企業の経営層は、過去にどんな苦労を重ね、失敗を繰り返してきたのだろうか。また、過去の経験は、現在の仕事にどのように活かされているのだろう。そこで本シリーズでは、様々な企業の経営層に直接インタビューを敢行。経営の哲学や考え方についても迫っていく。

第7回は、東レグループのアパレル事業会社、ディプロモード 第1事業部部長の西田誠氏に話を聞いた。

  • ディプロモード 第1事業部部長の西田誠氏に「失敗談」「苦労話」を聞いた

    ディプロモード 第1事業部部長の西田誠氏に「失敗談」「苦労話」を聞いた

経歴、現職に至った経緯

まずは経歴について。1970年、愛媛県で老舗和菓子屋の長男として生まれた西田氏。大学卒業後、22歳で東レに入社。それから7年後の2000年、東レとユニクロが共同で製品開発をスタートした際の、出向者第1号として赴任。2年後に東レに帰任する。

当時、東レは糸や生地の素材販売がメイン業務だったが、西田氏はユニクロでの出向経験を生かし、2004年、東レの素材を使用した縫製品のOEM(※)部隊を社内ベンチャーとして立ち上げた。(※自社で製造した製品を、他社のブランドとして販売すること)

それから2019年までの15年間で、国内・海外の大手衣料品アパレル・小売ビジネスを開拓。中国・アセアン諸国・バングラデシュ・インド・アフリカなどの地域の製造工場と協業し、グローバルなサプライチェーン(※2)の構築に精力的に取り組んだ。 (※2 製造から販売までの一連の流れ)

2020年、2度目の社内ベンチャーとして「素材でつなぐミライ」の創造をめざす先端素材商品開発協業プロジェクト“MOONRAKERS(ムーンレイカーズ)”を構想。2022年4月よりディプロモード株式会社にて同事業の本格的な展開をスタートさせた。

会社概要について

続いてディプロモードの会社概要について聞いた。

ディプロモードは、東レグループのアパレル事業会社。従来は、インポートファッションの日本市場への導入・販売や、アパレル企業からのOEM生産を主な業務としていたが、2022年4月より「MOONRAKERS」をメインビジネスとして再スタートを切った。

「東レグループが開発・生産をおこなうサステナビリティに配慮した最新の先端素材を使用した衣服を開発しています。『いままでにない商品』を、『いままでにないスピード』で開発し、『いままでにない広さでのコラボレーション』を実現していきます。この革新的な商品を、生活者のみなさまに直接提供することで、より豊かで快適な生活、『先端素材による未来のファッション』を提案したいという思いで誕生しました」

実はこのプロジェクトには、西田氏の苦い過去の経験が生かされている。

目的を見失っていた、自分に対しての怒り

過去の失敗談を伺うと、あるエピソードを語ってくれた。

「現在の事業を立ち上げる前に、縫製品のOEM生産に従事していました。当初は『先端素材を使用し、世の中を豊かにする商品をアパレル・小売店と共同で生活者に提供する』という目標のもと、事業を立ち上げ、順調に業績を拡大していました」

しかし、取引先であるアパレルや小売店が低価格商品を志向する中で、ビジネスの急激な縮小に直面してしまう。ビジネスの縮小が決まっていた取引先の担当者と会食をすることになったときのことを、こう語る。

「担当者は気をつかい、『西田さんが悪い訳ではない。自分たちも本当は継続したいのだが、コストダウンをしなければ生き残れない。申し訳ないと思っている』と話してくださいました。しかしそれを聞いて、猛烈な怒りがこみあげてきました。それは取引先や担当者に対してではなく、自分自身に対してです。この結果は、言われるがままの“安さだけを追い求めた商品開発”や、“低賃金労働ができる産地を追い求めること”ばかりに自分が囚われていたせいだと気づいたからです」

「自分が当初もっていたはずの、『世の中を豊かにする商品をアパレルや小売店と共同で生活者に提供する』という目的を完全に見失っていました」と後悔をのぞかせた。

失敗を糧に「自分の意思を貫ける仕事をやる」

西田氏は、過去の失敗をこう振り返る。

「失敗に気づいた瞬間から、眠れぬ日々が続きました。OEMでの製造はどうしても供給先の意向に沿った商品設計をしなければなりません。当たり前かもしれませんが、自分自身がどれだけ良いと思い、提案した商品であっても、それを企画決定する権利は生産者側にはないのです」

ビジネスを行う上では誰もが感じるジレンマかもしれない。しかし、西田氏は諦めなかった。

そんな西田氏が悩み抜いた結果、出した答えは「自分の意思を貫ける仕事をやる」ことだった。そして実行するために始めたのが、「MOONRAKERS」である。志を同じくするメンバーを集め、自身の渾身の思いをこめた最新の先端素材を使用して、今までにない商品を作り上げた。

その価値を直接消費者に問いかけるため、クラウドファンディングサイトMakuake(マクアケ)で出資者を募ったのだ。

「“MOONRAKERS”は、志を同じくする方々と作り上げること、本当に突き詰めた商品しか展開しないことをブランドポリシーとしています。2021年にクラウドファンディングを実施した、『キマイラ スキン コート』は、軽さと暖かさ、従来の製品にはないムラ感の『ヴィーガンレザー』が売りの製品です。しかし社内では『こんな商品売れるのか?』といった意見が大半でした」

西田氏には「売れる」という確信があったのか、と聞くと、意外な答えが返ってきた。

「正直に言えば、確信があったわけではありませんでした。皆で『どれくらい売れるだろうか。せめて目標金額(10着分)はいってほしいよね』と話していたくらいです。結果的にはその50倍以上の数が売れました」

自分の意志を貫き、曲げることなく挑戦した結果、プロジェクトは大成功。目標額の50倍以上が集まる大ヒットを果たした。支援者らからの反応を得て、手応えを感じたという。 「クラウドファンディングなど新しいデジタルの仕組みを使ってチャレンジすれば、生活者に商品の価値を直接問うことができます。間違ったときは生活者は反応してくれませんが、そうした反応とも向き合うことでスピード感のある改善をしていけます。今後も、新しい仕組みをどんどん取り入れ、日本のみならず海外に向けてもどんどん挑戦していきたい」と、生き生きと語る。

  • 失敗を糧に「自分の意思を貫ける仕事をやる」

就活生・若手ビジネスパーソンにメッセージを

最後に、就活生・若手ビジネスパーソンに向けたメッセージを伺った。

「“自分の意志を貫く”ということは、青臭い意見だと感じる方も多いかもしれません。しかし私の経験上、“自分の意思を貫いた”結果としての失敗に後悔はないけれど、他人の意見に従った結果の失敗には強い後悔が残ります」と西田氏は話す。

就活生や若手のうちは、親や職場の上司の強い意見にさらされ、自分の意志を見失うことも多いだろう。しかし西田氏は言う。

「反対や逆境を乗り越え、自分の意志を貫いて得た成功の喜びは、誰かの意見に従って得る成功の何倍もの喜びを与えてくれると感じています」

最後に、自分の意思を貫くための秘訣を聞いた。

「私はわりと自分の意志を貫いてきました。それでも大学受験で、周囲の勧めで本当に行きたかった学校とは違う学校を選択した際のことは、今でも思い出すことがあります。『あの時もっと考え抜いていたら違う決断をしたのではないか』、『違う選択をしていたら自分の人生はどうだったのか』という思いが残り続けることになりました」

そしてこう続けた。「人の意見を聞くことも大切です。しかし、自分の人生の最終的な決断は『自分が決める』ことが、他人の意見に従い、後悔する気持ちを抱えて生きるよりいいのではないかと思います。決断に責任を持つためにも、決断を下すまでにたくさんの意見を聞いて、悩み抜くことが大事なのではないでしょうか」

自分の気持ちに素直に、挑戦することの大切さを教えてくれた。