この仕事の楽しいところはいろいろなクルマに乗れることだが、現時点で最高の1台に、ついに出会ったかもしれない。フィアットの電気自動車(EV)「500e」(チンクエチェントイー)だ。もともと小さくて楽しく、乗っていて気分がいい「500」の魅力が、電動化でさらに増したのではないだろうか。
試乗したのは屋根を開けばオープンカーになるカブリオレタイプの「500e」。グレード名は「500e OPEN」(オープン)、価格は495万円だ。
内装は方向性が変わったのかも?
まずは見た目。威圧感ゼロ。2021年に試乗した「500c」(ガソリンエンジン搭載、カブリオレタイプの500)と比べてみると、電動化したからといって大きくイメージチェンジするのではなく、もともとの愛嬌あふれる姿を基本的にはキープしていることがわかる。
内装は落ち着いた感じに。外観よりも変化が大きいような気がする。500cに比べると遊びの部分が少ないと思うのだが、どうだろう。
電気になっても楽しいドライブ
次に走り。これまでいろいろなEVに乗ってきた中で、例えばテスラだったら、アクセルを踏み込むとワープするような加速をしてくれて面白かったのだが、500eは目の覚めるような速さを武器とするEVではないようだ。ただし、エンジンを搭載する500に比べても、ほかのエンジン車に比べても出足の素早さは素晴らしいし、80km/hくらいまでスムーズに加速してくれるしで、ストレスがないどころかアクセルを踏むのがとても楽しいクルマだった。タイミングがシビアな車線変更であるとか高速道路への合流、高速道路上での追い越しなどで、電気の加速が存分に力を発揮してくれた。
500eにはドライブモードが3つあって、アクセルペダルを戻したときの減速感は2種類ある。「ノーマルモード」はガソリンエンジン車的な味付けで、アクセルを戻してもスーッと滑走していくような感じ。「レンジモード」と「シェルパモード」ではアクセルを戻すと回生ブレーキが効いて減速してくれる。減速の強さはペダルの操作に応じていて、パッと足を戻せば強く効くし、ジワリと戻せばスムーズに止まれる。ワンペダルは初めてだとギクシャクするが、紙ドライバーでも小一時間で慣れたので心配なしだ。
レンジとシェルパでは、アクセルを完全に戻すとクルマを停止させることが可能。試乗ではほぼレンジモードに入れて一般道も高速道路も走ったが、ブレーキペダルを踏む回数は本当に少なかった。
せっかくだからイタリアっぽい写真が撮れないかと思い、少し心当たりがあったので新橋周辺の路地を走りながら場所を探していたのだが、こういうところで乗ると、500eの良さが実感できる。なにせ小さくて運転しやすいし、バックで駐車するときにはモニターに後ろを映し出してくれたりもするので、狭い道でも安心して入っていけるのだ。
気になる点もあるけれど
500eには気になるところもある。例えば、
- 左足の置き場が狭い
足元が狭くて、左足のフットレスト的な場所がないというか、そこも狭いから、足の置き場には困る。右足はワンペダル走行でとても楽だが、長い距離を乗ると左足は疲れるかも。ただ、そもそもしばらく走ったら充電しなければならないクルマだから、その時に左足を休めれば問題なしではないかとも思う。
それから、
- 視界がそんなによくない
前方はルームミラーの存在感が結構ある。上も、信号機に近づきすぎると確認しづらい。
もうひとついえば、
- 航続距離が短い
充電100%で乗り始めたのだが、航続距離は最初から200km台後半と表示されていた。この数字、「ノーマル」モードで最も短くなり、「シェルパ」モードに入れれば伸びはするものの、さすがにバッテリー残量が50%台くらいに入ってくると、多少は不安を感じた。遠出するなら充電スポットの調査と立ち寄り計画の立案は必須だ。せいぜい50km、長くて100kmくらいしか乗らないという人であれば、ほぼ心配なしだろうとは思う。
あえていえばこんなところだが、500eの長所は短所を補って余りあるほど見つかると思う。
エンジン由来の音も振動もない500eからは、フィアット500ならではの魅力が感じられない、とおっしゃる方もいらっしゃるのかもしれないが、そのあたりに懐かしさ、思い入れがないという我ら紙ドライバーにしてみれば、小さくて、高速の合流など必要な際には素早くダッシュができて、ワンペダル走行の楽しさと快適さがあって、見た目が個性的で乗っても眺めても気分がいい500eは、かなり魅力的な入門編EVなのではないだろうか。500が200万円台であるのに対して500eは400万円台と価格は気になるものの、個人向けリースプログラム「パケットFIAT」なら月々3.9万円~で上位グレード「アイコン」に乗れるとのことだ。
500では黄色やオレンジなどの特別仕様がよく登場していた。500eでもカラフルな限定モデルが出るのかどうかは不明だが、大いに期待したいところだ。