写真を撮る上で、お金がかかると言われているのが実は照明。もちろんレンズやら他の機材も高価なものが多かったりするのだが、照明機材は出番がそれほど多くない割に高価だったりもする。例えばデジタル一眼のオプションのクリップオン式フラッシュで、ちょっと大型のものになると、あっさり5万円以上してしまい下手をするとカメラのボディ並の値段になってしまうこともざらだ。

このことは逆に言えば、カメラに内蔵されているフラッシュがいかに貧弱かを示している。高価なフラッシュを内蔵することができないし、そもそもフラッシュで大型のものは電気を食うのである。

フラッシュはその使い方だけでも本が出来てしまうほど難しい部分もあり、また奥が深い部分でもあるが、今回はフラッシュを使わずに屋内でどの程度まで撮影できるのかを見てみることにしよう。

「ブツ撮り」って何だ?

ブツ撮りというのは商品撮影などで、物を撮影することを言う。例えばこのマイコミジャーナルでも製品写真などは多く目にされるだろうが、これらはみなブツ撮りなのである。あまり個人には関係ないんじゃ? と思われるかもしれないが実際には最近、このブツ撮りに対するニーズは増えている。その良い例がオークション。オークションでは自分の手持ちの物を出品し売るわけで、その実物写真を掲載するのが一般的だが、写真の出来が悪いと商品のイメージが悪くなってしまい、売れるものも売れなくなってしまう。

そこで世の中にはこのオークションをターゲットとした簡易光源装置やら撮影ボックスやらが売られていたり、はたまたデジカメのモードに「オークション」モードが搭載された機種があったりするわけだ。

では早速、悪い例を見ていただこう。写真001がそれだ。コンパクトデジカメ(オリンパスμ725SW)の内蔵フラッシュを使って撮影しただけのものである。見ての通り、ありがちなフラッシュで撮った写真になってしまっているし、フラッシュとレンズ、物の位置関係から変な影も出ている。ちなみにバックは撮影用のちゃんとしたバック紙を敷いているのだが、これではだいなしであろう。

フラッシュを使ったことで確かにブレは無く光量もちゃんと足りているのであるが、やはりどうしても不自然になってしまう例のひとつである。

写真001 f=11mm F=4.5 1/50秒 ISO 100 内蔵フラッシュあり

室内の灯りだけで撮る

実は一番自然な撮影方法は室内の灯りだけで撮る方法。というのも我々が普段、目にしている光景そのものだからだ。このため室内の灯りを模して撮影する手段としてフラッシュを天井バウンス(天井に反射させる)させる方法が良く使われるのだが、バウンス撮影では強力なフラッシュが必要となるためコンパクトデジカメでは外部で補助フラッシュを使わない限りは困難である。そこで室内の灯りだけで、どこまで撮れるかにチャレンジしてみようというわけだ。

なお、ここでは太陽光などの外光が一切入らない条件で天井の蛍光灯のみで撮影した例をお見せする。実際には蛍光灯の輝度や天井までの高さなど、様々な要因に結果が左右されるので、ここでの例は参考程度にご覧いただきたい。なお、蛍光灯には3波長型(要するにパルック)を使用している。

さて、まずは画質を良くしたいので感度をISO 100相当で撮ってみることにする。オークションなどWebサイズで使うことにするので640x480にリサイズしてあるが、見ての通り結果は惨憺たるもの。ブレまくっている。それもそのはずで、この時のシャッター速度は1/5秒なので小型のコンパクトデジカメならば手ブレしないほうがおかしい。

ここで少し理屈を知っておこう。一般的に手ブレ限界と呼ばれるものは35mm時で「レンズの焦点距離分の1」のシャッター速度である。例えばレンズが50mmであれば1/50秒よりも速いシャッター速度で撮影すれば手ブレが起きない(目立たない)と言われている。

μ725SWの場合には、35mm換算倍数が約5.7なので、f=11mmの場合には35mm換算で約62.7mmとなるから、シャッター速度としては1/60よりも速い速度がほしいところである。

ただし、この手ブレ限界は使う人間の性能にも依存するし、撮影時の姿勢にも依存するので注意。μ725SWの場合には機械式の手ブレ補正機能を搭載していないため、手ブレの影響はモロに見える(ので、μ725SWを使っているわけだが)が、手ブレ補正機能を搭載している機種の場合には、より楽になる。例えば手ブレ補正の能力が"3段"とされているものであれば、仮に35mm換算時の焦点距離が60mmだったとすると、補正なしの手ブレ限界は1/60秒だが、補正3段を加味すると1/8秒という低速シャッターでも手ブレしないことになる。つまり屋内で撮影する場合にも手ブレ補正は当然あったほうが良いことになる。

写真002 f=11mm F=4.5 1/5秒 ISO 100相当

さて、本連載は手ブレ補正を活用するというのがメインではないので、感度を上げて撮影していき、どこまでが実用に耐えるかを検証してみよう。もちろん、三脚を使用して撮影すれば手ブレの心配はなくなるのだが、場所の関係や距離の関係で屋内では三脚を使用しにくいこともしばしばなので手ブレない感度で実用に耐えるあたりがどの辺かを探ってみよう。

まずは一段あげてISO 200相当で撮影したものが写真003。どうだろうか? Webサイズであればかなりマシなレベルになってきている。この時のシャッター速度は1/10秒で、先ほどのISO 100時の場合と比較するとちょうど半分(倍速い)になっている。この程度ならば気にならないという人もいるだろうし、まだ汚いと感じる人もいるだろうというレベルだ。では何となくブレているからといってPhotoShopでシャープをかけるとどうなるか? 結果は写真004。物を伝えるという意味でならばこれはこれでかまわないようにも見えるが、やはり不自然さはかなり残る。もっとも、このような画像はオークションなどでもよく目にするのではなかろうか。

写真003 f=11mm F=4.5 1/10秒 ISO 200相当

写真004 PhotoShopでシャープをかけた状態。余計にアラが目立っているのではないだろうか

さらにもう一段上げてISO 400相当で撮影すると写真005のようになる。結構見られる画像になってきているが、μ725SWの場合にはこの写真では測光の関係からかシャッター速度は1/15秒までしか上がっていない。若干手ブレの様子がWebサイズでもまだわかるという感じだ。

写真005 f=11mm F=4.5 1/15秒 ISO 400相当

では一足飛びにμ725SWの最高感度であるISO 1600相当で撮影するとどうなるかが写真006。さすがにブレは感じられないが、それもそのはずで必要なシャッター速度に近い1/60秒で撮影されている。しかしながら画像を見ておわかりのように、かなりノイズっぽい画像となってしまっている。さすがにこれは厳しいというところだろう。

写真006 f=11mm F=4.5 1/60秒 ISO 1600相当

以上の結果からわかるように、今回使用したμ725SWではWebサイズではISO 400程度までがノイズの目立たない限界ではないかと思われる。しかしながら、感度的に屋内の蛍光灯だけではちょっと不十分という中途半端なものだといえる。このため屋内で補助的な照明がない場合にはISO 400で撮影し、しっかりカメラを構えれば何とかなるというところだろうか。

前回の結果とあわせてみてもわかるように、コンパクトデジカメの場合にはやはりCCDサイズが小さいのが原因で、感度を上げるとどうしてもノイズが目立つ結果となってしまう。高感度モードが付いてはいるものの、その使用するシチュエーションはやはり選ぶ必要があるということだ。例えば前回の夜景の撮影においては今回ほどノイズによる悪影響は見られず、写真としては見られるものになっていた。これは人が「夜景」とはこういうものであるという認識と、撮影された写真との間に乖離があまりないためである。ブツ撮りのように物がはっきり見える状態であるとノイズの悪影響はかなり目立つということになる。