今回は、ちょっと微妙な話に踏み込もうと思う。筆者が先日、ある製品を購入するため、その製品の発売日に近所の量販店に出向いた際のことだ。近所の量販店では、その製品はまだ店頭には並んでいなかった。系列の異なる量販店を何件か回ったのだが、やはり同様だ。その1週間後、再び近所の量販店を回ってみたのだが、やはり置かれていなかった。店舗によっては、その前世代のモデルが大量に並べられていたりする。
テレビやレコーダー、冷蔵庫などの主力商品に関してはそのようなことがあまりない。だが、消耗品や小物などの場合は、入荷が遅かったり、そもそも取り扱っていなかったりするケースが、わりとよくある。何を仕入れて、何を仕入れないのかは、あくまでもその店の判断だ。ただ、どの店も同じ判断をしているとなると、それはやはり不便だ。
筆者の個人的な印象だが、こういった事例は、郊外型の量販店でわりとよく起こるようだ。以前、自己放電の少ないNi-MH充電池が出始めた際、三洋電機の「eneloop(エネループ)」とパナソニックの「HHR-3MPS」両方を手元に揃えるのにかなり手間取ったことがある。当時、eneloopは比較的多くの店に置かれていたのだが、HHR-3MPSは発売日をしばらく過ぎても、なかなか店頭で見付けられなかった。同じように、パナソニックの電源タップ「ザ・タップX」を発売日直後に購入しようとしたときも、なかなか入手できずに苦労した記憶がある。読者の皆さんも、似たような経験をしたという方は多いのではないだろうか。
その種類の製品が並んでいればよいではないかという考えもある。自己放電の少ないNi-MHバッテリーという点では、eneloopもHHR-3MPSも同種の製品だ。電源タップに関しても、ザ・タップX以外の製品は、何種類も店頭に並んでいる。しかし、製品それぞれに特徴があり、こだわりがある人にとっては、やはり別々の製品だ。例えば、HHR-3MPSは当時のeneloopに比べて初期の電圧が高かった。一方で、当時のeneloopはHHR-3MPSに比べて長期保存に向いていた。ザ・タップXは、耐トラッキング性や防水・防塵機構、プラグのロック機構などを備えたタップだ。そういった製品がどうしても必要だという人も少なからずいるだろう。
どのメーカーの製品でもあまり性能に差がないと考えられるものならば、品揃えが少ないことはたいして問題にはならない。例えば、"FG-1E(グロースターター)は●●製に限る"という話は、聞いたことがない。現在の郊外型量販店は、他の製品で代用しても全く問題のない"消耗品"を購入するには良いが、製品を選ぼうとすると、がっかりさせられることが少なくない。郊外型の量販店はそういうものだと言われてしまえばそれまでだが、筆者のように、日常的に足を運べる家電販売店の選択肢がそれしかない人は多いのではないだろうか。
パナソニックグループの直販サイト「パナセンス」 |
そのため、筆者の場合、通販の利用頻度が高くなっている。メーカーが運営するショッピングサイトの場合もあるし、大手の通販サイトの場合もある。いずれにせよ、そこに行けば、希望の製品を指定して購入することができるわけだ。
郊外型量販店の大量出店による「既存店の淘汰→画一的な品揃え→通販への依存度の高まり」という流れは、別の業界がたどってきた道に近いとは思わないだろうか。他でもない、出版流通だ。
通販で希望のものが入手できるのだから良いではないか、という考えもあるだろう。しかし、本好きにとっては、書店に行くこと自体が楽しみの一部でもある。同じように、家電好きにとっては、家電販売店に行くこと自体が楽しみの一部なのだ。
個性的な品揃えは、効率を考えればマイナスで、そこを追求し過ぎると、たとえ名門企業でも生き残れないケースがあるという現実は理解しているつもりだ。だが、それはあくまでも程度の問題なのではないだろうか。書店の場合、店頭で見つけた本を衝動買いしてしまうことはよくあるし、そういうことが多い書店には、店の規模に関わりなく、頻繁に足を運ぶようになる。どこも同じ無個性な品揃えでは、こういったことは起こりにくい。
もちろん、書籍と家電では、事情が全く同じではないだろう。一方は再販制度で価格が決められた商品で、もう一方は激しい価格競争が行われている商品だ。それに加えて、商品に趣味の要素が占めるウェイトも違うだろう。それでも、そういった部分を切り捨てていくと、結局はAmazonとコンビニしか残りませんでした、といったことになりそうな気がしてならないのだが、それは筆者の杞憂だろうか。