南海電気鉄道の特急「ラピート」がデビューしたのは20年前。初めて写真で見たときの衝撃はいまも忘れられません。『海底二万マイル』にでも出てきそうな、あの尖った鼻、丸い頭、丸い窓、深海を思わせる深い青。こんな形のものが、普通に公共交通機関として走るのかと思うと、「日本もまだまだ捨てたものじゃないなあ」と感慨にふけったものです……って、まだまだ20代(当時)の若僧が偉そうに言うても仕方ないのですが。
とにかく、電車といえば四角四面が当たり前だった世の中、効率とか実用性とかとはかけ離れたところにある、この「ラピート」のデザインにいたく心を揺さぶられたのです。
デビューから20年以上たっても「ラピート」に興味津々
以前、浜寺公園駅を紹介した当連載第3回でも書きましたが、阪神間に住む筆者にとって、南海電車はほぼなじみがありません。普段ほとんど見ない路線を、「ラピート」という不思議な列車が走っているらしい。それだけでも余計にミステリアスな魅力をたたえているような気がするのです。
筆者の年代の関西人にとって、深く魂に刻まれた漫画というとやっぱり、『じゃりン子チエ』です。あの漫画、舞台がどこなのかははっきりとさせていないのですが、電車に乗るシーンでは、わりとしっかりと車両の描き分けがされています。梅田に出るときには明らかに大阪環状線の103系ですし、海へ行くときにはちゃんと南海らしい列車に乗ってるのです。実際、南の方角、海とか和歌山とか、そっち方面へ行くときに乗るのが南海電車なのですね。
ところが、筆者が住む地域の場合、和歌山へ行くならJR阪和線ですし、関西国際空港へ行くときも、乗るのはリムジンバス。もうすでに登場から20年も経つというのに、「ラピート」はいまだに謎の存在なのです。あの真ん丸な形の運転席から、外を見るとどんな感じに見えるのか? あのサイドにある鰓(えら)みたいな部分に並ぶ丸いものは何なのか? あと、あの鼻筋の尖ったところに当たると痛そうだな……なんて考えつつ、いつも興味津々なんですね。
「もしもあの車両が阪神や阪急、JRの線路を走ってくれたら」と思うことはよくあります。桜が満開の夙川を渡る「ラピート」とか、見てみたいと思うスポットがたくさんあるのです。中でも阪神武庫川線なんて走ってくれた日には、きっと筆者は1日中、武庫川の堤防に座って、行ったり来たりする「ラピート」を眺めているに違いありません。
南海線を走る「赤いラピート」、赤1色の車体も「いいね!」
その「ラピート」が赤くなって走る、という話を聞いたとき、筆者はかなりどきどきしました。なんでもガンダム絡みらしいとのことで、これはもう「現物を見たい絶対に見たい見ないと絶対後悔するに違いない!」と、やたらテンションが上がってしまいました(笑)。
「ガンダム」で「赤」というと、筆者の世代は無条件に「シャア専用」です。そう、1年戦争のエピソードしか知らないジェネレーションなのです。「フル・フロンタルって何や!?」なのです。時代は変わるのですね。そもそもガンダムが電車とコラボするなんて、あの頃はまったく思いもしなかったわけで、改めてものすごく時代が変わってるんだなと実感させられます。
連休の、よく晴れた日にバイクに乗り、「赤いラピート」に会いに行ってきました。とりあえず線路沿いに走れば、どこかで見られるだろうという、なんとも行き当たりばったりな行程です。天気が良い日だったのでそういうのも楽しいのです。ここだとよく見えそうだな、という場所を見つけてバイクを止め、スタンバイします。
周囲に気合いの入った鉄道ファンは見当たりませんでしたが、子供を連れたお父さん・お母さんたちの姿をちらほら見かけました。なるほど、「赤いラピート」はみんなの人気者みたいです。そろそろ来るという時間帯になり、いやが上にも期待が高まります。そして線路の彼方に赤い車体が見えました。
来た! シャアだっ!(ちゃうって!) うわっ、かっこいい!!
いやしかし、筆者にとっては「赤いラピート」も「いいね!」です。あのデザインに赤1色、「じつは元からものすごく合ってるんやないかなあ」と思うくらいでした。よしっ! 次は絶対あいつに乗ってやろう……って、関空に行く用事はまったくありませんが。近いうちの「関西空港阿房列車」を思い描きつつ、バイクに乗って帰るのでありました。
ちなみにこの「赤いラピート」こと「赤い彗星の再来 特急ラピート ネオ・ジオンバージョン」は、6月30日までの期間限定で運転されています。お見逃しなきよう。