高感度撮影と手ブレ補正がついていれば夜でも風景が綺麗に撮れるはず。そう思って撮ってみると「あれ?」という経験をしたことはないだろうか。高感度撮影を行わない場合には、夜といえばフラッシュ撮影と相場が決まっていたものだが、そもそもコンパクトデジカメについているフラッシュは相当に貧弱。どこでもフラッシュを焚く人を見かけるが、はっきり言ってあれは無意味だ。
コンパクトデジカメに限らず、カメラに付いているフラッシュはある意味、補助的なもので風景、特に遠景になると全く効果を発揮しない。そもそも光量が不十分すぎるのである。カメラ内蔵されているフラッシュは近距離での人物撮影や、あるいは補助的な光源と割り切った方がいいのである。
まずは1枚の写真から
ではまず写真001を見てもらおう。写真がちょっとわかる人であれば、この写真がどういう条件下で撮影されたものかはすぐに気付くだろうが、ぱっと見この写真は昼間に撮影されたかのように見えてしまう。
写真の下、つまり手前部分から中央にかけてを見ると昼なのか夜なのかがわかりにくいはずだ。もっとも、写真をよく撮る人であれば日中の光源では、太陽に雲がかかっていたとしてもこのようなライティングにはならず、写真のようにフラットなライティングの場合は何らかの人工光源であることに気付くかもしれない。
写真上方の奥の部分を見てみると、歩いている人物がブレている(被写体ブレ)ことやビルの照明などで白トビしていることから、この写真は夜に撮られたものであろう、ということが判断できる。しかしながら写真全体の雰囲気としては「夜」を全く描写していない失敗作と言えるであろう。
この原因は、昨今のデジカメの「性能の良さ』に起因している。第一に高感度撮影によって少ない光源・光量でもそれなりに撮れてしまうこと。次にオートホワイトバランスによって、光源が何であっても「普通な」色味が再現されてしまうことである。さらに、暗い場所での撮影でも手ブレ補正機能によってブレないで撮れてしまうために、何だか昼間っぽい写真となってしまうわけだ。
この作例にあげた写真でも原寸大で見れば画質の荒れから高感度で撮影されたものであることは容易に判断できるのだが見てのとおり、普通なサイズで見るとちゃんとした写真に見えてしまうわけだ。
何が正しい写真なのか?
この作例のように夜なのに夜じゃないような写真は最近のデジカメでは撮れてしまうことが多い。とりわけシーンモードを切り換えず、何でもかんでもオートモードで撮影しているとこうなってしまうのだが、これはデジカメに原因があるのだろうか?
答えは正解でもあり不正解でもある。というのもデジカメは、その与えられた条件下で最良の結果を記録しようとする。例えば先ほどの例では店舗からの少ない灯りでも、十分な露光量を得るために絞りが開き気味で低いシャッタースピードで撮影しようとする。さらに光源が蛍光灯であろうと白熱電球であろうとも画面内の白いものは白く写そうとするためにホワイトバランスも晴天下と同じであるかのように自動調整してしまうのだ。
デジカメの側から見ればこれは正しい動作を行っているが、夜間は夜らしく撮りたいという撮影者の意図との差が生まれてしまっているわけだ。これを解消するためにシーンモードが搭載されているのだが、シーンモードであってもそれは必ずしも撮影者の意図通りに働くわけではないので、撮影者は自分の意図をデジカメに設定して表現することになる。
昔は夜撮れば夜っぽい写真が撮れたのになぁ、と思うことはないだろうか? これは実は簡単な話で撮像素子の感度が低い場合には、夜間の光量不足の状態では露光量が不足する範囲でしか撮影できなかったため暗めに写っていたり、シャッター速度が遅かったので手ブレが生じたりすることで夜っぽい写真になっていたのである。
ホワイトバランスを手動設定する
では夜っぽい写真を撮るにはどうするか? まずそのひとつとしてホワイトバランスを手動設定してしまう方法がある。先ほどの写真と同じ条件下で、ホワイトバランスの設定を『晴天』モードにして撮影したのが写真002。全体に緑がかって、光源が太陽ではないことが明らかにわかる。これならば写真をよく知らない人でも何らかの人工照明下で撮られたことに気付き、奥を見て夜なんだなとすぐにわかるというわけだ。
このような色で撮れる写真は実は蛍光灯下での撮影。かつてはこの緑がかった色彩は「汚らしい」とされ、蛍光灯下で撮影する場合の補正は必須だったのだが、今では逆に雰囲気を出すためによく使われる手法のひとつである。場合によってはポートレートですら、蛍光灯の色を残して撮られることすらある。
なお、このような蛍光灯の色が出やすいのは一般的な白色あるいは昼光色と呼ばれる蛍光灯で、三波長型(パルックなど)の蛍光灯では、極端にはクセが出ない。蛍光灯は種類によって色がかなり違うため、デジカメによっては蛍光灯モードだけで複数の種類を持っているものがあるわけだ。
前回の連載で三波長型を使用していたのだが、ブツ撮りには今回のような「緑カブリ」は禁物。なぜならばブツ撮りの場合には、物の形や色を正しく伝えることが要求されるからだ。
撮れちゃったものはしょうがない
では、ちゃんと撮れてしまった写真の夜の雰囲気を取り戻すにはどうすればいいだろうか? 暗いはずなのに暗くないのであれば答えは簡単、レタッチで暗くしてしまえばいいのである。ただし、単純に暗くすると写真003のように眠い写真になってしまい、なおかつホワイトの部分のレベルも下がるので明るい部分が効果的でなくなる。レベル補正によって写真004のようにコントラストを若干調整しておくと良いだろう。
このように後で調整する方法ももちろん可能なのだが、撮影時ならば露出補正でマイナス側に調整するのも手である。実際にその場で撮影して確認して良さそうな条件にしてから撮影すれば良い。ただし、ちょっと注意してほしいのが液晶モニター。暗い場所だと液晶モニターで見る画像が「明るく」見えすぎる場合があるため、露出補正をかけすぎて後でパソコンで確認すると暗すぎる写真になっていることがある。このあたりも最近のデジカメの液晶モニターが明るいことの弊害である。心配ならばブラケッティングの機能を使うなどして、何段階か露出補正を行って撮影すればいいだろう。
カメラのクセを把握しておこう
連載中で何度か述べていることだが、オートモードなどカメラ任せの機能を使う、あるいはコンパクトデジカメなどでカメラ任せにするしかない場合にはやはりカメラのクセを把握しなくてはならない。今回は夜を夜らしく撮ることを目標にするので被写体の条件を変えていくつか撮影してみよう。
まず写真005だが、これは一見すると昼間のように見えてしまうが理由は簡単で画面内に白いもの、つまり横断歩道の白線があるためにホワイトバランスはここに調整されてしまうからだ。また高感度で手ブレ補正ありなのでこのように「ちゃんと」撮れてしまうわけだ。
画面内に白いものがあるとホワイトバランスが調整されるというのはデジカメでは基本的な機能のひとつで、特に携帯電話などでは顕著であるため、携帯で色を変えて撮影したい場合には白くないものでホワイトバランスをロックしてから撮影するという手法がよく使われており、この行為は街中でもよく目にすることがある。
次の写真006 は画面内に光源が入り込んでいる例。この場合には夜景が夜景らしく撮れている。画面内に光源があることで、全体の露光量が下がるために暗い部分は暗くなり、なおかつ様々な種類の光源が入っているためどれかの光源にホワイトバランスが引っ張られることがない。それぞれの光源の色の違いが出ているため、色も都合よく表現されているというわけだ。
コンパクトデジカメの場合、この条件は比較的よく出る傾向。画面内に光源があると全体の露光量は低めになる。日中の撮影の場合では逆光時に露出不足となるケースだ。日中ならば逆光補正を行って適正な露出とするわけだが、夜間はこの状態を逆手に取って夜間らしい撮影とすることができるというわけだ。
写真005 街灯などの周辺光だけで撮影(f=6mm,F3.3 1/25秒 ISO1600相当。光学式手ブレ補正あり、オートホワイトバランス) |
写真006 夜景を撮影(f=6mm,F3.3 1/125秒 ISO1250相当。光学式手ブレ補正あり、オートホワイトバランス) |
※今回の機材はニコンのCOOLPIX S51c(屈曲光学系VRレンズ搭載機)を使用している。