「eclat エクラ」2月号

女性誌に登場する「こなれ」とは?

近年、女性誌に当たり前のごとく登場するキーワードに「こなれ」というものがあります。「こなれ」とは、もちろん「こなれた」という言葉からきています。漢字で書くと「熟(こな)れた」となり、もともとの意味は習熟している様子や、巧い様子を指すそうです。

では、ファッション誌にみる「こなれ」とはどういうものなのでしょうか。ちょうど「パリ&ミラノ冬スナップ おしゃれマダムの"こなれ#技」という特集を「eclat」2月号がしているのでみてみましょう。

特集では、モデルの黒田知永子さんと、スタイリストの小暮美奈子さんがパリとミラノのマダムのファッションスナップから、「こなれ」たポイントを厳選。「マロンとグレーのコンビネーション」や「白系のスニーカーでカジュアルダウン」、「茶系コートをブルーで上品カジュアルに」などが、「こなれ」のポイントであると紹介していました。

ただ、文字で書いてもなんにも伝わらないかと思います。「こなれ」とは、明確なセオリーがあるわけではなく、なんとなくファッションがわかった上で着崩したり遊んだりしている雰囲気が出ているということなのかもしれません。

「こなれ」を早くから取り入れていた雑誌に「Domani」があります。今月は残念ながら「こなれ」特集はありませんでしたが、「デニムとショートブーツの"すき間問題"を考える」というページがあり、「ロールアップしたデニムのすそが自然とショートブーツの履き口に乗るぐらいがベストバランス」というアドバイスが。こういった、ちょっとしたバランスにまでこだわらないと、今は、「こなれ」たおしゃれに見せられない時代なのかもしれません。

「こなれ」がキーワードになった理由

それにしても、なぜ「こなれ」がここまで女性誌で当然のキーワードになったのでしょう。

白河桃子さんは、「格付けしあう女たち」の中で、現役ファッション誌の編集者である友人が、「ぱっと見はGAPと大差ないデザインだけど、お値段は五倍くらいの差」のあるロンハーマンの服を着ている女性のことを「おしゃれだなあ、できるなあと思う」と語っていたと書いています。

昔のように、高価なブランドのものを着ているというだけでオシャレとみなされていた時代は過ぎ去り、一見わからないけれど、服自体のディテイルがちゃんとしているということも大切でしょう。また、着こなしも、インナーの数センチ単位の見せ方や、パンツの丈とブーツの合わせ方、トップスとボトムスのバランスや、パンツや袖口の折り返し方などなど、微細な部分の処理の仕方がオシャレにとって最も大切だということかもしれません。

女性同士の関係を揺るがさない知恵

「VERY」の2103年12月号には、「普通っぽいのにオシャレに見える人の着こなしテクニック」という特集がありました。シャツをトップスの下から腰に巻いてアクセントをつけたり、流行のクルーネックニットからシャツを「小袖出し」にしたり、靴のタイプ別に靴下の長さや素材を変えたり……。本当にちょっとしたコツで垢抜けた、「こなれ」た着こなしになることが見てとれました。

こうした、ちょっとした差異に注力するのは、女性同士の関係を揺るがさないための知恵なのかもしれません。

たとえば、ファッションの傾向、もっというとオシャレな雰囲気だから、あるコミュニティの仲間になれるということはあるでしょう。ところが、そのコミュニティで女性同士が仲良くやっていくためには、あまりにもファッションが突出しては浮いてしまう。だからと言って、オシャレじゃなくても浮いてしまう。コミュニティの中で浮かない程度のオシャレ感と、その中でちょっとだけ差がつく着こなしを求めている人がいるからこそ、女性誌に「こなれ」が多くなっているのかもしれません。

<著者プロフィール>
西森路代
ライター。地方のOLを経て上京。派遣社員、編集プロダクション勤務を経てフリーに。香港、台湾、韓国、日本などアジアのエンターテイメントと、女性の生き方について執筆中。現在、TBS RADIO「文化系トーラジオLIFE」にも出演中。著書に『K-POPがアジアを制覇する』(原書房)、共著に『女子会2.0』(NHK出版)などがある。