ここ2~3年、電気ケトルを使用している人が増えているようだ。電気ケトルが国内市場に普及し出したのは、2007年頃のことだったと記憶している。当時は、国内メーカーの参入はなく、海外メーカー、特に欧州メーカーの製品が主流だった。2007年に行われたインテリアライフスタイル展では、英国のラッセルホブスが、日本向け製品として電気ケトル「10789JP」を展示しており(実際にブースを出展していたのは国内代理店の大石アンドアソシエイツ)、まだ国内市場では珍しいこともあり、マイナビニュースの記事としても取り上げられていたように記憶している。
電気ケトルには、必要な分だけ素早くお湯を沸かせる手軽さと、使わないときは電力を消費しない経済性、デザイン性の高さなど、いくつものメリットがあり、それまで電気ポットを使っていた人が電気ケトルに乗り換えるというケースが増えているようだ。読者の皆様にも、カップ麺を作ろうとして電気ポットからお湯を注いでいる途中に、「ゴボゴボッ」という音がして、お湯がなくなった経験をお持ちの方は多いのではないだろうか(あの音は、私の周りでは「破滅の音」と呼ばれている)。電気ポットだと、沸騰までに時間がかかるので注ぎ足しをするまでに麺がノビてしまうが、電気ケトルは短時間でお湯を沸かすことができるため、完璧な対応とはいえないまでも、何とかフォローを行うことが可能だ。
電気で保温を行うタイプの電気ポットが普及する前は、国内でも当たり前のように、保温機能がなく、単純に湯を沸かすためだけの電気ポットが存在していた(これを「電気ポット」という名称で呼んで良いのかは、昔のことなので筆者には分からない)。今でいう電気ケトルのような製品だ。
このタイプの"電気ポット"を使用していると、沸かしたお湯を保存するには別に魔法瓶を用意しなければならず、また、真空保温式の魔法瓶にお湯を移しても温度が下がってしまう。こういった欠点を克服するものとして、電気でお湯を沸かした後に保温できる現在の電気ポットが登場した。現在の市場にある"電気ポット"は、沸騰後に保温ができる製品、そして"電気ケトル"は沸騰だけの製品ということになる。
さて、国内電気ポットメーカー大手の象印マホービンでは、2011年に「CK-FS」シリーズの電気ケトルをリリースしている。「CK-FS」シリーズが他の電気ケトルと異なるのが、電気で保温する機能を限定的ながら備えているという点だ。沸騰後、1時間まで摂氏約90度の温度をキープすることができる。
そうなると気になるのが、電気ケトルと電気ポットの境目だ。そもそも、保温機能を持った製品は既に電気ケトルではないのでは……という気もしないではないのだが、その点を同社に伺ってみた。それによると、「CK-FS」シリーズが持つ保温機能は、朝食時にカップスープを作って、食後にコーヒーを入れるという場合に、再度お湯を沸かし直す手間を省く程度のあくまでも限定的な保温機能で、電気ポットと呼べるほどのものではないとのことだ。とはいえ、「CK-FS」シリーズは、製品としては電気ケトルだが、電気ポットに1歩近づいた製品ということになるのだろう。同社によると、「CK-FS」シリーズの販売は非常に好調とのことだ。
「高速沸とう」機能を装備した「CV-VS」シリーズ。電気での保温だけでなく断熱層による保温も行う「VE方式」を採用しており、電気を使わずに90度の温度を2時間キープできる。容量2.2Lの「CV-VS22」(19,950円)、容量3Lの「CV-VS30」(21,000円)、容量4Lの「CV-VS40」(22,050円)が発売されている |
また、現在の電気ケトルと電気ポットとでは、その容量に差があるとのことだ。通常の電気ポットは2L以上の容量であるのに対して、電気ケトルは1L以下が一般的だ。ちなみに、電気ケトルの沸騰速度が速いのは、この容量の少なさに起因している。電気ケトルも電気ポットも過熱方法は基本的に同じであり(IH過熱方式の電気ケトルなどという製品は存在しない)、水の容量が同じならば沸騰までにかかる時間も同じになる。容量が電気ケトルと変わらない電気ポットがあれば、それは電気ケトルと同じ速度でお湯を沸かすことができるとのことだ。
しかし、仮にそういった製品が登場した場合、それは電気ポットではなく保温機能の付いた電気ケトルと呼ばれるのではないのだろうか。なお、象印マホービンでは、「高速沸とう」機能を備えることで大容量(2.2~4L)にもかかわらず沸騰の速い、電気ポット「CV-VS」シリーズをリリースしている。これは電気ポット側から電気ケトル側への歩み寄りのひとつといえるだろう。
電気ケトルと電気ポットの距離は、近付きつつある。今後、製品のカテゴリーで選ぶのではなく、実際の用途で選択するようになっていくことだろう。