企業の経営層は、過去にどんな苦労を重ね、失敗を繰り返してきたのだろうか。また、過去の経験は、現在の仕事にどのように活かされているのだろう。そこで本シリーズでは、様々な企業の経営層に直接インタビューを敢行。経営の哲学や考え方についても迫っていく。
第27回は、唯一無二の価値を提供する輸入商社、メテオAPAC株式会社の執行役員であり、商品営業企画本部 本部長の川野智氏に話を聞いた。
経歴、現職に至った経緯
まずは経歴について。川野氏のファーストキャリアは、大学卒業後に勤めた地元大阪のセレクトショップ。その理由について、川野氏は「海外で買い付けをするアパレル企業の仕事に憧れ、その仕事に就くためには現場経験が必要だと考えてのことでした」と説明する。約2年販売の経験を積んだ川野氏は、販売成績を買われ、海外ブランドのバイヤーになれる機会を与えられて上京。以降、アパレル業界で10年間、バイヤーとして経験を積むことになる。
アパレル業界が不況の波に飲み込まれそうな時期に差し掛かった2010年、給与面などが安定した大手子会社の商品部へ。「高額なアパレル業界から、低単価の雑貨業界への転身でした」と当時を振り返る。そこから、現職に至るという。
現職に至った経緯について、川野氏は現職の社長からかけられた、「うちで新しく自由な事業に取り組みませんか?」という言葉を挙げる。
「その言葉を聞いて、シンプルに『よし、やってみよう』と自然に身体が動きましたね。大手企業独特の会議やレポーティングの多さといった業務も大切ですが、初心に帰り、新しいことをもう一度楽しくチャレンジできる環境だと直感的に感じ、お世話になろうと思ったんです」
会社概要について
メテオAPACについて、川野氏は「基本は輸入商社です」と説明する。バリューに「唯一無二の価値を提供するために」と掲げ、海外ブランド商品を日本に提供することをミッションとしている会社だ。扱う商材は、玩具や食品、その他雑貨類と幅広い。
「近年は、輸入だけではなく、自社でもブランドを立ち上げ、商品企画や販売をする事業も始めています」と川野氏は語る。
初の海外仕入れに失敗。自分の感性に自信過剰になっていたのが原因だった
これまでの失敗経験について問われた川野氏は、「忘れもしません」と即答。バイヤーとして初めて海外ブランドの仕入れ業務を行ったときのことだと述べた。当時の自身について、川野氏は「今から考えると客観性に欠け、俯瞰で物事を見ることのできない、自分の感性に自信過剰な時期でした」と振り返る。
「良くも悪くも、自分の好きなものが売れるに違いないと狭い範囲で考え、感覚的に商品選定を行っていました。その結果、商品の消化率は悪く、売れ筋はすぐに欠品。不振な商品は自分の好きなテイストのものばかりという有様に、店頭からのレポートは惨憺たるものでした」
「最低のマーチャンダイズの知識はあったと思っていたが、それは錯覚だった」と語る川野氏は、ブランドの強みや顧客の嗜好、今後のトレンド、品揃えのバランスを考えていなかったと自身を振り返る。そして、今1番思えることとして、「何事も数値で捉える力が欠落していました」と言葉を添えた。
「失敗は成功のもと」の意味を理解できるようになった
川野氏は、すぐに失敗を真摯に受け止め、今までの考え方を一新したという。行ったことは、5つに分けられる。
1つ目は、過去実績、トレンド情報の入手、店頭でのレポートのまとめなど、準備に重きをおくこと。2つ目は、アイテムや単価などの数値計画の設計。3つ目はブランドのアイデンティティを学ぶこと。4つ目は周りを巻き込み、協力者や理解者を増やすこと。そして5つ目が、それらを総合的に判断し、仕入れ業務を行うことだ。
この変化を受け、「売り場スタッフへの商品説明の内容がシンプルに変わった」と川野氏は語る。数値目標や強化品番など、共通でシェアできる目標設定も明確になり、流れが変わった。
「目標を達成できたときには、もちろん成功パターンとして捉えられるようになりましたし、失敗した場合は誤差を検証し、修正案を考えられるようになったのです。これでやっと『失敗は成功のもと』という言葉を理解できるようになりました。そう思うと、若いころのあの経験はおそらく失敗ではなく、単なる自爆なのかなと思っています」と川野氏は笑いを交えて語る。
正しいプロセスの中で起こるエラーは、あくまでも成功へと繋がる道を歩む中でのつまづきであり、継続し続ければきっと成功に繋がる。そう確信できるようになったのだ。
1番の失敗を自爆だと振り返った川野氏は、「当時の自分を褒めてあげたいことがあるとすれば、失敗を失敗だと感じず、成功への生贄だと思えるようになった自身のマインドコントロールの力」だと語る。
「自分が関わることでブランドや事業が成功することを夢に見、それをゴールに設定してがんばったおかげで、心が折れることなく、ただひたすらに前を向き続けることができました。その精神的な部分は自分で設定するものでしょう」
就活生・若手ビジネスパーソンにメッセージを
最後に、就活生・若手ビジネスパーソンに向けてメッセージをもらった。
「目標、野望、夢、ゴールなど、表現は何でも構わないので、自分の中でこれらを持つことが大切です。それができれば、能動的に動けるようになれるのではないでしょうか。持つものは小さくても構いませんし、長期的過ぎるものでなくてもいいと思います」
さらに大切なこととして、「決して他責にしないこと」だと川野氏は述べる。「因果報復すべての出元は自分であり、周りを巻き込む力を身に付けていくことで、道は開ける。前向きに言葉を発して進んでいけば、おのずと正しい流れに乗れるようになると思います」と締めくくった。