企業の経営層は、過去にどんな苦労を重ね、失敗を繰り返してきたのだろうか。また、過去の経験は、現在の仕事にどのように活かされているのだろう。そこで本シリーズでは、様々な企業の経営層に直接インタビューを敢行。経営の哲学や考え方についても迫っていく。

第12回は、脱炭素社会を実現する新しいエネルギーサプライチェーンの構築に挑む、株式会社エナリスの事業企画部部長 楠玄香氏に話を聞いた。

経歴、現職に至った経緯

まずは経歴について。楠氏のファーストキャリアは求人広告の営業職だ。ただ、求人広告の仕事がしたかったわけではなかったと楠氏は振り返る。

「就活中、自分にどのような仕事が合っているのかがわからなかったので、さまざまな企業の人事担当者と接する機会の多い仕事に就こうと思ったのです」

その後、楠氏は縁あって地元の役場の公務員に転職。ここで、地元の特産品開発事業の立ち上げ部署に配属になったことが、楠氏にとって大きな転機になった。当時について、楠氏は次のように語る。

「商品の企画から開発、商流の確保などを担当し、価値がないと思われていたものに価値を与え、それらが流通していく面白さを経験しました。自分が開発したものが地元の活性化に微力ながら貢献しているという充実感もありましたね」

このあとも、出向や転職でさまざまな仕事に携わった楠氏。共通していたのは、新規事業開発・企画という職種だったという。自身が歩んできたキャリアについて、楠氏は「いかに工夫して面白いものを生み出すか。そこに面白さを感じてここまできたのだと思います」と語った。

会社概要について

現在、楠氏が所属する株式会社エナリスのビジョンは、「人とエネルギーの新しい関係を創造し、豊かな未来社会を実現する」 。エネルギーに関連するあらゆる事業を手掛けており、「電気を自由に選べる社会をつくりたい!」という熱い想いをもって立ち上がった会社だと楠氏は説明する。

消費者が自由に電力を選べるよう、新電力の業務サポートを行ったり、法人企業向けに再生可能エネルギーを含む電気の小売り事業を行ったりと、エネルギーに関する新しいサービスや新しい仕組みをいち早く実現してきた。会社のあり方について、楠氏は「電力業界の中でも、ちょっと変わった立ち位置にいる会社だと思います」と語る。

昨今、電力需給のひっ迫問題がニュースで取り上げられているように、従来のエネルギーサプライチェーンが崩壊しつつある現在。電力業界は変化の真っただ中にあり、新しい仕組みづくりが強く求められている。この新しい仕組みづくりにいち早く取り組んできたのがエナリスなのだ。

社会の脱炭素化を実現する新しいエネルギーサプライチェーンの構築に必要な仕組みやサービスは何か。この命題に取り組み、必要な技術の開発やサービス化を担当しているのが、楠氏が所属する事業企画本部だ。

「経営企画と連携し、新商材の検討やターゲット戦略、アライアンス戦略を考えて具体的な事業計画への落とし込みを担当しています」

仕事は理屈ではなく、人が動かしていくもの

多くの会社で新規事業の開発、企画に携わってきた楠氏。その経験の中で、今でも色濃く記憶に残っていると語るのが、とある会社で全社的なシステム開発を担当していたときの出来事だという。システムの肝となる判断基準を、良かれと思って一人で考えて作ったところ、方々から異論や反論が噴出してしまったのだ。

「そのときに、仕事はチームでやるものであり、いかに周りを巻き込んで納得感を得ながら作っていくのかが大切なのだと痛感しました。もっと早い段階から周りから意見を募り、事前に進捗を共有しながら作ればよかったと反省しましたね」

「誰かが作ったもの・考えたもの」と「自分も一緒に作り上げたもの・考えたもの」とでは、周りの動き方や捉え方が大きく変わると楠氏は語る。

「仕事は理屈で動くのではなく、人が動かしていくもの。当たり前と言われれば当たり前のことなのですが、それまではそんなことにすら気づけず、ほとんどの仕事を一人で完結していた気がします」

円滑に仕事を進めるには事前共有・事前相談が大切

苦い失敗経験を経て、事前共有・事前相談の大切さを身に染みて理解した楠氏。今では、途中段階から周りに相談し、情報共有をするように心がけているという。

「事前に相談すると、新しいアイディアや新しい角度での気づきをもらえることがあります。一緒に動いてくれる味方も増えるので、プラスαの効果があるなと実感していますね」

2020年に始まったコロナ禍の影響を受け、コミュニケーションが取りづらい環境になってからも、社内のチャット機能を駆使し、こまめに情報共有をするように意識してきた楠氏。人とコミュニケーションを取りながら仕事を進められるようになったことで、誰かに仕事を任せられるようにもなったと語る。

「昔なら一人で抱え込んでしまっていたでしょうね。人に任せられるようになったことは、管理職としてマネジメントをする上でもプラスに働いていると思います。仕事を任す際には、部のメンバーが主体的に仕事を完遂できるよう、私の意見の押し付けにならないようにと心がけています」

就活生・若手ビジネスパーソンにメッセージを

最後に、就活生・若手ビジネスパーソンに向けてメッセージをもらった。

「若手の方は新しいことに直面する機会が多いと思いますが、そのときに知らないことを『知らない』と言える勇気を持ってもらいたいと思っています。経験上、知らないことを人に聞いたり、人に助けを求めたりすることを恥ずかしいこと、悪いことと捉える人が意外に多いように感じるのです。でも、知らないことを自分の知識に変えていくには、人に聞くしかありません。無知は放置されると無知のまま。知ろうとしなければ、だんだんと視野が狭くなり、自分の知識の範囲内でしか物事を考えられなくなってしまうでしょう。自分の成長のためにも、知らないことを知らないと言えることは非常に大切なことだと思います」

素直に知らないことを伝え、教えを乞う。そのためには、質問力と対話力も必要だ。楠氏は、先のメッセージに付け加え、「キャリアに関係なく、わからないことを誰かに聞き、ほしい答えを引き出す努力をし続けてほしいと思っています」と話を締めくくった。