三菱自動車工業がピックアップトラックの新型「トライトン」を日本に導入した。この国で買えるピックアップといえばトヨタ自動車「ハイラックス」かジープ「グラディエーター」くらいしかなかったから選択肢が増えたこと自体は嬉しいのだが、そもそも、この手のクルマは日本で乗っても便利で快適なのだろうか。試乗してきた。
トライトンに普通の道路で乗ってみると?
「比類なきオフロード性能」がご自慢のトライトンについて気になっていたのは、普通の道路で乗ったらどうなのか、という点だった。日本で乗るなら悪路に出くわす心配はほとんどない。大事なのは舗装路の乗り心地だ。
実際に一般道を運転してみると、まず感じるのは視点がかなり高いということ。このあたりはトラックっぽい。目線が高いから足元(タイヤ元?)までしっかり見える感じの視界ではないのだが、高いところから見下ろして走るのは何となく気分がいいし、運転がしにくいというほどのことはない。
運転してみて驚いたのが、乗り心地として「フワフワ」「ゆらゆら」していないこと。大きくて背の高いクルマに乗ると、船に乗っているような「フワフワ」した走りになることがあるものだが、トライトンはしっかりとした走りだった。
走行中のエンジン音は、なんとも説明しようがなくて困るのだが、普通のガソリンエンジン車とは違う音色だった。同乗してくれたモータージャーナリストの方に音について質問してみると、これはディーゼルエンジン特有の音であるとのこと。ディーゼルエンジンのクルマには何回か乗ったことがあるが、ガソリン車との違いをはっきりと感じたのはこれが初めてだったかもしれない。かといって、そこまでうるさくもないし、不快な音とも思わなかった。ただ、普通とは違うというだけのことだ。
ちなみに、「富士ヶ嶺オフロード」(山梨県南都留郡)というところで泥濘路にも挑戦してみたのだが、トライトンの悪路走破性はやはり筋金入りだった。助手席に「ダカール・ラリー」(パリダカ)二連覇達成の神ドライバー・増岡浩さんが乗ってくれていて、指示通りに運転していただけというかなりチートな状況ではあったものの、ほぼペーパー(紙)ドライバーの技術でもエクストリームな路面を難なく乗り切っていくトライトンからは頼もしさを感じた。先代モデルよりもホイールベース(前後のタイヤの間の距離)が伸びたとのことだが、コブだらけのモーグルを走っていてもおなかを地面にこすらないのがスゴイ。
オフロードを走っていて便利だと思ったのは「ヒルディセントコントロール」という機能だ。下り坂を降りる際、同機能をONにすると、前進でも後退でも速度が出すぎないように制御してくれるのだが、そのおかげでハンドル操作とブレーキに集中できて、急な坂でも余裕をもって降りていける。増岡チャンプによると「イオンなどの駐車場でも使える機能なんですよ」とのこと。極限状態の道なき道を踏破してきたチャンプでも、巨大ショッピングセンターの立体駐車場から出庫するときには「すごい角度の坂だな」と思うことがあるのだろうか? 実感のこもった言葉だ。
トライトンのインテリアは上質! 是か非かは置いといて
トライトンのインテリアは乗用車テイストにあふれた仕上がり。乗り込むと、このクルマがトラックの一種だとはとても思えない。良くも悪くも普通の(少し値段が高めの)乗用車にしか見えない質感なのだ。本格オフローダーであることを主張したいクルマは、インテリアにも「道具感」を出しがち。その雰囲気が好きな人もけっこういるはずだが、トライトンは乗り込んでしまえば「道具感」はほとんど感じられない。
後席に座ってみると、狭そうという先入観は裏切られた。身長174cmほどだが膝とフロントシートの間にはこぶし2つ分ほどの空間がある。意外だったのが背もたれで、少しリクライニングしたような傾斜が付いているのでゆったりとした姿勢で乗ることができた。
このあたりについて三菱自動車の人に聞いてみると、後ろに荷台が付いているピックアップトラックは一般的に、後席の居住性が犠牲になりがちとのこと。背もたれが垂直に近くて、後席に乗ると窮屈な思いをせざるをえないのが宿命だったそうだ。それを新型トライトンでは、シートの形状や内部のパッドの形状などを見直すことで、後席の居住性を高めたのだという。先代モデルに比べてホイールベースが伸びたことも、人が乗るスペース(キャビン)の広さにプラスの効果をもたらしたそうだ。
トライトンの荷台は使えるスペースなのか?
荷台は普通のクルマの荷室のように使えるのだろうか。
まず、そのままの状態だとフタが付いていないので、荷物が雨にぬれたり、場合によっては盗まれたりする懸念がある。そのあたりは普通の荷室と根本的に異なるところだろう。ただ、純正アクセサリーとして「ソフトトノカバー」(19万7,560円~)と「ハードトノカバー」(34万7,600円~)が売っているし、「キャノピー」(68万6,400円~)というものを付ければ荷台を広大なカーゴスペースに変身させてしまうこともできる。
広い荷台に小さな荷物を積むと、走行中に滑ったりぶつかったりしてガタガタしそうだ。そのあたりについて三菱自動車の人に聞いてみると、トライトンの荷台の壁には、ホームセンターなどで買える「2×4」(ツーバイフォー)というサイズの板がピタリとはまるような溝がほってあるという。うまく間仕切りを作れば荷物をガタつかせずに済むかもしれない。
トライトン試乗の結論:性能の割にはお買い得?
考えてみると、トライトンは本格オフローダーにしては安いのではないだろうか。
悪路走破性を売りにするクルマというと、思い浮かぶのは例えばトヨタ自動車「ランドクルーザー(300)」(510~800万円)、ランドローバー「ディフェンダー」(759万円~)、メルセデス・ベンツ「Gクラス」(AMGの限定モデルだと3,200万円)などだが、これらに比べるとトライトンはかなり安い。ランクルは「70」だと480万円なので、これは迷う。
同じピックアップトラックと比べるとどうなのか。日本で買えるのはトヨタ「ハイラックス」とジープ「グラディエーター」くらいだと思うが、ハイラックスは2.4Lディーゼルエンジン搭載でボディサイズが5,320mm/1,900mm/1,840mm、価格が407.2万円~477.2万円だからかなりの悩みどころだ。現行型ハイラックスの日本投入は2017年、トライトンはフルモデルチェンジしたばかりということを考慮すれば、トライトンが安く感じるかも? グラディエーターはカッコいいのだがサイズが5,600mm/1,930mm/1,850mm、価格が960万円だから、ちょっと別物といったような雰囲気だ。
日本にトライトンが本領を発揮できるような悪路があるのかといえば多分ないとは思うのだが、いざとなったらスゴイんだよというクルマで涼しい顔をして道路を走るのは、それはそれで気分がいいものだ。もちろんGクラスもディフェンダーもランクルも、とても速いメルセデス・ベンツのAMGやポルシェのタイカンだって日本の道路では本気を出せないわけだが、それでも乗っていると気分がいいのである。
トライトンも、そうやって楽しむクルマの有力な選択肢として検討されてもいいはずだ。サーフィン、スノーボード、キャンプ、釣り、DIYなどの趣味がある人にはバッチリはまると思う。