鉄道の旅は、いつも駅から始まります。鉄道好きの視線は列車に集まりがちですが、何気なく通過する駅もまた、それぞれ風情があって面白いものです。今回はそんな駅の中でもひときわ風情のある、南海電車の浜寺公園駅を取り上げてみたいと思います。
駅舎も待合室も「これでもかというくらいレトロ!」
浜寺公園駅の洋風駅舎は、1907(明治40)年に建てられたそうです。築100年以上! 私鉄では全国最古の駅ということで、訪問する前から期待が高まります。
南海電車というのは、じつはあまり乗ったことがありません。筆者は阪神電車の沿線に住んでいるので、以前は南海電車に乗ろうと思うと、西九条駅(あるいは大阪駅)からJR大阪環状線経由で新今宮駅から乗るか、阪神電車から地下鉄に乗り換えて難波駅から乗るかのいずれかでした。いまは阪神なんば線で大阪難波駅からも乗り換えられますが、ものすごく遠くて、乗継ぎに時間がかかってしまうんですね。
和歌山方面へ行くなら、JRに乗り換えればそのまま行けるし、「南海でなければ!」というシチュエーションって、あんまりないなあ……、なんて考えつつ、今回は大阪環状線経由で新今宮駅から南海電車に乗ることに。「おっ、ラピートがいるぞ!」なんて車窓を楽しんでいるうちに、浜寺公園駅に到着しました。
ホームに降り立っていきなり、ただならぬオーラを感じました。待合室からして、すでに素晴らしいのです。小さな四角い待合室ですが、窓枠も含めて木造で、白く塗られています。天井のあたりには、丸を連ねた模様の装飾も施されています。ホームの屋根はそんなに古さを感じさせないので、この待合室だけ、昔の姿のまま残っているのでしょう。
ホームから地下道を通り、駅舎へ向かいます。とくに何の変哲もないコンクリートの地下道でしたが、そこはかとなく昭和の香りがしました。そんな地下道を、女学生が1人、ホームへ走り抜けていきました。そう、このシチュエーションには「女子高生」、まして「JK」なんて表現は似合いません。あくまで「女学生」なのです。
改札を抜け、駅舎の外に出てみました。外観はもう、これでもかというくらいにレトロです。最近よくある「レトロ風」ではなくて、本物のレトロです。郵便ポストまで、しっかりとレトロです。エントランスの柱なんかも、「強度があればそれでいいじゃないですか」的な味気ない四角ではなくて、じつに優雅な形をしています。
ちなみにこの洋風駅舎、「ハーフティンバー様式」の建物だそうで、東京駅の赤レンガ駅舎の設計でも知られる辰野金吾氏が手がけたとか。建築されてから100年以上の時を経てもなお、この駅舎の存在感は際立っていました。
浜寺公園駅の高架化に、やはり寂しさも…
駅というのは本来、「電車に乗る」という目的を持った建物なので、それ以外の部分はとくに必要ないといえばないのです。四角い箱と、適当な高さのホームがあれば、それでいいのです。実用としては。でもきっと、この駅が完成した頃、「電車に乗る」ということ自体、日常ではなく「ハレ」(非日常)やったのでしょう。とくにこの駅は、かつて浜寺の海水浴場や公園に行く人々でにぎわっていたはずで、そんな雰囲気にこの優雅な駅舎はよく似合っていたのだろうなあ、と思いました。
駅舎は1998年、国の登録有形文化財にも指定されています。しかし現在、この駅も含む堺市内の南海本線で高架化の計画があり、2018年に完成するらしいです。その準備のためか、駅前に空き地ができていて、ちょっと寂しい景色になっていました。
やはり踏切渋滞の問題など、地元ではいろいろ不便な点もあるのでしょうし、筆者のように直接関わりのない者があれこれいうことはできません。実際のところ、ここにやって来たのも今回が初めてだったわけですし。ただこの先、浜寺公園駅が高架化され、風情のない「箱」のような駅になるとしたら、やっぱり寂しいですね……。