【あらすじ】
コマガール――。細かい女(ガール)の略。日々の生活において、独自の細かいこだわりが多い女性のこと。細々とした事務作業などでは絶大な力発揮をするが、怠惰な夫や恋人をもつとストレスが絶えない。要するに几帳面で神経質な女性。これは世に数多く生息する(?)そんなコマガールの実態を綴った笑撃の観察エッセイです。
早いもので、チーと結婚して2カ月以上が経過した(チーとの出会いは「ちょっとダメ系? 恋するB型男子」をお読み下さい)。結婚前に引っ越した新居マンションでの生活にもずいぶん慣れてきた。執筆業の僕とOLの奥様・チー、そして完全なる愛玩犬のポンポン丸(オスのポメラニアン)との平凡な暮らしである。
そんな山田家の一日はチーの出勤準備から始まる。僕は在宅仕事のため、基本的に通勤というものがなく、山田家では夫が家にいて妻が外で働くという一般的な夫婦生活とは逆の光景が繰り広げられている。ポンポン丸にしてみれば、昼間のパパはいつもと何も変わらないという印象だろう。僕のほうが"専業主夫"だと思っているのかもしれない。
だから我が家では「いってきます」の多くはチーの言葉であり、「おかえりなさい」の多くは僕の言葉だ。ちなみに「いってらっしゃい」と僕がチーに声をかけることはあまりない。チーが出かけるとき、僕はまだ寝ていることが多いからだ。(夜型なのです)
ところで、毎日のように家の書斎にこもって駄文を書きつづるという仕事は、肉体的には楽かもしれないが、精神的には結構きついものだ。人間の集中力なんて、どう頑張ってもせいぜい数時間が限界である。だから、昼間の僕は仕事の休憩がてら、よく部屋の掃除やキッチンの洗い物に精を出している。ちょうどいい気晴らしになるからだ。
しかし、チーはこれをあまり快く思っていないから厄介だ。特にキッチンは、チー曰く妻の城であり、男には易々と手を触れてほしくないのだとか。男は家事のことなんか気にせず、ひたすら仕事に没頭していればいい。今まで何度そう言われたことか。
また、もうひとつの理由として、チーは僕の洗い方が気に入らないらしい。
何事もマイペース且つ大雑把な性格の僕(血液型はB)に対して、チーは家族全員が血液型A型というA型界のサラブレッドである。それとどこまで関係があるのかはわからないが、少なくともチーがA型のイメージに違わず、何事も神経質で几帳面な、いわゆる細かい性格の持ち主であることは確かだ。僕は勝手に"コマガール"と呼んでいる。
キッチンに関してもそうだ。"コマガール"のチーには物の配置から整理の仕方、洗い物の方法に至るまで、実に細かいこだわりがたくさんある。だから、僕がいつもの調子で豪快な洗い物をすると、チーは「洗い方が違う!」といちいち機嫌を損ねてしまう。チー流の正しい洗い方ができないのなら、下手に動くなというわけだ。
ちなみに、チーが推奨するこだわりの洗い方とは以下の通りである。
まず、使用するスポンジの種類がすごい。グラス・コップ用、お皿・茶碗用、鍋・フライパン用、魚を焼くときの網専用、焦げとり用、シンク用、洗い桶用、犬の食器用と、なんと全部で8種類。それらをきちんと使い分けなければならないのだ。
これが僕にはかなり厳しい。独り暮らしをしていた頃は、スポンジとタワシをそれぞれ一種類ずつしか使っておらず、約15年間もそれで通してきたため、いきなり8種類も使いこなせるわけがない。大体、犬の食器用って一体なんだ。シンク用と洗い桶用は、さすがに一緒でいいんじゃないか。正直、それぞれの用途を覚えるだけでもひと苦労だ。
また、洗い方にも以下のような独自のこだわりがある。
- 大きい物から順に洗っていき、すすぎの時間をやたらと長くしなければならない。(チー曰く、僕のすすぎ時間は極端に短いらしい)
- コップ類とお皿類を同じ洗い桶に一緒に入れてはいけない。(コップ類に油がつくことを嫌うから。僕としては、それも洗い落とせばいいじゃん、と思うけど)
- 傷みやすい木製食器は水につけておくことさえ御法度。(以前、僕がその禁を破ってしまったときは、血が出るぐらい怒られた)
- タッパーは洗い終わってからアルコール消毒を欠かさない。(匂いがとれるらしい)
そして、とどめは漂白癖である。
どういうわけか、チーは布巾類やコップ類などをかなりの高頻度で漂白するのだ。
この高頻度というのはどれくらいかというと、平均して一日一回ぐらいである。当然そのたびに布巾類が真っ白になり、コップ類も底の茶渋などが綺麗に落ちるわけだが、そのときのチーのリアクションがこれまたすごい。
「うわっ、白っ!!」いちいち大袈裟に感動するのだ。
ここまできたら、ただの漂白好きだと思う。綺麗にするしないの問題ではなく、おそらくチーは漂白という行為そのものに、ある種の快感を求めているのだろう。
要するに、僕が仕事の気晴らしに洗い物をしたければ、これらを完璧にマスターしなければならないのだ。正直、これが非常に難しい。おかげで最近の僕は「洗い物をしたいけど、したらしたらでプレッシャーに苦しむ」という奇妙な悪循環に陥っている。
「できもしなくせに洗い物をするな!」
「男がキッチンに立つな!」
かような言葉で、妻に怒られる夫。普通は褒められるところだと思うけどなあ。
<作者プロフィール>山田隆道(やまだ たかみち)
作家。1976年大阪府生まれ。早稲田大学卒業。おもな著作品に『雑草女に敵なし!』『Simple Heart』『阪神タイガース暗黒のダメ虎史』『彼女色の彼女』などがある。また、コメンテーターとして各種番組やイベントなどにも多数出演している。私生活では愛妻・チーと愛犬・ポンポン丸と暮らすマイペースで偏屈な亭主。チーが几帳面で神経質なコマガールのため、三日に一度のペースで怒られまくる日々。
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