企業の経営層は、過去にどんな苦労を重ね、失敗を繰り返してきたのだろうか。また、過去の経験は、現在の仕事にどのように活かされているのだろう。そこで本シリーズでは、様々な企業の経営層に直接インタビューを敢行。経営の哲学や考え方についても迫っていく。

第2回は、Mentally 代表取締役CEOの西村創一朗氏に話を聞いた。

  • Mentally 代表取締役CEOの西村創一朗氏に「失敗談」「苦労話」を聞いた

    Mentally 代表取締役CEOの西村創一朗氏に「失敗談」「苦労話」を聞いた

経歴、現職に至った経緯

まずは経歴について。西村氏は2011年から2016年までリクルートキャリア社(当時)で法人営業・新規事業・中途採用を歴任。本業のかたわら、2015年には「複業」という新しい働き方を広げるべく、株式会社HARESを創業している。ちなみに、日本政府が働き方改革「副業」を解禁したのは2018年のこと。西村氏の行動は早かった。

長女の誕生をきっかけにライフシフトを決意し、2017年には独立。「人材力研究会」(経済産業省)の委員を務める傍ら、「複業の教科書」(出版:ディスカヴァー・トゥエンティワン)を出版するなど”複業研究家”として活動を始めた。

その一方で、独立1年目にして双極性障害を発症。以後3年間で3度のメンタルダウンを経験したという。自身のウェルビーイングを保つセルフケアがようやくきちんとできるようになったのは2019年以降のことだった。「周囲にも世の中にも、メンタルで苦しんでいる人が後を絶たない。この現状を変えたい」という思いから、2021年10月に株式会社Mentallyの創業に至っている。

  • Mentally 代表取締役CEOの西村創一朗氏

会社概要について

Mentallyの会社概要、提供サービスについて聞いた。

「Mentallyは『自分のこころにも、誰かのこころにも、やさしくなれる時代をつくる』をミッションに抱えるスタートアップ企業です」と西村氏。同社が提供するスマホアプリ「mentally」は、メンタルヘルスに関する様々な課題を感じている人が、自分と同じ症状を乗り越えてきた先輩(メンター)に相談できるサービスとなっている。

その特徴について西村氏は「医師などの専門家ではなく、近い境遇のお相手だからこそ、より気軽に参考になるアドバイスを得ることができるんです」と説明する。ちなみにmentallyという名の由来については「誰にも相談できず孤独に闘う人のこころ(mental)に寄り添い続ける味方(ally)のようなサービスでありたい、そんな願いを込めて授けました」と話す。

3度のメンタルダウンを経験

1番の大きな失敗体験は、独立してから3年間で3度、メンタルダウンしたことだという。「2018年2~3月頃の僕は、ただただ『消えてしまいたい』と毎日思っていました」と告白する西村氏。

  • Mentally 代表取締役CEOの西村創一朗氏に「失敗談」「苦労話」を聞いた

同年6月には完全復活といえる状態まで回復したが、2019年12月頃には再びうつ病を再発(~2020年3月末頃まで)。その後、3ヶ月ほどはフル稼働できたものの、7~8月には大きく体調を崩したと話す。しかし、たくさんの人たちが支えになってくれたことで、3度蘇ることができたと感謝の気持ちを熱く語る西村氏。メンタルダウンの辛く苦しいエピソードについては、自身のnote(ノート)にも詳しく綴っている。

メンタルダウンした経験を糧に

「当たり前のことですが、独立起業してフリーランス・経営者として生きていく上で、会社員以上にセルフマネジメントが重要である、ということを心底痛感しました。長く走り続けていくためには、がむしゃらに働くだけではダメ。メンタルケアを含めて定期的にセルフケアをし続けることが欠かせない。それに気付いてからは、自分自身の生活スタイルをガラッと変えました」(西村氏)

自身が3度、メンタルダウンした経験を糧に、起業のエネルギーに変えた経験が西村氏の現在につながる。「コロナ禍をきっかけに、うつ病などメンタルの不調に苦しむ人が増えている昨今です。その辛さを人一倍理解している自分がやらなければ一体誰がやるんだ、という勝手な使命感を感じて、メンタルテックのスタートアップを起業しました」と落ち着いた口調で振り返る。

  • Mentally 代表取締役CEOの西村創一朗氏に「失敗談」「苦労話」を聞いた

就活生・若手ビジネスパーソンにメッセージを

西村氏は、こう切り出した。

「失敗のない人生が良い人生と考え、なるべく失敗の少ない人生を送ろうと考えている方も多くいらっしゃるかもしれません。かつての自分もそうでした」

この言葉にドキっとした人も多いだろう。そして次のように続ける。

「ただ、数多くの失敗を経験した今はこう考えています。『失敗の多い人生は、資産多き人生である』と。この『失敗資産』という考え方に立ってみると、人生はとっても楽しくなります。挑戦して成功したらもちろんハッピーですが、仮に失敗したとしてもその失敗は資産(ネタ)になる。そして新たな挑戦を支えてくれる」ぜひたくさん挑戦して、たくさん失敗する20代を過ごしてみてください、と西村氏。最後は明るく就活生・若手ビジネスパーソンにエールを送った。