令和という時代があなたに求める「考える力」
「令和」という新しい響きの時代を迎え、希望を見出せたかのように見えたのもつかの間、日本は今、大きな停滞の渦の中にいます。
仕事の生産性を上げ、その渦から脱出していくために今いちばん必要なことは、新しい価値を生み出し、未来を切り拓くことを可能にする「考える力」を鍛え直すことです。
「考える力」というものは、「答えが一つではない問い(拓く問い)」に向き合い続け、試行錯誤を繰り返しながら培われていくものです。つまり、「拓く問い」に本気で向き合えば向き合うほど、必然的に、より本質に向かって「ものごとの意味や目的、価値」を考え抜くことを自らに課し続ける状態になっていくのです。
私たちがまず、取り組まなくてはならないことは、「考える力」を養う「仲間と一緒に拓く問いと向き合う機会(拓く場)」を社内に豊富に設けることです。
費やす労力や時間は、「新たに生み出す価値の大きさ」で決める
仕事の生産性を上げるには、新たに生み出す価値の大きさでその仕事の比重を変え、費やす労力や時間を決めていくことが必要です。
「まったく新たな価値を生む仕事ではない」と判断したときは、費やす時間を可能な限り少なくする、という判断が求められます。同様に「やっておく必要はあるが、それほど新たな価値を生み出すわけではない」と考えられる仕事は、可能な限りシンプルにさばく、という判断をするということです。
従来と同じように単に仕事をさばくだけなら、置かれた前提のもとで「どうやるか」を考える「枠内思考 」で十分ですが、可能な限りシンプルにさばくとなると、「意味や目的、価値」を考え抜く姿勢を常に持ち続ける「軸思考」が有効に機能していないとうまくいきません。
そうした整理ができて初めて、新たな価値を生む仕事に十分な時間を費やすことが可能になるわけです。そのためには「仕事の価値を判断できる能力」が必要ですが、それを身につけるのは実のところ簡単なことではありません。その能力は、日頃から、「拓く問い」に向き合い、「意味や目的、価値」を常に考え抜く姿勢を持っていてこそ養われるものだからです。
仕事の価値を判断できる能力は、「枠内思考」と「軸思考」を使い分けることにも通じ、仕事の生産性を上げるために非常に重要な意味を持ちます。
問題を抱えている自分だからこそ、進化できる
仕事の価値を判断し、優先順位をつけて時間を使うことができれば、自分が自由に使える 時間を取り戻すことも可能になります。それは、自分の人生を取り戻すということでもあり、人間らしく自分の頭を使って考える生き方ができる、ということをも意味しています。
そうした生き方を実現していくために、私が大切にしている価値観があります。それは、人間らしい生き方は、「自ら変わり続けていこう」という姿勢を常に持ち続けることで実現するという考え方です。
まずは、問題を抱えている自分を認めることからスタートです。自身の持つ問題を自ら見つけ、それを変えていこうという姿勢が"進化"をもたらします。世の中に問題を抱えていない人などいません。私が大切にしているのは、完成された立派さではなく、立派になるために努力をし続けること。私はその姿勢を“進化”と呼んでいるのです。
それは「何かを成し遂げたい」という思いがあってこそ可能になるものです。そのような前向きな気持ちを自分の中に持っていることが、仲間たちと「拓く問い」に向き合いながら、困難な仕事を成し遂げようとする際に有効に働くのです。
私たちが持てる力を発揮し、働く人生を豊かにするために
では、前向きな気持ちであるために必要なことは何でしょうか。
「自分自身を信頼できる自分になること」というのが、企業変革のさまざまな場面で多くの人を見てきた私の“仮説”です。「進化し続けていく自分を信頼すること」と言い換えてもいいかもしれません。そのためにはまず、「自分の中の問題点を見つけ、自分を変えていこうという姿勢を持つこと」が必要です。
私にも問題点はあり、振り返れば失敗の多い人生だったと思っています。自信をなくすことも幾度となくありました。それでもいつも気をつけていたのは、「自分と自分のまわりの人の強みを発見しよう」という姿勢を持ち続けることです。
ここで言う「強み」というのは、学歴とか生まれとかいった形式的なものを指しているのではありません。「強みを発見しよう」というのも、長所であっても短所であっても、自らの特性を「強み」に変えていこうとする姿勢のことです。
そんな「強み」を新たに発見するには、「何をめざすか」も含め、「ものごとの意味やそもそもの目的、もたらす価値」を考え抜くことができる自由な思考力、つまり"軸思考"が欠かせないのです。
「私たち日本人が持っている力を何としてでも発揮できる世の中にしていく」ために必要 なことは、無自覚に行ってしまっている思考様式である「枠内思考」という現代の思考停止を、まずは自覚することです。そして、必要に応じて「枠内思考」から抜け出すために、「拓く問い」と「拓く場」の重要性を強く認識し、活用することで一歩を踏み出すことです。
新しい価値の創造が求められる令和の時代に、日本と日本企業が何よりも必要としているのは働く私たちの「考える力」です。
私たちの働く人生を豊かにし、人間らしい生き方へと至る道は、「自分が働くのはそもそも何のためなのか」などという最も基本的な「拓く問い」と向き合い、考え抜くことから始まるのです。
著者プロフィール:柴田昌治(しばた・まさはる)
株式会社スコラ・コンサルト創業者。30年にわたる日本企業の風土・体質改革の現場経験の中から、タテマエ優先の調整文化がもたらす社員の思考と行動の縛りを緩和し、変化・成長する人の創造性によって組織を進化させる方法論「プロセスデザイン」を結実させてきた。最新刊に 『日本的「勤勉」のワナ まじめに働いてもなぜ報われないのか』(朝日新聞出版)。