「人ってそんなに残虐になれるもの? 震えるんですけど!」

韓ドラには、もしかしたら本当にサイコパスなのでは……と思ってしまうぐらい骨の髄まで悪そうな人物が出てきますよね。いや、記号的なサイコパスとしてただ悪いキャラならドラマの中だけの存在として割り切れそうだけど、妙に人間味があって、かわいらしさや弱さもチラ見せしちゃったりして、人の感情としては筋が通っている。実際にいてもおかしくないリアルさがそこにはある。そのうえで、目の前でおびえる人を楽しそうにもてあそんだり、自分の欲望のためにどこまでも人をあざむいたり。人の悪い心のキワのキワを軽やかに見せられて、「怖い……怖すぎて目をそらしちゃう……でも見たいっ」と、いつの間にかその存在に魅了されるのは韓ドラのお約束。

  • イラスト/みつほし

これは脚本の巧みさはもちろん、脇役を演じる俳優の層の厚さ、俳優を発掘して起用する気概のあるスタッフの存在が合わさって起こる現象だと考えられます。それまでは目立たない脇役だった人や舞台俳優だった人が、あるとき、あるドラマの悪役で大化けして注目を集めるということが毎年のように起こっているのです。そうして選ばれた彼らが悪に徹してくれるから、主人公に感情移入できる部分も大きい。

例えば『梨泰院クラス』で長家の会長を演じたユ・ジェミョン。彼は地元の釜山で演劇を始めてから長らく舞台中心に活動し、映像作品に出始めたのは40歳のころ。『梨泰院クラス』で60代の会長を演じたときは、なんと46歳だったとか! メイクもありますが、あの貫禄はどう見ても大御所クラスでした。会長のイメージが強すぎて、『ヴィンチェンツォ』の人権派弁護士ホン・ユチャンが同一人物だと気づかなかった人もいるのでは? そのほかにも『秘密の森〜深い闇の向こうに〜』では183cmの高身長が生きるスーツ姿で法曹界を掌握している次長検事役、『恋のスケッチ〜応答せよ1988〜』ではどの学校にも1人はいそうな教師役と、まさにカメレオン俳優として活躍を続けています。

イカゲーム』のチャン・ドクス役で世界的に注目を集めたのはホ・サンテ。利己的なチンピラとしてゲームの行方を引っかき回す憎たらしさは見事でした。彼は30代半ばまでサラリーマンで、俳優の道に入ったのは35歳のとき。2012年からさまざまな作品で脇役を演じ、2021年の『イカゲーム』で一気にブレイクしました。同年のドラマ『怪物』では再開発の土地を巡って悪巧みをする建設会社の代表役を好演。ロシア語を専攻し、サラリーマン時代にはロシアへ赴任していた自身のキャリアを生かし、本音をロシア語でつぶやく個性的な役でした。最新作のドラマ『餌〈ミッキ〉』では、韓国中を巻き込んだ大詐欺師役を生き生きと演じています。

ペントハウス』の建設会社の代表や『シスターズ』の裏の顔を持つ政治家など、本当に人間の血が通っているのか疑わしく思えるほど冷徹な役が似合うのはオム・ギジュン。『被告人』では性格が真反対の双子を演じながら、不気味すぎるサイコパス殺人鬼を世に放ち視聴者を震え上がらせました。彼はもともとミュージカル界のトップスターで、代表作のひとつ『ジャック・ザ・リッパー』での狂気の演技も忘れられない迫力です。近年は悪役のイメージが染みついているオム・ギジュンですが、ドラマによく顔を出すにようになった2011年の『ドリームハイ』では、キム・スヒョンやスジ、IUなど今をときめき俳優たちが生徒として出演する学校で生徒の夢を応援する教師役、『女の香り』ではクールながら主人公に恋をして温かく見守る医者役と、さわやか路線でした。

実力派揃いとあって、温かな善人役も当然お似合いな彼ら。とはいえ、彼らが悪役を演じると聞くと心が躍るのも事実です。そして、そんな強烈な俳優がまだまだ韓ドラには存在するというのも、根強い韓ドラ人気の理由のひとつだと思うのです。

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