企業の経営層は、過去にどんな苦労を重ね、失敗を繰り返してきたのだろうか。また、過去の経験は、現在の仕事にどのように活かされているのだろう。そこで本シリーズでは、様々な企業の経営層に直接インタビューを敢行。経営の哲学や考え方についても迫っていく。

第3回は、2021年に高校3年生でアロマブランド「souveniraroma(スーベニアアロマ)」を立ち上げた、ノンバーバルのアロマ事業部長 髙橋淳音氏に話を聞いた。

  • ノンバーバル アロマ事業部長 髙橋淳音氏に「失敗談」「苦労話」を聞いた

    ノンバーバル アロマ事業部長 髙橋淳音氏に「失敗談」「苦労話」を聞いた

経歴、現職に至った経緯

まずは経歴について。髙橋氏は2003年、神奈川県川崎市生まれ。アロマテラピーとの出会いは小学4年生のころ、母の日のプレゼントにアロマを楽しむアロマディフューザーを贈ったことがきっかけだったという。

「自分の方がアロマにハマってしまいまして。お小遣いを貯めてアロマグッズを買い始め、自分のオリジナルブレンドを作るまでになりました」

市立中学校を卒業した髙橋氏は、品川区の青稜高等学校の高等部に進学。高校2年生の冬ごろから、本格的にアロマで起業を志すようになる。その背景には、父親の昌也氏が起業したことも関係していた。起業にあたり、髙橋氏は公益社団法人日本アロマ環境協会(AEAJ)のアロマテラピー検定1級に合格。その後、アロマテラピーアドバイザー、アロマブレンドデザイナーと関連資格を次々に取得し、高校3年生のときにアロマテラピーインストラクターに認定された。

現在、髙橋氏は東京理科大学の夜間部・化学科に所属。夜は学生として化学を学び、日中はノンバーバルの事業に取り組む。そのほか、地元・川崎の若者が集まるプラットフォーム「かわさき若者会議」にも所属しているそうだ。髙橋氏は「活動を通して、地域とつながりを作りたい」と語った。

会社概要について

ノンバーバルの会社概要、提供サービスについて、髙橋氏は「主に3つの活動を行っています」と説明する。

まずは、アロマオイル・マスクスプレーなどの製造・小売・卸売事業。厳選された素材を仕入れ、ラベンダーオイルひとつを作るに当たり、十数種類を試すのだという。「ロットによる香りの偏りの差も考慮して選定しています」と髙橋氏。

瓶詰からシールの貼り付け、箱詰めといった製造作業は、福祉事業所「あやめ」に一任している。他の福祉事業所の作業員から「普段はお札ではなく小銭がほとんど。給料袋が軽いとうれしいんです」との言葉を受けたこともあり、適正価格での業務委託を心がけているそうだ。継続して業務を委託していることから、ノンバーバルはかわさきSDGsゴールドパートナーに認定された。

  • かわさきSDGsゴールドパートナーに認定されたノンバーバル

    かわさきSDGsゴールドパートナーに認定されたノンバーバル

2つ目の事業は、ワークショップや体験会などの講師業だ。AEAJは約5万人の会員を有するが、そのうち男性会員は5%ほど。10代は数人から数十人という少なさだ。こうした現状の中で、髙橋氏はワークショップや体験会を企画し、講師として登壇。企画書やプレスリリースの作成や送付先の選定も自身で行い、アロマテラピーの魅力を精力的に発信している。

3つ目の事業は、取引先に対する新事業の提案だ。さまざまな取引先の事業とノンバーバルの事業を組み合わせ、新たな事業、新形態のサービスの開発をすべく、プレスリリースなどでの情報発信に注力しているという。

「同じ商品やサービス内容でも、その中身を多角的に捉えることで、取引先の求めるコンセプトに合致した提案ができると気づきました。読みやすい情報を発信できるよう、日々奮闘中です」

生活リズムの乱れが学業に影響を及ぼした

10代でオリジナルブランドを立ち上げ、精力的に事業に取り組む髙橋氏。しかし、その道のりは順風満帆ではなかった。オリジナルの精油ボトルを世に送り出すまでについて、髙橋氏はこう振り返る。

「初めてボトルに貼るラベルを作ったときに大失敗をしてしまいました。透明なシールに白文字でデザインして印刷したのですが、いざ貼り付けてみると、すべてに気泡が入ってしまったんです。その後、貼り付け作業の手順を試行錯誤しましたが、なかなかうまくいかず。結局、このままでは製品化が難しいと判断を下し、デザインの変更を決定しました」

その後、髙橋氏はシールのサイズの微調整を繰り返し、最終的に製品版として採用されたラベルができあがるまでに、幾度もデザイン・入稿作業・試し刷りを行った。資金援助は受けられたものの、製品化に至るまでには多くの費用が発生したという。

また、高校生で事業を始めたことによる苦労も降りかかった。

「コロナ禍でオンライン授業やステイホームとなり、生活リズムが乱れてしまったことで、学業を疎かにしてしまった時期がありました。とはいえ、私と同じような環境で過ごした同学年の仲間には、目の前の課題にひたむきに取り組み、東京大学や東京工業大学に合格した人がいるのも事実。彼らを思うと、己の自己管理の甘さを痛感させられます」と髙橋氏は語った。

失敗を糧に前進する

製造過程で直面した壁と、環境が変わったことで陥った生活リズムの乱れ。これらから、髙橋氏は何を学んだのだろうか。

まず前者について、髙橋氏は「自身のこだわり」と「投じられる資金・時間」のバランスを取ることの重要性を理解したと語る。

「趣味を事業化させて誰かを巻き込んだ以上、生じる社会的責任を負い、金銭的・時間的な限度を見なければなりません。そうでなければ、必ず破綻してしまう。継続的に売上を作れるようになれば、できることの幅は広がりますから、まずは身の丈に合った範囲内で挑戦し続けることが重要だと学びました」

後者の生活リズムの乱れからは、「目の前のタスクに真摯に向き合うことの大切さ」と「自身の行動を常に2人目の自分が俯瞰できていることの大切さ」の2点を学んだという。まずは「やる」と決めたことに実直に取り組むこと。さまざまなものに中途半端に手を広げることは、必ず自分の首を絞めることに繋がると髙橋氏はいう。

また、いくら信念を持って取り組んでいることとはいえ、自分の行動に疑いを持てなくなるのは非常に危険だとも指摘する。

「自分の行動や判断に対し、常に肯定的・否定的な2つの考え方を持つことが大切。これらを天秤にかけ、気持ちと行動とが乖離していないかを把握するよう努めています」

就活生・若手ビジネスパーソンにメッセージを

最後に、就活生・若手ビジネスパーソンに向けてメッセージをもらった。

「これまで、『若いのにすごいね』と言っていただける言葉を素直にうれしく思う一方で、悩みや苦しみ、失敗体験を口にできない部分もありました。社会で大きなことを成し遂げた方は、失敗談より成功談がクローズアップされることが多いため、『そんなすごい人にはなれない』と漠然とした不安を抱く方もいるでしょう。だからこそ、今回は私の悩みや失敗もお話しいたしました。私の体験談を目に留めた方の気持ちが、少しでも楽になったらうれしいです」

髙橋氏が大切にしているのは、「自分に嘘をつかず、等身大の自分を、いかにして社会に魅せるか」。輝かしい面だけではなく、年相応の悩みや苦しみもあると語ってくれた髙橋氏。「読者の方と一緒に成長していきたいです」と締めくくった。