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近所をブラブラ、略して「近ブラ」。
遠くに行かなくても、家の近くに魅力的なスポットは意外とたくさん見つかるもの。
街の老舗店や新しくできたカフェ、ディープな路地裏のお店など、ちょっとそこまで出かけてみては?
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「文豪の街」としても知られている谷根千。夏目漱石に森鴎外、高村光太郎など多くの文豪が住み、また江戸川乱歩「D坂の殺人事件」をはじめ小説の舞台にもなってきた。
そんな本に縁のある街に、本好きの人たちに一目置かれる有名な書店がある。根津神社のほど近く、不忍通り沿いにある往来堂書店だ。
1996年創業の往来堂書店は2つの顔を持つ。ひとつは地域に密着した小さな街の本屋さんという顔。普段使いの本屋として、地元住民を中心に平日はお年寄りや子ども連れ、休日は社会人の利用も多い。
そしてもうひとつが、本好きの聖地という顔だ。
独自の視点で仕入れる本のセレクトショップ
なぜ往来堂書店が本好きたちの心をつかんで離さないのだろうか。その秘密は、独自の品揃えにある。
「店のモットーは『棚は管理するものではなく、編集するものである』。取次にはあまり頼らず、おもしろそうな本を自分たちで選んで発注しています」
と話すのは、店長の笈入(おいり)建志さん。
一般的に書籍の流通は、出版社から取次業者を通じて全国の書店へ配本される。取次は書店の規模や売り上げによって自動的に配本数を決めるため、書店が希望しない本が入ってくる場合もある。
「どこでも売れる本は取次にお任せした方が楽ではあります。ただ、任せっきりにしてしまうと、どの書店に行っても変わらなくなってしまう。それは、お店にもお客さまにももったいない。もっとお店のカラーを出して一軒一軒が違う品揃えにすれば、隣の書店とも差別化できます。そうやってお客さまに目的に応じてお店を選んでいただきたいです」(笈入さん)
特に力を入れているジャンルは人文や芸術関連。基本的に、仕入れは取次や出版社の新刊案内を参考に、各担当が決めていく。新刊でなくとも、担当が読んでおもしろかったものを仕入れることもある。
TwitterやFacebookなどSNSやメルマガにも力を入れ、オススメの本を紹介。「自分がいいなと思ったものがお客さんにも興味を持っていただけるとやはりうれしいですよね」(笈入さん)と話すように、スタッフの「これを売りたい!」という熱意が伝わってくる。
「文脈棚」で新たな知識の扉を開こう
独自のセレクトを際立たせる工夫として、並べ方にもこだわりがある。関連する分野の本を集めて陳列する『文脈棚』という方法だ。
「テーマを決め、それに関する本を集めます。大型書店なら、漫画コーナー、専門書コーナーなど、各売り場に行く必要がありますが、文脈棚の場合、興味をもってくれた人はそこを見れば1カ所でわかる。スーパーで『お鍋フェア』としてお鍋の材料やスープ、薬味が置かれているような感覚ですね。テーマは、なんとなく僕が知りたいこと(笑)。1人目のお客さんになったつもりでやっています」(笈入さん)
文脈棚は店内の各所に設置。2週間に1回くらいのペースで作り、売り上げの動きを見ながら変更していく。実際、新たな文脈棚を楽しみに訪れる常連客も多い。
「大きな本屋の場合、目当ての本があり、ここに行けば買えるだろうという気で来る人が多いでしょう。もちろんお客さまのニーズには応えたいのですが、スペースに限りがあります。それならばこちらから提案して、ここに来ておもしろい本に出会い、買っていただけるようになればと思います」(笈入さん)
「不忍ブックストリートMAP」片手に街を歩こう
谷根千には新刊書店、古書店、図書館などの本に関する施設が多いことから、本で街を盛り上げようと「不忍ブックストリート」という活動が行われている。関連の店舗では、付近のカフェや雑貨店、ギャラリーなどをまとめたイラストマップ「不忍ブックストリートMAP」を無料で配布。往来堂書店はその中心となり、店内での配布はもちろん、地図の製作や広告営業なども行っている。
「新刊本、古本にかかわらず、本が好きというのは同じ気持ち。この地図を片手に街の魅力を感じてほしいと思います。新しい発見がきっとあるはずですよ」(笈入さん)
素敵な本との出会いはもちろん、街の新たな魅力にも気づかせてくれそうな往来堂書店。一度訪れてみてはいかがだろうか。