街を歩いていて、すごいエンジン音に思わず振り向くことがある。たいがいの場合、ランボルギーニだ。紫だったり黄緑だったり、あるいはオレンジ色だったりする低くて角ばったクルマは、いかにも成功者のトロフィーといった雰囲気で自分には縁がなさそうに感じていたのだが、ラッキーなことに今回、乗ることができた。運転初心者がランボルギーニ。冗談みたいなシチュエーションではあるが、そもそも普通に乗りこなせる代物なのだろうか。不安と楽しみが7:3くらいの気持ちで試乗に向かった。

  • ランボルギーニのクルマ

    ランボルギーニにペーパードライバーが乗ってみた

公道のレーシングカー?

参加したのは、アウトモビリ・ランボルギーニ・ジャパンが開催した試乗イベント。東京・六本木の「THE LOUNGE TOKYO」に集合してイタリア風の朝食をいただき、歩いて数分のリッツカールトン東京からランボで出発、「箱根リトリート」で昼食・茶事を楽しんで帰ってくるという流れだった。

  • ランボルギーニの「THE LOUNGE TOKYO」
  • ランボルギーニの「THE LOUNGE TOKYO」
  • 国立新美術館の近くにある「THE LOUNGE TOKYO」。地下にはスーパーカーを購入するオーナーが内外装をカスタマイズする「アド・ペルソナム・スタジオ」(写真)がある

  • ランボルギーニのクルマ

    リッツカールトン東京の車寄せにひしめくランボルギーニ。日本に来たことのない海外の映画監督が「現代の東京」を舞台に作品を撮るとしたら、こんな絵コンテが1枚くらいは混ざっているのではないだろうか

箱根の往復で2台に乗れたのだが、選択できたのは「ウラカン」の「EVO」「RWD Spyder」「STO」とSUV「ウルス」の4台。ランボに詳しい知り合いにオススメを聞いてみると「せっかくだからSTO、あとはウルスでいいんじゃない?」とのことだったので、何も考えずにそのままリクエストを出した。試乗当日の朝、この選択を少し後悔することになる。というのも、THE LOUNGE TOKYOで挨拶に立ったランボルギーニ・ジャパンのダビデ・スフレコラさん(ゼネラルマネージャー)が、ウラカンSTOのことを「true beast」(真の野獣?)であると紹介したからだ。

  • ランボルギーニ「ウラカンSTO」

    「ウラカンSTO」は「公道を走れる最高なレーシングモデル」という触れ込みのクルマ。「STO」は「Super Trofeo Omologata」の略で、「スーパートロフェオ」はランボルギーニが実施しているワンメイクレース、「オモロガータ」は「ホモロゲーションモデル」(市販車ベースでレース参戦用に開発したクルマ)のこと。見た瞬間、「これは、素人が手を出していいクルマではない!」と直覚したが、今さら後には引けない……

とにかく小さくてすばしこくて小回りの利く、どちらかというと小動物系のクルマが好きなペーパードライバーにとっては、ただの牡牛でも御しがたいはずなのに、よりにもよって野獣に乗ることになってしまった。緊張でエスプレッソも喉を通らない。

「ウラカンSTO」(往路) 「ウルス」(復路)
ボディサイズ(全長/全幅・ミラー除く/全高) 4,547mm/1,945mm/1,220mm 5,112mm/2,016mm/1,638mm
エンジン 5.2リッター自然吸気V型10気筒 4.0リッターV型8気筒ツインターボエンジン
駆動方式 後輪駆動 4輪駆動
最高出力/最大トルク 470W/565Nm 478kW/850Nm
最高速度 310km/h 305km/h
0-100加速 3.0秒 3.6秒

真の野獣を手なずけることはできたのか

ウラカンSTOに乗り込むと、とにかく視線が低くなる。車内は広々としていないし、シートもフワフワじゃない。さらには左ハンドルで、横幅が結構ある。ルームミラーにはエンジンのカバー(?)が大きく映り込んでいて、ほとんど後ろが見えない。最新の乗用車に比べるとナビの画面は小さい(ただ、iPhoneをUSBでつなげてApple CarPlayを使うことはできた)。そんなこんなで不安は募ったのだが、赤いカバーを開けてエンジン始動ボタンを押すと「ウワーン!」という快音が鳴り響き、細かいことはどうでもよくなってきた。

  • ランボルギーニ「ウラカンSTO」

    ナビはここに映る

  • ランボルギーニ「ウラカンSTO」

    ルームミラーには大きな映り込みがあって、隙間からしか後方を確認できない

  • ランボルギーニ「ウラカンSTO」

    エンジン始動スイッチには赤いカバーが。シフトボタンには「D」がないので、ハンドルの後ろに付いているパドルで1速に入れて走り出す。スーパーカーなので、もっといろんなスイッチ類が並んでいるものと思っていたのだが、とてもシンプルなので驚いた

  • ランボルギーニ「ウラカンSTO」

    ウインカーはレバーではなく、ハンドルに付いているスイッチで出す。慣れれば簡単だ(写真はハンドルが天地逆向きになっています。見づらくてすみません)

まずは六本木の道路に出て、渋谷インターチェンジから首都高に入る。東名高速に出るまでは道がかなり混雑していて、左ハンドルで幅の広いクルマを運転する緊張感にさいなまれていた。ただ、平日の朝の流れのいい東名に出ると、松田優作ばりの高笑い(映画『『蘇える金狼』』より。優作さんは「カウンタック」だったけど)こそこらえたものの、だんだん運転が面白くなってきた。

乗り心地は硬いものの、公道のレーシングカーだと思えば当たり前だし、そこまでガタガタするわけでもない。ハンドルはアルカンターラの表皮で触感がよく、手汗で滑ったりもしない。スピードについては法定速度で走ったので、本来の力がいかほどのものなのかは知るべくもないが、追い越しなどで片鱗は感じられた。それと音だが、低いギアでアクセルを踏み込めば爆音が響き渡るものの、高いギアで巡行している分にはほどほどで、決してうるさくはない。

  • ランボルギーニ「ウラカンSTO」

    疾走する「ウラカンSTO」。正規ディーラーのコーンズ・モータースのHPを確認すると、車両本体価格は4,125万円(!)とのことだった。知らずに乗って、かえってよかったかもしれない

箱根まではプロドライバーが運転するアウディに先導してもらい、黄色のウラカンEVOを追いかける形でドライブを楽しんだ。2台のスーパーカーでハイウェイを疾走する姿は、ほとんど『グランド・セフト・オートV』(テレビゲーム。略してGTAV)の世界観。主人公のひとりであるフランクリン・クリントンになりきっ……たら危ないので安全運転に徹したが、気分は高まる。

道中では、ホンダ「フィット」としばらく並走する格好になった。フィットの後部座席に乗っていた5~6歳くらいの少年は、窓ガラスに額をくっつけんばかりの勢いでこちらを見ていた。フィットでもウラカンでも、東京から箱根までは大体2時間で、大してタイムは変わらない。ただ、少年からキラキラした瞳で見送られるというのは、スーパーカーに乗る者ならではの体験なのではないだろうか。

  • ランボルギーニ「ウラカンSTO」

    なにせこういうクルマだから、注目が集まるのは間違いない

東名高速を御殿場で降りて箱根の山道に入ると、最後の試練が。数日前に雪が降ったとのことで、路肩の積雪が溶け残っていたのだ。ワイドボディの左ハンドル車で狭い山道を走っているのに、対向車とのすれ違い時に左側の路肩にはみ出すことができない。思い出すとヒヤヒヤものなのだが、運転していると操作性が高いというのか、ハンドルを切った通り自在に曲がってくれるからなのか、びたっと車線内を走ることができるので、そこまで不安がない。飛ばして走るのが面白いクルマなのかと思いきや、ワインディングも相当、得意なようだ。公道のレーシングカーを名乗るクルマなので、当然といえば当然だ。

ひとつだけ絶対に気を付けるべきなのは、車高が低いのでフロントバンパーのあたりを地面にこすってしまう可能性があること。ボタンひとつで車高を上げ下げできる「フロントリフター」という機能が付いているので、急な坂道や段差の前には必ず作動させよう。

  • ランボルギーニ「ウラカンSTO」

    箱根リトリートの料亭「俵石」に「ウラカンSTO」で到着!

  • 箱根リトリート
  • 箱根リトリート
  • 箱根リトリートではランボルギーニとコラボしたスペシャルランチが登場! 伊東で捕れた魚の料理にリゾット、カツレツ、ティラミスなどのイタリア料理を組み合わせた豪華なコースを堪能した後は、裏千家の准教授という方にお茶までふるまっていただいた

復路で乗った「ウルス」はスフレコラさんによれば「最速のSUV」とのことだが、これが同じランボルギーニかと思うくらい乗り心地はゆったりとしていて、大きさこそかなり気になるものの、慣れてくればリラックスした気持ちで乗ることができた。

  • ランボルギーニ「ウルス」

    ランボルギーニを購入する人は90%以上が左ハンドルを選ぶらしいが、「ウルス」に限ってはその割合が70%台となるそう。SUVをラインアップに加えたことで、ランボルギーニが新しい顧客に接触できている証拠かもしれない。ウルスの価格は約3,068万円

というわけで、結果として、ランボルギーニは運転初心者も受け入れてくれる懐の深いクルマであることがわかった。STOでは少し肩が凝ったが、集中してスーパーカーを運転することには、スポーツにも通じるような面白さがある。どんなクルマに乗っても目的地までの所要時間はほとんど変わらないわけだが、一部のキッズから注がれる憧れのまなざしを浴びながらドライブを堪能し、箱根の旅館で心地よい疲労感をいやすことができたとすれば、貸し切り露天風呂で「地球に生まれてよかったー!」とでも叫びたくなるかもしれない。

THE LOUNGE TOKYOを出発する際、見送ってくれたスフレコラさんに「いつか、客として戻ってきたいもんですなあ」とかなんとか軽口をたたいてしまったので(簡単な英語でいえそうな軽口がこれくらいしか浮かばなかったのだが)、いつかランボルギーニを購入するため、今日から頑張ることにしよう。