30代後半で結婚してない女は、高望みしすぎてる? 選びすぎてる?

「35歳で、結婚相手には年収850万以上を望んでおり、親との同居は拒否」みたいな、誰が出したのかわからない「釣り書き」に対して、よく非難の声が上がる。

「高望みすぎるんじゃない?」「こんな、いもしないような相手を待ってるから婚期逃しちゃったのに、何も学習してないんだね」「そんな男が相手にしてくれるほど、自分に価値があると思ってるの?」「男の方だって、そんなそこそこ選びたい放題みたいな状況だったら、もっと若くてかわいい女と結婚したいでしょ」……。

それが、自分に向けて言われた言葉ではないことぐらいわかっている。第一、自分はそんな条件は挙げていない。けれど、「ああ、女でこの年齢だと、こういう『査定』をされるわけですね」という事実は、心を重くする。そして、まるで仮想敵国のようにして「30代後半で結婚してない女は、高望みしすぎてるんだ」「選びすぎてるから結婚できてないんだ」とばかりに、非難めいた視線を向けられる。

30代後半にもなって、自分の女性としての市場価値が目減りしていることにも気付かずに「結婚したいなぁ」とぼんやり言ってるような女は、自分が見えていないバカな女か、戦略のないバカな女なのだと、絶えず言われているような気分が、私にはある。

「要は、する気がないんでしょ?」も、よく言われる言葉だ。「どういう人がいいわけ?」と訊かれて、パッと答えられないと「ビジョンがない」「条件も考えたことがないなら、紹介のしようもない」「要するに、本気で相手を探すことなんて考えてないんでしょう?」というわけだ。

「もしかして、『自然な出会い』が欲しいとか思ってるわけ?」とせせら笑われたことだって何度もある。そう言ってくる相手は、だいたい「自然な出会い」で結婚しているくせに、だ。見合いだの婚活だの、自分のしなかったこと、できなかったことを簡単に他人に勧めてくるって、どういう神経なのか私にはよくわからない。結婚してないだけで、相手がいないだけで、こんなにもバカにされる機会は、多い。

恋愛が結婚と切り離せない、女としての自信もグラグラ揺れる

30代後半になると、恋愛は結婚の問題と切り離せなくなってくる。男性からしたらそこが「重い」のかもしれないが、女性にしてみれば、自分が子供が産めるか産めないか、人生の重大事がかかっているのだ。本人にとっても、こんな問題が軽いわけがない。

ただ、好きな相手を見つけるだけでも難しいのに、結婚まで考える相手を見つけるとなると、難易度のハードルはぐっと上がる。

その一方で、自分の女としての自信は、グラグラ揺れる年齢だったりする。恋愛対象として見てもらえるのか。おばさんが張り切ってると思われるんじゃないのか。自分で自分をおばさんだなんて思ってなくても、客観的にはどうなのか、自信がなくなる。こんな状態で「恋愛」なんて、すごく難しいんじゃないか、と思う。

「どうやって結婚に至ったんですか?」の答え

その一方で、「彼氏ができない」と悩んでいた人が、ふっと結婚していく場合がある。「どうやって結婚に至ったんですか?」と訊いてみると、だいたい答えは似ている。

「たまたま、私のような変な女を好きだと言ってくれる、物好きな人がいたんです」

「決してモテたわけじゃなくて、なんかふと、気の合う人に会えて、トントン拍子に決まっちゃったんです」

私が聞いていて、一番ぐっと来た答えは、これだ。

「相手は、来た電車にとりあえず乗るタイプだったんです。来た電車が、たまたま私だったんだと思います」

もちろん、気に入っていなければ結婚までしないだろうが、「運命的な出会い」とか「条件」とか「作戦」とかじゃなく、「なんとなく、お互いそういうタイミングで、しっくり来てしまった」例として、すごく納得できる例えだった。

実際、恋愛というのは、そういうものかもしれないと思う。選ばれた人にしか得られないチャンスなのではなく、結婚までした人でさえ、「自分はたまたま、そういうチャンスがあっただけで、他の人と何も変わらない」と思っていたりする。

もちろん特別な努力をして、恋愛や結婚に至る人もいるだろうが、自分の周りを見る限り、わりと「たまたまこうなった」的なことを言う人のほうが多い印象だ。それは誰にでも起こり得ることだと思う。ただ、「絶対に誰にでも起こる」とは言えない。だから難しい。いつまでもいつまでも待って、なにも起こらないことだってあるかもしれない。

のんびりチャンスを待ちたいが、猶予がない。出産や結婚を諦めてもいいのなら、猶予はあるのかもしれないけれど、それを「諦めます」と言える人も少ないだろう。「今はいいや」と思っていても、この先絶対に後悔しないとは言い切れないからだ。

自信を奪おうとする他人から自分を守って

30代後半は、ただでさえ難しい時期なのに、こんなふうにグラグラ揺れる。そんな年齢の女たちに対して、自分の価値がわかってないとか、戦略が足りなかったんだとか、バカにするような発言をする人の気が知れない。

手に入れることができなかったものの重さを、誰よりも知っている女たちにそんな言葉を向けて、何が楽しいのだろう。そうやって追い詰めて、状況が良くなることがあるのだろうか? 私には、ただでさえ弱っている女から、さらに自信を奪おうとしているようにしか見えない。

恋愛に年齢制限はない。「フランスでは~」とかの話じゃなくて、本当にない。いくつになってもしてる人はしている。ついでに「女」にも年齢制限はない。「女」をやめなければいけない年齢なんてない。

自分自身と向き合っているだけでも自信を失いそうになることなど山ほどあるのに、他人から自信を奪われるなんて、そんなことは、あってはいけないことだ。自分の大事なものを、無責任な世間の意見によって奪われないよう、大切に守ってほしい。

<著者プロフィール>
雨宮まみ
ライター。いわゆる男性向けエロ本の編集を経て、フリーのライターに。著書に「ちょっと普通じゃない曲がりくねった女道」を書いた自伝エッセイ『女子をこじらせて』、対談集『だって、女子だもん!!』(ともにポット出版)、マイナビニュースでの連載を書籍化した『ずっと独身でいるつもり?』(KKベストセラーズ)、『女の子よ銃を取れ』(平凡社)がある。恋愛や女であることと素直に向き合えない「女子の自意識」をテーマに『音楽と人』『SPRiNG』『宝島』などで連載中。最新刊は、『東京を生きる』(大和書房)。

イラスト: 冬川智子