民間宇宙旅行がいよいよ本格的になってきた。といってもまだまだ宇宙旅行の価格は高く富裕層向けであることには違いない。
しかし、着実に一般向けの宇宙旅行になるべくステップを踏んでいる、そんな印象がある。
2021年7月20日のBlue Originの飛行、そして同年9月15日SpaceXの飛行で、最年少、最年長、片足が義足のがんサバイバー(今回の場合は元がん患者)が宇宙旅行へと飛び立った。今回は、そんな内容について紹介してみたいと思う。
最年長&最年少の民間人の宇宙旅行の成功事例!
2021年7月20日、Blue Originは「New Shepard」という宇宙船において、高度100kmを超える宇宙旅行に成功している。
New Shepardの飛行経路は以下のようなものだ。
New Shepardは、ロケット型の輸送機で打ち上がる。上部のクルーカプセルは、高度100kmのカーマンライン付近で分離する。分離後は、New Shepardのブースター部分は地上へと垂直着陸帰還し再利用される。そしてカプセルは、微小(無)重力状態を経て、パラシュートを開き地上へと着陸する。
そのNew Shepardに搭乗していたのは4名。Blue Originの創設者のジェフベゾスが搭乗していたのは周知だろうが、今後の宇宙旅行にとって大切な事例となる搭乗者がいる。
その一人は、Wally Funk氏。82歳の女性で宇宙へと飛んだ最年長だ。そして、もう一人、Oliver Daemen氏。18歳の男性だ。
Wally Funk氏は、1960年代に宇宙飛行の訓練を受けた人物で「Woman in Space」というプログラムに参加している。「Mercury 13」という宇宙飛行士になるために訓練を受けていた13名の女性のうちの1人だ。結果的にこのプログラムでは、Wally Funk氏は宇宙へと行くことはできなかった。その後、女性初となるアメリカ連邦航空局(Federal Aviation Administration:FAA)の検査官や米国運輸安全委員会(National Transportation Safety Board:NTSB)の航空安全調査官として職務を全うした人物だ。
最年少のOliver Daemen氏は、自家用パイロット免許を取得している人物。現在はUtrecht Universityで物理学とイノベーションマネジメントを専攻しているという。
彼らは、打ち上げの数日前に訓練を開始。そして、連邦航空局(FAA)のルールに準拠した座学、デモンストレーション、トレーニングカプセルでの練習といった合計14時間のトレーニングを2日に分けて受講。それらのメニューの終了後に、最終試験を受けパスしているという。
がんサバイバーが宇宙旅行へ!
2021年9月15日、SpaceXは「Inspiration4」という民間人4名のみで宇宙旅行を実施するというミッションを実施。「Falcon9」ロケットの先端に取り付けられた宇宙船「Crew Dragon」は3日間地球低軌道を周回し、同年9月19日無事地球に帰還。
このミッションの主宰は、決済処理ソリューションを提供しているShift 4 Paymentsの創業者兼CEOのJared Isaacman氏。自費でCrew Dragonをチャーターし、公平な選考のもと、自身のほかに無名の3人を搭乗者として選定し招待しているのだ。
搭乗者の1人には29歳のHayley Arceneaux氏が選ばれた。子どものころ、骨肉腫と診断され、小児科病院で治療を受け、片足に義足を取り付け日常生活を送っている。つまり義足で宇宙へと飛び立った初めての人物となった。現在は、医師の助手として勤務しているという。
彼らは、半年も前から訓練を開始し、シミュレータートレーニングを何時間も受けたり、ジェット機の飛行の訓練をしたり、遠心分離機を使ったGに耐える訓練などを実施したという。
では、これらの民間人の宇宙旅行にどのような意義、意味があるだろうか。
まず、18歳から82歳まで民間人が、サブオービタル旅行であれば比較的気軽に宇宙旅行へと行けることが世界へと発信されたと感じる。旅行前の訓練も2日に凝縮されているが、今後の一般の多くの人にとって大きなハードルとはならなさそうな印象がある。
そして、SpaceX。Inspiration4では、無作為に公平に民間宇宙飛行士を選定したと報じられている。これも重要な意味があると感じる。
無作為に選定した人でも宇宙へと飛び立ったのだ。さらに、がんサバイバーで義足を装着した人も訓練を行い、問題なく宇宙へ行ける、そのような実績も作ることができたのだ。
いかがだっただろうか。
従来から、NASA、JAXAなどの宇宙飛行士の訓練は過酷。宇宙へは、厳格な健康チェックを突破できる選ばれし超優秀な人物しかいけないフィールドであった。
しかし、今回のBlue OriginとSpaceXの宇宙旅行でこの概念は変わった。
今回のBlue OriginとSpaceXでは、サブオービタル旅行と地球低軌道周回旅行とで、旅行の種類が異なるので、訓練の内容ももちろん異なってくるだろう。訓練内容の詳細は、別の機会にゆずるとして、今後もさまざまな境遇のかたが搭乗できるという実績を人類は積み上げていくことだろう。
つまり、宇宙旅行がある意味”一般化”されていくのだ。価格の課題もまだまだあるが、早急な低価格化、それを待ちたい。