棋界に現れた超新星・藤井聡太。歴代5人目の中学生棋士、そして最年少棋士として話題となった藤井は、デビュー後負けなしの29連勝をはじめ数々の記録を打ち立て、国民的スターへと昇りつめた。では、藤井をのぞく4人、加藤一二三、谷川浩司、羽生善治、渡辺明の修行時代、デビュー後の活躍はどんなものだったのだろう。数々の資料をもとに検証し、藤井聡太のそれと比較していく。(全6回)

棋界初の中学生棋士

奨励会に入った加藤九段は順調に白星を重ね、そして入会から2年11カ月後の1954年8月、晴れてプロ四段に昇段しました。

棋界初の中学生棋士誕生! ということで、藤井七段が史上最年少プロとなった時のフィーバーぶりを考えれば、大変な騒がれようだったと想像されますが、意外にも特別大きな扱いはされなかったようです。

『将棋世界Special vol.4 加藤一二三』(マイナビ出版 2013年刊)の巻頭インタビューで、「当時は反響がすごかったのでは?」の問いに、加藤は「プロになった時はさほど反響はなかった。18歳でA級八段になって初めて反響があった」と答えています。

実際、専門誌『将棋世界』でも、加藤一二三四段誕生の報はわずか1/2ページの囲み記事でしか扱われておらず、その前後の号にも目立った取り上げ方は見られません。

  • 中学生棋士加藤四段誕生を報じた記事 将棋世界1954(昭和29)年11月号より

一方の藤井七段は、現在では同誌で恒例となっている、三段リーグを抜けプロ入りを果たした棋士が寄稿する「四段昇段記」こそ他の棋士と同等の1ページ(2016年11月号)だったものの、翌々2017年1月号では「史上最年少棋士はいかにして生まれたか」という特集が組まれ、6見開きものページを使い大きく取り上げられています。

  • 『将棋世界』2017年1月号より

情報伝達のスピードが雲泥の差であることを差し引いても、差がありすぎるような…… ちょっと気の毒な加藤少年。しかし……

「加藤はまだ14才の少年。南口八段の門生。この少年は昭和26年8月29日11歳(3級)で奨励会に入ったとき、未来の名人と宣伝され、その出発からしてまことに華やかであった。 奨励会入会後の進級ぶりを眺めてみよう。27年12月入段。28年4月二段。同年12月三段、29年8月四段卒業。丸三年で6階級昇進の快記録を出している。この調子で進めば、18才でA級入りする勘定となり、19才挑戦試合。名人。ともソロバンにハジキ出されよう」

内容には、将来への大きな期待が込められていました。そして、その「ソロバン」通りの快進撃が始まるのです。

次回は『順位戦4期連続昇級で18歳A級八段の快挙』『ようやく来た加藤フィーバー』をお送りします。