パナソニックは、8月21日に「スマート家電」の製品群を発表し、この秋から発売している。パナソニックのスマート家電の特徴となっているのが、スマートフォンを使用するという点だ。「スマートフォンが使えるからスマート家電と言っているのでは?」という声も一部にはあるようだが、そんな単純な話ではない。
スマートフォンでスマートに操作!? - パナソニックのスマート家電
現時点でのラインナップは、トップユニット冷蔵庫「NR-F557XV」、ななめドラム洗濯乾燥機「NA-VX8200」、ルームエアコン「Xシリーズ」、スチームオーブンレンジ「NE-R3500」、スチームIH炊飯ジャー「SR-SX102」、体組成バランス計「EW-FA43」活動量計「EW-NK63」、手くび血圧計「EW-BW53」の全8機種だ(NE-R3500とSR-SX102は6月発売)。
専用アプリの「パナソニックスマートアプリ」(対応機種はパナソニックのWebサイトを参照)を利用して、家電製品の情報を表示したり、家電製品をコントロールしたりするというのが、パナソニックのスマート家電の"スマート家電たる"機能。家電製品本体の操作パネルで行う操作を、前もってスマートフォンで行い、家電製品にタッチすることで、その設定を転送するというのが基本的なスタイルだ。
ななめドラム洗濯乾燥機「NA-VX8200」を例に挙げよう。ドラム型洗濯機のユーザーの場合、何も考えずに「おまかせ」(または「標準」)コースで、洗濯を行っているというケースが多いのではないだろうか。ところが、最近の洗剤には、すすぎの回数が少なくて済むタイプのものも多く存在する。こういった洗剤を使って、洗濯機の「おまかせ」コースで洗濯を行った場合、洗濯機側ではどんな洗剤を使用しているかを検知しないため、通常どおり、2回のすすぎを行ってしまう。しかし明らかに資源のムダだ。
パナソニックスマートアプリを使用した場合、使用している洗剤を選んで、洗濯機にタッチするだけで、その洗剤に適したコースが自動的に設定される。また、洗剤や柔軟剤の量も画面に表示されるのでそれにあった分量だけ投入すればOKだ。
もちろん本体の操作パネルでも、すすぎ回数を変更することができる。カスタムコースである「わたし流」コースを選べばよい。しかし、本体の操作パネルはスマートフォンの画面に比べて画素数が少なく、表示される情報量も少ない。それに、洗剤の種類から選べるような柔軟な操作には対応していない。毎年のように新製品が発売される洗剤や柔軟剤のデータを本体側に持たせるというのは、やはり無理があるだろう。
NA-VX8200の場合、洗剤、柔軟剤の指定以外に、コースや予約の設定、エコ情報の確認、運転状況の確認、使い方ガイドといったサービスをパナソニックスマートアプリから利用可能だ。このように、スマート家電ならではの機能を備えた製品だといえるだろう。
スマート家電専用のインフラを構築すべきか?
さて、スマート家電というと、ネットワークに常時接続されており、リアルタイムに状況をモニタリング、または操作を行えるというイメージが強い。しかしパナソニックのスマート家電群は、情報の受け渡しがスマートフォンでタッチしたときにだけ行われるため、情報をリアルタイムにクラウドサービスへ送ることはできないし、受け取ることもできない。
しかし、家電製品の多くは、常にリアルタイムでのネットワーク接続を必要としているわけではない。動作のための条件を設定する時と動作の結果を受け取る時だけ、ネットに接続できれば問題がないというものも少なくない。
消費電力の場合や、洗濯機の使用水量をモニタリングする場合は、リアルタイムでの確認画やはり便利かもしれない。だが、消費電力が多いからといって、洗濯の途中でコースを変更するといったことは現実的ではない。結局、洗濯が終わった段階で、それらのデータが見られれば十分だと言えるだろう。
パナソニックには、ネットワークに常時接続する家電製品が、ほかにもある。1つは、薄型テレビ「VIERA(ビエラ)」を中心としたAVネットワーク機器だ。レコーダーの「DIGA(ディーガ)」はもちろんのこと、パーソナルファクシミリ、ドアホンやセンサーカメラといったセキュリティ機器なども、ネットワークで接続可能だ。
もう1つは、パナソニックエコソリューションズ(旧松下電工)が展開する「スマートHEMS(ホームエネルギーマネージメントシステム)」に対応した製品群だ。「AiSEG」(アイセグ)と呼ばれる制御装置をコアとして使用し、太陽電池や充電ユニットと組み合わせて、家庭内でのエネルギーの制御と、"見える化"、機器の制御を行うシステムだ。これらの機器は有線のLAN、無線LANなどで接続するスタイルを採っている。
さて、以前パナソニックの方に伺ったところ、今回のスマート家電群は、「あくまでも家電製品としての性能を優先している」と語っていた。優先順位は"スマートさ"ではなく"家電"にあるのだ。
常時接続にはコストがかかる。家電製品がネットワークインタフェースを持つというだけでなく、家庭内でのネットワーク配線についても考えなければならない。機器の数が増えてくれば、無線LANも使いにくくなる。
今回のスマート家電群は、スマートフォンという既存のインフラを利用することで、性格的には、ネットワークに常時接続するタイプの家電製品と、スタンドアローンでの動作しかできない家電製品との中間的な存在となっている。しかしそのことが、このスマート家電群を、ネットワークや発電・蓄電のインフラを家庭内に新規に設けなくても利用できる、手軽で現実的な"スマート家電"として成立させているといえるだろう。
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