなければならず、なんなら彼らもそれぞれの妻子を連れてきてもらいたい。僕らにとって妻子同伴の飲み会とは、事前にそういう口約束をしたうえで開催するものなのだ。

しかし、チーの解釈は違った。

「なんで、私は参加しちゃいけないの? 夫婦なんだから自然なことじゃん」。

これはすなわち、飲み会における暗黙の了解の意味、あるいは自然と不自然の価値観の違いだろう。僕はその飲み会に事前の約束が何もない場合、暗黙の了解として単なる男飲みだと解釈するのが自然だと思っているが、チーは家族がいるなら家族も同伴させるのが暗黙の了解であり、自然なことだと解釈しているわけだ。

チーの考えは、ともすれば欧米的なイデオロギーに近いと思う。欧米の既婚男性は、なんらかの食事会があるときは特に約束をしていなくとも妻子を伴うのが自然であり、もし男1人だけで参加したら、周囲に「家族とうまくいっていないんじゃないか? 」と勘繰られることすらあるという。したがって既婚女性もチーのように、夫に連れ添うのが自然だと考えているのだろう。もちろん、あくまで一般論です。悪しからず。

例えば、アメリカに滞在する日本人男性のよくある失敗談の1つにステーキの小噺がある。アメリカのホームパーティー文化に倣って、日本人男性が現地の友人を家に招いた際、庭にセットしたグリルで奥さんにステーキを焼かせたところ、招かれたアメリカ人夫婦の顔色がみるみる変化し、その日本人男性を激しく非難したというのだ。

アメリカではステーキを焼くことと庭の芝刈りは夫の役目であり、いかなる理由があろうとも、それを怠ると顰蹙をかってしまう。既婚男性は周囲に対して、自分がいかに妻子を大事にしているかをアピールしなければならず、こういった事象にこそ欧米特有のいわゆる家族信仰型社会の典型が垣間見える。だから、欧米人には恐妻家が多いのだろう。

一方の日本はさしずめ組織信仰型社会だと思う。妻子の大切さをアピールすることよりも、自分が属する組織のバランスを守る、あるいはそこに忠誠するという意識のほうが強いのではないか。今回の新年会の場合、僕はチーを伴って参加することが嫌だったわけではなく、自分1人だけ妻を同伴させることで、場の空気や組織のバランスを壊すことに抵抗を感じたのだ。だってほら、あとで他のみんなから「おまえだけ、勝手に嫁を連れてくんなよなー」と非難されるかもしれないじゃないですか。それが怖かったのです。

こう書くと、日本男性に比べ欧米男性のほうが愛に溢れており、一見美しいと思うかもしれない。実際、欧米文化を好むタイプの日本人女性は「だから、日本人の男ってダメなのよねー。やっぱり欧米の男がいいわ」などと口にすることが多い。

しかし、これは優劣の問題ではなく、単なるイデオロギーの違いにすぎないと思うのは僕だけか。個人の自由が、社会的なプレッシャー(つまり世間からの非難)によって制限されているという点においては、家族信仰も組織信仰もまったく変わらない。要するに男性が大事にするものという大義名分のもと、実際は情けないことに恐れているだけだという対象が「家族の目」であるか、それとも「組織の目」であるかの違いだ。古今東西、人間の多くは第三者の目を気にしており、それは決して悪いことじゃないのだ。

ところで、結局僕はどうしたかという話を最後に少し。

チーの押しに負けて、彼女を同伴させるという家族信仰を選択しました(やれやれ)。

もちろん、他のみんなには事前に了解をとりつけ、特に大きな問題になることなく、新年の宴を楽しむことができた。みんなは内心、気を遣っていたかもしれないが。

だからといって、僕が立派な夫であるということではないと思う。幼馴染みたちの目よりも、妻からのプレッシャーのほうがはるかに大きかっただけなのだ。

<作者プロフィール>
山田隆道(やまだ たかみち) : 作家。1976年大阪府生まれ。早稲田大学卒業。おもな著作品に『雑草女に敵なし!』『Simple Heart』『阪神タイガース暗黒のダメ虎史』『彼女色の彼女』などがある。また、コメンテーターとして各種番組やイベントなどにも多数出演している。私生活では愛妻・チーと愛犬・ポンポン丸と暮らすマイペースで偏屈な亭主。チーが几帳面で神経質なコマガールのため、三日に一度のペースで怒られまくる日々。
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