前回、「炎上の定義」についてお話した。今回は、その定義をもとに、記憶に新しい2016年の炎上の傾向について切り取っていこう。
たった一つの投稿が、国までも動かした!?
「保育園落ちた、日本死ね!!!」
これは、あるユーザーがブログに匿名投稿をした文章のタイトルである。待機児童問題に対し、強い不満を訴えた母親の悲痛な叫びは、瞬く間にSNS上で拡散されて炎上。ユーザー間で「ポジティブ」「ネガティブ」両面の意見投稿がなされ、激しい議論が巻き起こった。さらに、有名タレントがSNS上でこの問題を取り上げたことから、国会でも議論になり、世間に広く知れ渡ることとなる。たった1つの炎上が、国までをも巻き込む事態となったのだ。
そのCMに一言申す!声を上げたユーザーたち
また、こんな特徴的な炎上もあった。それは、企業のテレビCMに対する炎上である。2016年は、女性の容姿や年齢に関することを取り上げたCMがたびたび問題となった。視聴したユーザーたちは、「女性軽視ではないか」「女性差別ではないか」とSNS上で、意見を出し始めて炎上へ発展した。
その結果、企業への苦情が相次ぎ、最終的に企業側がCMの放送停止という結論を出すことになる。早期に放送停止の判断をした企業は、ユーザーの反応を日頃から調査していた、もしくは、SNS上のインシデント対策に力を入れ、社内体制を整えていたと考えられる。
時代とともに炎上も傾向を変える?
前回でも触れたように、以前は、「炎上」させる事を目的とした第三者、いわゆる「炎上仕掛け人」のような人物がSNS上に存在していた。問題投稿(社会的に非倫理的な発言や行動、公序良俗に反するような内容)を見つけ出し、意図的に拡散させた。炎上仕掛け人が、ターゲットにしていたのは、企業に属する社員やその家族が主であった。企業の機密情報や、顧客の個人情報を気軽にSNS上に投稿してしまうケースや、犯罪とも取れるような投稿である。火種は投稿者の「不用意な発言」だった。具体的には、店舗などに「有名タレントが来た」というプライベートな情報の投稿である。
一度炎上をしてしまえば、もう誰にも止めることはできない
そして、問題の投稿をした本人の個人情報が、ユーザーに暴かれ、さらにあらゆるサイトから投稿者の過去の発言までもがピックアップされ炎上を助長していた。この一連の流れは、わずか数時間の間に行われたのだ。
2016年、「炎上」は、時代とともに変化を遂げた!
2016年は特に「炎上」が変化したと感じる。今までは「ユーザーの不用意な発言」が炎上の火種となっていた。しかし、2016年は、「コメンテーター型」、つまり議論され情報が拡散し、炎上に繋がるというケースがほとんどだった。 その要因は、SNSの日常化である。SNSユーザーは年々増加傾向にあり、日常生活に欠かせない一部となり始めた。さらに「炎上」という事象・言葉自体も既に一般化され、傍観者だったユーザーも「炎上」に対して、興味を持ち、企業のテレビCMや広告への意見を投稿しやすくなったのだ。
マスメディアもこれまで以上に「炎上」に関心を示し、報道することで、炎上のスピードも早くなり、一般ユーザーをいっそう誘引する。ひとつの炎上事象に対しさまざまな意見が出る「コメンテーター型」になるのは、「個人の価値観」は多種多様であるからだ。ネガティブとポジティブに意見が分かれてしまうのも当然であろう。賛同・反対などの意見交換も繰り広げられ、さらに多くの炎上が発生し過熱するようなサイクルになってきた。
「炎上」の変化とともに企業も意識を変え出した?
2013年に世間を賑わせた「バイトテロ」をご存知だろうか。バイトテロは、投稿者の行動や発言が「問題である」と誰もが捉え、非難が殺到し炎上していた。バイトテロは、「個人の価値観」に左右されないのだ。
しかしながら、ここ数年、そのバイトテロも激減している。その要因としてあげられるのは企業対策だ。企業側も管理者教育やリスク検知、パトロールなどを始めとした対策を強化し始めた。それにより、バイトテロの炎上が減少していったと考えられる。
各企業が、何らかの対策を取るようになったことで、一定の効果を挙げているとも言える。企業側も単純にリスク投稿を監視・パトロールするだけには留まらない。ユーザーの生の声に耳を傾け、その時々でもっとも効果的な対策を講じるようになっている。
ユーザーの意見が"見える化"されたからこそ、企業は慎重に対策を練らなければならない。「自社へのリスク投稿がなされた」と、そのことだけに注力している企業がいれば体制を整え直す必要がある。ポジティブ・ネガティブに問わず、ユーザーが何を企業に訴えたいのをしっかりと調査しなければならないのだ。
次回は、炎上が発生した場合の企業対策について具体的に触れていきたい。
佐伯朋嗣
大手IT広告代理店にて100名規模のSEM部署、特にSEO領域の責任者やジョイントベンチャーによる子会社の営業統轄を歴任。その後クラウド業界を経て2011年イーガーディアン入社、2015年に取締役就任。 現在はイーガーディアングループ全体の営業責任者として、監視、SNS、広告BPOなど数多くの大型案件に関わる。 企業のSNS使用方法や炎上のメカニズム、その対策などのソーシャル対応や分析を得意とする。