「CLASSY.」2014年9月号

女性誌における「イケメン」の扱い

最近、「ユリイカ」のイケメン・スタディーズという特集のために、「イケメン」とは何なのかをずっと考えていました。だからでしょうか、雑誌を見ても、どうしてもイケメンの扱いが気になります。

今売っているアラサー向け女性誌を見てみると、「steady.」には、佐藤健のインタビューが、「BAILA」は、同じく佐藤健、2PMのJUNHO、織田信成のインタビューが掲載されていました。

中でも、一番興味深かったのは、「CLASSY.」です。「CLASSY」は、実写版「ルパン三世」に出演の小栗旬、玉山鉄二、綾野剛のインタビューや、「旬な男に会いたい」という連載でも、元プロ野球選手の工藤公康の息子で俳優の工藤阿須加のインタビューなど、グラビアページも充実しているのですが、それだけではありません。

「OCEANS」の男性をイケメンとして考える

「海を感じるカジュアルがいまの気分」という第一特集で、「『OCEANSな彼』とデートがしたい!」というページもあったのです。「OCEANS」の男性たちを、現代の「イケメン」に入れていいのかどうか、という迷いもありますが、今回は彼らを「イケメン」として考えてみたいと思います。

この「OCEANSな彼」の「OCEANS」とは、International Luxury Mediaが出版している男性ファッション誌のことです。誌面には「37.5歳」というキーワードが見られ、ファッションは男らしさの感じられるカジュアルが中心。タイトルが「海」を意味するだけに、サーフィンをやってそうな大人の男性が読んでいるイメージです。

そんな「OCEANS」の男性たちのことを、「CLASSY.」は、「いま一番オシャレな男子」とべた褒め。「OCEANS」な彼とデートするときは、彼のファッションと行動をさまたげないファッションをチョイスすることに努力を惜しみません。

例えば、白シャツ×デニムの彼にあわせるときは、色使いは紺やグレーなどクールなものを選び、ふんわりしたスカートでさりげない女らしさを加えます。また、白とグレーという彼好みのミニマルな配色、Tシャツにスウェットのミニタイトというミニマルなシルエットでリラックスと女らしさをミックスしたり……。

こうしたコーディネートに対して、実際に「OCEANS」の編集長、副編集長がコメントをしているのですが、「いかにも"気合入ってます。"って感じのキメキメの着こなしでデートに来られると、街を一緒に歩くのが気恥ずかしいから、こんな"抜け感"のあるスタイルは大歓迎」とのこと。

女性誌のファッションは男性にあわせるものが主流に!?

近年は、「デートなのに歩きにくい靴で来るとかありえない!」というようなエピソードもよく聞きますが、以前に比べると、T.P.Oというものが周知されたのと同時に、ファッションは男の子に合わせるものになっている現実にも気づかされます。

例えば、2000年代のドラマ「やまとなでしこ」を見返していたとき、ヒロインで松嶋菜々子演じる桜子は、デートには当然のごとくハイヒールにワンピースで登場。結局、デートで、なぜか釣りにいくことになるのですが、どちらかというと、当時は「デートで釣りなんてありえない!」という空気で描かれていたと思います。

当時は、デートとは女性がエスコートされるもので、男性と一緒になってアクティブに出かけるという意味合いは少なかったのだなと思いましたし、デートに歩きやすいスニーカーで来てほしいという概念もあまりなかったのだと思いました。もしも今、「やまとなでしこ」の桜子ような気合の入ったコーディネートでデートに現れれば、一部の男性たちからは、「街を一緒に歩くのが気恥ずかしい」と言われてしまうかもしれません。

「そんなバカな!」と思う方もいるかもしれません。また、そういうフェミニンな洋服でできるデートだって今もあるという反論もあるかもしれませんが、2000年頃の「CLASSY.」と、今とは違って、フェミニンなコーディネートばかりだった事実を考えると、「CLASSY.」は、そんな時代の変化を敏感に察知して、カジュアル化しているのだと思わざるを得ません。

もちろん、ここ数年のファッションは、急激にカジュアル化していて、フェミニンな格好が急に古く見えたりしてしまうという状況もありますが、「やまとなでしこ」の時代と比べると、本当に女性誌のファッションは、男性にあわせるものが主流になってきていると思うのです。もちろん、この連載で何度も出てきている「彼カジ」もその流れのひとつでしょう。

「イケメン」と女性たち、"選ぶ・選ばれる"の関係

十数年前まで、恋愛市場において、主に女性が男性に「見られ」た上で「選ばれ」ることが主流でした。ただ、「イケメン」という概念が出てきたことで、男性たちも女性たちから「見られ」「選ばれる」存在へと変わってきたと考える向きもあります。とはいえ、女性たちは、まだまだ自分が男性を「見る」とか「選ぶ」ということには、戸惑いがあり、過渡期であるともいえるでしょう。

この「CLASSY.」でもそんな迷いが感じられます。「OCEANS」の男性たちは、この特集の中では、自分のスタイルを確立していて、確かに女性(CLASSY.)から、「見られる」存在にはなっています。でも、彼女(CLASSY.)たちが、彼ら(OCEANS)を「見る」のは、彼ら(OCEANS)を「選ぶ」ためではないように思えるのです。

なぜならば、単に「選ぶ」のだったら、そこまで彼ら(OCEANS)の行動様式に合わせたコーディネートを彼女(CLASSY.)たちが心がける必要はないからです。彼女(CLASSY.)たちが、カジュアルでも女らしさを感じさせ、「街を一緒に歩くのに恥ずかしくない」コーディネートを心がけるのは、彼ら(OCEANS)に「選ばれる」、もしくは、「馬が合う=パートナーとして心地よいと思われる」ためということがあるからでしょう。

そういう意味では、今月の「CLASSY.」の特集は、単純ではない現在の「イケメン」と女性たちとの在り方に気づかせてくれるものでした。

<著者プロフィール>
西森路代
ライター。地方のOLを経て上京。派遣社員、編集プロダクション勤務を経てフリーに。香港、台湾、韓国、日本などアジアのエンターテイメントと、女性の生き方について執筆中。現在、TBS RADIO「文化系トーラジオLIFE」にも出演中。著書に『K-POPがアジアを制覇する』(原書房)、共著に『女子会2.0』(NHK出版)などがある。