フォルクスワーゲンの大定番商品「ゴルフ」に高性能バージョン「ゴルフR」が追加となった。このクルマの歴史で最強のエンジンを搭載し、走りに特化したさまざまなハイテク装備を備える究極のゴルフだが、へなちょこ運転のペーパードライバーでも乗ったら楽しいのだろうか。箱根で試してきた。

  • フォルクスワーゲン「ゴルフR」

    紙ドライバー、「ゴルフR」に乗る!

派手さのないスーパースポーツカー?

ゴルフRは速そうに見えないクルマだ。少なくとも、普通のゴルフと劇的な外見上の違いがあるわけではない。ところが中身を見ると、駆動方式やら性能やらの重要なところが大きく違う。「羊の皮をかぶった狼」と呼ばれる所以だ。値段は通常版ゴルフの最も安いグレード「eTSI Active Basic」(1.0Lのマイルドハイブリッド搭載エンジン)が315.9万円であるのに対し、ゴルフRは639.8万円だから約2倍である。

  • フォルクスワーゲン「ゴルフR」
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  • 「R」のマーク、専用デザインのバンパー、ボディと同色のサイドシル、「R」ロゴ入りのブレーキキャリパー、グロスブラックのリヤディフューザー、4本出しのマフラーなどが「ゴルフR」の外見上の特徴だ

ゴルフRとゴルフは具体的にどう違うのか。顔が違う。足が違う。クセが違う。パワーが違う。先代ゴルフRと新型ゴルフRを比べると最高出力は10ps、最大トルクは20Nm向上。去年の人と比べる人たちは、ごめんねと謝ることになるはずだ。

  • ゴルフ(何車種か抜粋)とゴルフRを比べてみる
グレード eTSI Style TDI Style GTI R
エンジン 1.5Lターボ+MHEV 2.0Lディーゼルターボ 2.0Lターボ 2.0Lターボ
最高出力/最大トルク 150ps/250Nm 150ps/360Nm 245ps/370Nm 320ps/420Nm
全高(全長4,295mm、全幅1,790mmは共通) 1,475mm 1,475mm 1,465mm 1,460mm
車両重量 1,360kg 1,460kg 1,430kg 1,540kg
駆動方式 前輪駆動(FF) FF FF 4輪駆動(4MOTION)
価格(万円) 401.2 421.8 486.2 639.8
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    ちなみに、こちらが通常版「ゴルフ」(eTSI Style)

今回はゴルフRで箱根の芦ノ湖スカイラインや周辺の一般道を走ってみたのだが、上り下りとワインディングの入り混じる山道を小さくて速いクルマで駆け抜けるのは非常に楽しかった。へなちょこドライバーの雑なハンドル操作であるにもかかわらず、地面にびたっと貼りつくような感じで軽々と難所を切り抜けていくゴルフR。おそらく、走りを強化するさまざまなテクノロジーが見えないところで全力で仕事をしていたのだろう。

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    「ゴルフR」は「Rパフォーマンストルクベクタリング」を搭載する4輪駆動車だ

ゴルフRでは専用の走行モード「レースモード」が選べる。ハンドルに付いている「R」ボタンを押すと、すぐにレースモードが起動する。「レース」とか「トラック」といった名称の走行モードは、クルマがどんな挙動になるかわからず怖いので普段であれば使用しないのだが、今回は気分が乗ってきたので試してみた。

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  • ハンドルの下の方に「R」のボタンがある。押したら「レースモード」が起動する

レースモードのゴルフRはハンドルが重くなり、アクセルを踏んだ時の反応(加速)が鋭くなり、エンジン音がカッコよくなって、いかにもスポーツカーに乗っているという気持ちを高めてくれるのだが、そこまで飛ばさないで乗っていたからなのか、別に不安になるような要素は見つからなかった。

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  • メーターの表示がいろいろ選べるのも嬉しい

フォルクスワーゲン ジャパンのゴルフR担当者いわく、このクルマは「どんな人でも本格スポーツを楽しめるというのがコンセプト。コーナリング性能やアクセルのパワーの出方などを細かくチューニングしているので、扱いやすいハイパワースポーツモデルになっている」とのこと。

ゴルフ唯一の4輪駆動モデルでもあるゴルフRには、後輪の左右に異なるトルクを配分するハイテクな機能が入っている。ほかにも走りに関する技術は盛りだくさんだ。そのあたりについて担当者はこう解説する。

「カーブを曲がるときは、より荷重のかかるタイヤにトルクを多く配分した方がいいので、リアの左右でトルク配分を調整しています。これによりFR(エンジンを前に積んで後輪を駆動するタイプ)のように、後から押し出されるような走りが可能になります。トルク配分は『ビークルダイナミクスマネージャー』が細かくモニターしていて、『DCC』(オプション)が4つのダンパーの減衰力も微妙に変えていますから、思い通りのラインを描いてドライビングが楽しめたのではないでしょうか。要するに、ぐりぐり曲がるクルマになっているんです。走る、曲がる、止まるの全てが一段上に昇華したゴルフだと考えていただいていいと思います」

ゴルフRの機能は普段使いにはトゥーマッチだと思うが、同氏によれば「ファーストカーに高級車を持っている方が、普段の足としてゴルフRをお買い上げになる」ケースもあるそう。ちょっと何をいっているのかわからないといった感じの世界だが、ゴルフRのベースは大定番のゴルフなので、荷物も積めるし、まあ、そういう使い方もアリなのかもしれない。ポルシェやメルセデス・ベンツのAMGといったような、ドイツの超高級スポーツカーに憧れているような人たちも、ゴルフRの顧客になっているという。

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  • 速さのために荷室を犠牲にしたり、後席をすべて取り外したりしているわけではないので、「ゴルフR」を普段使いしても特段の問題はなさそうなのだが、何だか少し引っかかるところはある

詳しい方は、ゴルフRなのにレザーシートではなくファブリックのシートを装着しているところに疑問を感じていらっしゃるかもしれない。ゴルフの最上級であるRのシートはレザーが当たり前だったからだ。そこには半導体不足の問題が絡んでいるとのこと。というのも、レザーシートには背もたれや座る位置を電動で調整できる機能がセットになる決まりなのだそうだが、ここに使う半導体の確保が難しいので、今回はR専用のファブリック&マイクロフリースシートになったらしい。ファブリックの方がコストが下がるし、滑りにくくてホールド性が高いので、スポーツ走行には向いているとの見方もあるそうだ。