ビジネスモデルの転換が現実的な課題となっている令和の今、新たな発想を生むためには、「枠内思考しかできない状態」から抜け出すことが必要です。
従来の価値を再生産するオペレーションを実行する「枠内思考」と、新しい価値の創造に必要な「軸思考」を使い分けて、仕事の質を高め生産性を上げるにはどう動くか。 考えるヒントになる『"軸"についての7つの「仮説」』をご紹介しましょう。
仮説(1)めざすものを持った生き方を志向する
人の生き方には、大きく分けて2種類あるように思います。「めざすものを意識して生きる」生き方と、「何となく漫然と生きる」生き方です。
多くの日本企業では、指示されたことを確実にやり遂げるだけで会社は回る、ということが前提になっていて、上司の指示を"枠"にして、すぐに「どうやるか」から考え始める「思考停止」に陥る傾向があります。
しかし、「めざすものを持って生きる」ことを志向するなら、自分の頭で考えることが不可欠です。なぜならば、「自分は何をめざすのか」ということと向き合い続けなければならないからです。
自らの主体的な意思で目的意識を持って生きる(めざすものを持つ)ということは、仕事と向き合う姿勢を確立することでもあり、自分なりの仕事人生をつくり上げるプロセスの最初の一歩でもあるのです。
仮説(2)タテマエよりも事実・実態を優先する
日本企業の現場では、よく「失敗をしてはならない」という言い方をします。これは、「失敗は起きる」という現実(事実・実態)と乖離したタテマエに通じます。
「失敗をしてはならない」とタテマエを押し付けても、「どうやるか」 にしか意識は向かいません。「なぜ失敗が起こったのか」の究明よりも、守らせるべき規制をどう作るかに集中してしまうからです。
一方で、「人間は失敗する生き物である」という事実を冷静に踏まえた対応があります。これは、事実・実態に即した言い方です。
失敗したときに、タテマエではなく事実・実態を踏まえた姿勢を堅持していれば、「起こりやすい小さな失敗を題材にして経験から学ぶ」といういちばん重要な機会が得られます。失敗を隠す対象から学ぶ対象に変えていくことができるのです。
仮説(3)"当事者"としての姿勢を持つ
"当事者"という言葉は、一般的には、ある事柄に直接かかわる関係者を指しています。ここで私が言う“当事者”とは、その事柄に対して「自分の思いを持ち、主体的・能動的に向き合っている人」「内発的な動機を持っている人」を意味しています 。
例えば、飲み会などで、上司を批判することはよくある光景です。これは、自分が描いている上司の理想像から現実の上司を引き算して、問題点をただ指摘する“評論家”、あるいは"傍観者"としての姿勢です。
この場合の"当事者"の姿勢とは、上司と自分に共通の目的があり、自分自身もその目的に向けて自分なりの思いでかかわっている、という前提がなくてはなりません。
その前提のもとに、上司に対して、目的を達成するための問題意識を、自分を主語にして言える人こそが“当事者”だということです 。
仮説(4)常に"意味や目的、価値"を考え続ける
日本の企業の多くが環境の激変にさらされ、従来のビジネスモデルを転換していく必要に迫られている今、変化に対応する「変化対応能力」が求められています。
私たちに必要なのは、「そもそも自分はこの会社でどういうミッション(使命)を果たすべきなのか」といった「問い」と向き合う機会を持ち、問題の本質を追究する力を鍛えることなのです。
「常に"意味や目的、価値"を考え続ける姿勢」を身に付けることで、新しい価値を生む仕事とそうでない仕事の区別ができるようになります。仕事に優先順位がつけられ、考える時間を捻出する可能性が広がるのです。
仮説(5)"拓かれた仮説"にしておく
「ロジカルな推論で導き出した"結論"を、中身をつくり込んだ設計図に沿った工程で計画的に進捗させていく」のが、効率的な仕事の仕方と言われています。
このプロセスでは、"結論"は「確定したもの」として扱われます。押し付けられた結論ありきでは、「どうせ言ってもムダ」という受け身の姿勢が生まれやすくなります。
必要なのは、主体的な"当事者"としての姿勢です。結論ではなく “拓かれた仮説”にしておくことは、関心を持っている人の意見を織り込むことを可能にします。
その結果、"当事者"として前向きにかかわろうとする部下が確実に増え、「答えを部下と一緒につくり込み、試行錯誤をしながらゴールに向かう」という進め方が可能になってくるのです。
仮説(6)"めざすもの起点"で考える
目的に向かって判断をする際の思考姿勢は、"現状起点"と"めざすもの起点"に分けられると私は思っています。
"現状起点"は、「現状のさまざまな制約条件を考慮に入れ、それをもとにできるかできないかをしっかり考えた上で、目的に向かうかどうかを決める」というものです。安定した組織にありがちな制約条件を先に考える「現状起点の判断」です。
"めざすもの起点"は、「めざしている目的にどういう意味があるのかを掘り下げ、それがもたらす価値を、目的に向かうかどうかの判断をするときの材料にする」というものです。
つまり、意味や価値があるなら、現状はさておき、目的に向かうことを優先し、「どの制約条件を克服すればいいのか」を徹底して考えるということです。
仮説(7)衆知を集めて担当責任者が決める
日本の組織における意思決定は、通常、関係者全員の合意を形成していくプロセスを経て、いちばん上位の人が形式的に決めているのが実態です。この決め方の問題は、誰も本気で「決めた責任は自分にある」と思ってはいないことです。
特に将来の予測を含んだ意思決定をする場合は、誰にも経験がなく、どの意見も「仮説」です。議論は仮説同士のぶつかり合いになり、簡単に決着がつかないのが普通です。従来の合議では、時間はいくらあっても足りません。
意思決定の遅さを解決するのは、「衆知を集めて、推進責任を持つことができる人間が、判断基準をはっきりと示しつつ、責任を持って一人で決める」という意思決定の仕方です。もちろん、「一度決まったら、自分の意見と違っていても、決まった方向で進むことに協力する」というのが最低限のルールです 。
著者プロフィール:柴田昌治(しばた・まさはる)
株式会社スコラ・コンサルト創業者。30年にわたる日本企業の風土・体質改革の現場経験の中から、タテマエ優先の調整文化がもたらす社員の思考と行動の縛りを緩和し、変化・成長する人の創造性によって組織を進化させる方法論「プロセスデザイン」を結実させてきた。最新刊に 『日本的「勤勉」のワナ まじめに働いてもなぜ報われないのか』(朝日新聞出版)。