ダイハツ工業はコンパクトSUV「ロッキー」に「シリーズ方式」のハイブリッド(HV)車を追加した。シリーズ方式のHVといえば日産自動車が「e-POWER」の名で早くから使っており、同システムを積む新型車「ノート オーラ」には大いに感動したものなのだが、ダイハツ版のシリーズ方式HVはどんな感じなのか。試乗してきた。
なぜシリーズ方式を選んだのか
ロッキーはダイハツが開発・製造を担当するコンパクトSUVだ。トヨタは同じクルマの外観を変え、車名を「ライズ」にして販売している。ロッキー/ライズは2019年の発売以来、根強い人気をほこるクルマで、日本自動車販売協会連合会のまとめによると、2021年4月~9月の累計でライズは3.7万台強、ロッキーは約8,600台が売れている。これでも前期比で60%くらいの販売実績に落ち込んでいるというから、もともとの人気ぶりがわかる。
その人気車に今回、待望のHVが登場した。ガソリンエンジンで発電した電気を小型のリチウムイオンバッテリーに溜め、その電力でモーターを回してタイヤを駆動する「シリーズ方式」だ。
ロッキーを電動化するにあたり、なぜシリーズ方式を選んだのか。チーフエンジニアを務めるダイハツの仲保俊弘さんに聞くと、「ダイハツのラインアップには小さくて軽いクルマが多いので、シリーズ方式を選択するメリットが大きいと考えました」とのこと。こまめに発電すればバッテリーが小さくて済む(小さいと軽くて安い)シリーズ方式は、良品廉価を掲げるダイハツにとっての最適解だったようだ。もちろん、将来的にEVを作るにしても、モーターのみで駆動するクルマを作ったノウハウは役に立つはずだ。
シリーズ方式のHVといえば、日産の「e-POWER」がすぐに思い浮かぶ。先代のノートで初めて「e-POWER」を導入して以降、日産は搭載車をどんどん増やしてきた。特に、最新のe-POWERを積む現行型「ノート」と新型車「ノート オーラ」は、実に俊敏で気持ちのいいクルマだった。
頻繁な車線変更、知らぬ間に右折専用レーンに変わっている右端の道路、同じく左折専用レーン化する左端の道路、路上駐車する超高級車の数々、5又以上のタコ足型交差点など、次から次に歯ごたえのある課題が降りかかり、息つく暇もない大都会・東京の道路。ともすれば判断が遅れがちになり、思いもよらない交差点で望んでもいない方向に曲がらされがちな紙ドライバーでも、ノート オーラに乗っているときは、反応がよくて力強い加速とスパッと決まるハンドルのおかげで、思い通りのドライブを楽しむことができた。2021年9月の中旬ごろ、少し大きめの音でキリンジを聞きながら、ご機嫌に東京ゲートブリッジを駆け抜ける赤のオーラを見かけたという方がいたら、それこそアーバンシティ・クール・サーファーこと紙ドライバーFだったのである。
実用領域にこだわるダイハツのHVづくり
で、肝心のロッキーHVなのだが、さすがにシリーズ方式、街中で必要になるちょっとした加速にも機敏に反応してくれて、かなり思い通りの走りが楽しめた。バッテリー容量が小さいので頻繁にエンジンがかかるものの、その音は決して、うるさいと感じるほど大きくはない。
バッテリーが空になりそうになったらエンジンを猛烈に回し、一気に充電するという手法をとれば、エンジンがかかる頻度は少なくできるのかもしれないが、ダイハツが大切にしているのは燃費のいい状態でエンジンを回し、バッテリーを充電することだという。そのおかげもあってか、ロッキーのHVは1.0Lのターボエンジンを積む従来型に比べ、50%くらい燃費がよくなっている。具体的にいうと従来型が18.6km/Lであったのに対し、HVは28.0km/L(WLTCモード)だ。この燃費、小型SUVのHVではトップクラスだという。
アクセルペダルを戻すと強めに減速してくれて、加減速をほぼワンペダルで操作できる「スマートペダル」という機能も使い勝手がよかった。EVやe-POWERではおなじみの機能だが、ロッキーのスマートペダルは減速の具合が決して弱からず、とはいえ強からず、かといってうまからず……ではダチョウ倶楽部さんのギャグになってしまうが、実際のところ、相当いい塩梅だった。ブレーキのオートホールド機能(ブレーキをかけてクルマを止めた後、停止状態を保持してくれる機能)もあるから、合わせて使えば足の作業量が減って、運転がかなり楽になる。
モーター駆動だからEVのように速いのかといえば、ロッキーはそういうクルマではない。あくまで街中で気持ちよく走れるタイプのクルマとして、性能を考えてあるらしい。そのあたりについて、仲保さんはこんな風に説明してくれた。
「開発陣にもいってきたことですが、このクルマでは極限の数値を追い求めることはしていません。例えば、エンジンには最高出力(馬力)というのがありますが、それは大抵、エンジン回転数が5,000rpm以上とか6,000rpm以上とかで発揮できる性能で、一般のお客さんは、ほとんど使わない数値です。そういう領域で競争せず、お客さんが実際に使う領域、例えば2,000~3,000rpmのところでは、十分な競争力を持った動力性能を発揮させようと考えました。ですから、極限的な走り方で比べれば競合車に対して劣る部分はあるかもしれませんが、日常づかいであれば決して競合車に負けていないですし、それでいてアフォーダブルな価格になっていると思います」
11月1日の発表から約1カ月の時点で聞いた話によると、ロッキー/ライズの受注台数は3万台超とかなり好調な様子。HVを選んだユーザーの比率はロッキーで6~7割、ライズで約半分だという。ダイハツはロッキーの月間販売を2,000台、HV比率を35%(700台)と見込んでいるが、この数字はひょっとすると上振れするかもしれない。
最後に、ロッキーの値段に関するちょっとした話をご紹介したい。
ダイハツは200万円以下のクルマで電動化があまり進んでいないことを問題視していて、「小さいクルマの電動化はダイハツの責務」とまで考えているそうなのだが、ロッキーのHVは211.6万円からで、200万円を切っていない。
このあたりに忸怩たる思いがあるかもしれないので仲保さんに聞いてみると、「これは半分以上、言い訳なのですが……ロッキーのHVを開発し始めたころは、消費税込みの価格表記が始まっていなかったので(笑)」とのこと。エックス×1.1=211.6万円だとすれば211.6万円÷1.1=エックスのはずだから(合ってますよね?)、税抜き価格の表記がOKだった場合、ロッキーHVの価格は192万円強から、ということになっていたのかもしれない。