本連載の1回目でも触れたとおり、最近はオーバークロックというものが非常にカジュアルに受け止められるようになった。オーバークロックはCPUごとに定められた規定の値以上のクロックで動作させることでパフォーマンス向上を狙うものだ。

写真は今回利用する「Core 2 Duo E8500」

メーカーが規定していないクロックで動作させることになるので、故障などのリスクも伴うが、お金をかけずに高い性能を目指せることもあって挑戦しがいのある作業である。

※ご注意 : オーバークロックはCPU、マザーボードおよびその他パーツに重大な影響を与える可能性があります。オーバークロックに関して編集部および筆者は責任を負いません。くれぐれも自己責任でお試しください。なお結果は今回のテスト環境下でのものであり、そのクロッククロックでの確実な動作や、実際の製品で同じベンチマークスコアが得られることを保証するものではありませんので、あらかじめご了承ください。

オーバークロックの基本を理解する

動作クロックを引き上げることを"クロックアップ"、メーカーが定めた定格値以上のクロックで動作させることを"オーバークロック"と呼ぶが、自作の分野で、なんの前提もなくこうした言葉が出るときは、多くの場合CPUのオーバークロック作業を行うことを表している。

CPUにはメーカーが定めた定格動作があり、動作クロックや電圧などがあらかじめ指定されている。BIOSがCPUの種別を読み取り、定格値どおりの動作を行うよう自動設定してくれるのだ。しかし、CPUも工業製品である以上、安全に動作するためのマージンが設けられている。また、より速いクロックで動作させることは可能だが、一種の生産調整のために低いクロックで動作させている場合もある。

いずれにしても、CPUの定格動作は大なり小なり余裕を持った状態になっている。この余裕(マージン)を使うのがオーバークロックの考え方である。定格動作以外の使い方をするのはメーカーの保証外の利用方法ではあるのだが、(第1回でも触れたとおり)最近ではCPUメーカー自らがオーバークロックをあおっている印象もあり、オーバークロック前提で導入するという人も増えているようだ。

それでは、まず、オーバークロックに必要な知識を簡単にまとめておきたい。ここでは、今回の連載で利用しているCore 2 Duo E8500とDDR2-800メモリの環境を前提に話を進める。

CPU、FSB、メモリクロックの関係(Core 2 Duo E8500の場合)

まず、概念図に示した、CPUやメモリのクロックが生成される過程を理解しておきたい。水晶発振器によって作られた14.418MHzのクロックが、PLLによって特定のクロックへ変換される。ここで作られるクロックは、CPUによって異なる。1333MHz FSBの製品なら333MHz、1066MHz FSBの製品なら266MHzといった具合だ。Core 2 Duo E8500は1333MHz FSBの製品なので333MHzがベースのクロックとなる。

そして、CPUでは、このベースとなる333MHzをCPU内部で規定の倍率にアップ。Core 2 Duo E8500の場合は9.5倍が規定されており、333×9.5=3.16GHzが定格のクロックとなるわけだ。同じFSBクロックを持つCPUの場合、ラインナップは倍率が異なるだけで、上位モデルのE8600なら333×10=3.33GHz、下位モデルのE8400なら333×9=3GHzといった格好になる。

つまり、CPUのクロックは、「ベースクロック×規定の倍率」で生成されており、このどちらかを上昇させることで動作クロックを引き上げることができるのである。しかしながら、Intel製品のExtreme Edition、AMD製品のBlack Editionといった製品は倍率の最大値が固定されていないが、多くの製品では倍率の最大値は定格値で固定されているので動かすことができない。そこで、ベースクロックを動かすことでオーバークロック作業を進めるのが一般的な手法となる。さらに一般的な表現を用いれば、ベースクロックとPLL内で同期しているFSBクロックを変化させることでオーバークロック作業を進めることになる。

ここで問題になるのがメモリクロックである。メモリのクロックもPLLで生成されており、これはベースとなるクロックに対する一定の比率によって決められる。例えば、DDR2-800メモリの動作クロックは400MHzとなるが、333MHzに対して5:6の比率によって400MHzという値が生成されているわけだ。

つまり、比率を一定のままベースクロックを上昇させると、それに伴ってメモリのクロックも上昇してしまうのである。例を挙げると、

FSB : CPUクロック メモリクロック
333 : 333×10=3.16GHz (333/5)*6=400MHz (DDR2-800)
350 : 350×10=3.50GHz (350/5)*6=420MHz (DDR2-840)
400 : 400×10=4.00GHz (400/5)*6=480MHz (DDR2-960)

といった具合である。問題はメモリの動作クロックも定格値での動作しか保証されていないことである。もちろん、メモリ製品も一定のマージンは持っているが、CPUよりも先にリミットが来てしまう可能性がある。

そこで、CPUのオーバークロックを限界まで行うには、比率を変えることでメモリクロックを下げるということも考えなければならない。概念図に示した例では、DDR2-667用の333MHzを生成する場合は、ベースクロックとの比率は1:1になる。これを上記例に当てはめると、

FSB : CPUクロック メモリクロック
333 : 333×10=3.16GHz (333/1)*1=333MHz (DDR2-667)
350 : 350×10=3.50GHz (350/1)*1=350MHz (DDR2-700)
400 : 400×10=4.00GHz (400/1)*1=400MHz (DDR2-800)

といった具合に、ベースクロックを400MHzまで引き上げても、DDR2-800の定格動作以内に収まるようになることが分かる。このように、CPUとメモリ双方の限界を見極めつつ、二つのクロックを調整しながら作業を進めていく必要のあるところが、オーバークロックの難しいところでもあり、面白いところでもあるのだ。

なお、オーバークロックの限界を引き上げるために、CPUやメモリへの供給電圧を変更する手法もある。CPUやメモリなどの半導体は、高い電圧をかけるほど高速な動作が可能になり、オーバークロック後の高速動作に耐えやすくなるのである。ただ、電圧を高めすぎると半導体内のトランジスタが破損して、故障してしまうことも珍しくない。非常にリスクの高い作業であるため、まずは電圧を規定のまま試し、それでも満足できない場合に"覚悟を決めて"電圧アップに取り組むようにしたい。

オーバークロックの実践

それでは、実際にオーバークロック作業を行った模様をお伝えしたい。今回の構成では、333×9.5=3.16GHzで動作するCore 2 Duo E8500と、5:6の比率で動作するDDR2-800の組み合わせである。このベースクロックを350MHzまでクロックアップしてみることにしたい。350MHzにしたのは、350×9.5=約3.33GHzとなり、上位モデルのCore 2 Duo E8600に近いクロックになるからだ。上位モデルと同等クロックが出せるだけでもお得感があるだろう。

オーバークロック作業はBIOSまたはWindows上で動作するユーティリティから作業を行う。ASUSTeK製マザーボードには、AiSuiteに含まれる「AiBoost」というツールが付属しており、これを利用することでWindows上からでも作業が行える。ただ、こうしたツールを利用できないマザーボードではBIOS上から設定変更を行う必要がある。BIOS上からの作業を覚えておけば、たいていのマザーボードで応用できるようになるので、ここではBIOS画面による作業を紹介する。

ASUSTeK製マザーでは、AiSuiteというオーバークロックの統合ツールが利用可能。Windows上からオーバークロック作業が行える

といっても、ASUSTeK製マザーはBIOS上のオーバークロック関連項目も洗練されており、P5Q-EのBIOSに用意された「Ai Tweaker」からまとめて作業することができる。作業の流れとしては、

  1. 「Ai Overclock Tuner」を"Manual"に設定し、自由な設定変更が可能な状態にする
  2. 「PCIE Frequency」が"100"MHzに固定されていることを確認(クロックが変わると不安定になる場合があるため)
  3. 「FSB Frequency」を任意の値に設定。これがベースクロックの変更である
  4. 「DRAM Frequency」を任意の値から選択。これがメモリクロックの設定である
  5. 必要に応じて電圧を変更。「CPU Volutage」「DRAM Voltage」を変更する
  6. 設定を保存しWindowsを起動。負荷のかかるアプリケーションを用いて動作チェック
  7. 目標値または限界値まで3~6を繰り返す

となる。作業自体は簡単だが、最後の最後まで限界を突き詰めようとすると、ひたすらトライ & エラーの繰り返しになり、わりと大変な作業ではある。

P5Q-EのBIOSでは「Ai Tweaker」のタブにオーバークロック関連設定が用意されている。まずは、Ai Overclock Tunerを「Manual」に設定して自由な設定変更を可能にする

続いて、FSBクロックの設定を変更。ここがCPUクロックを決める重要なポイントとなる

続いてメモリクロックの設定。P5Q-Eは指定したベースクロックの状態で利用可能なクロックが表示されるので分かりやすい

必要に応じて電圧を変更。この作業はCPU故障のリスクが一気に高まるので要注意だ

今回の環境では、メモリの比率を変えず、DDR2-840相当で動作させても問題なかったため、単純にベースクロックを350MHzに引き上げただけである。その意味では非常に簡単なオーバークロック作業しかしていないわけだが、CPUクロック、メモリクロックともに上昇しているので、ベンチマークのスコアも安定してアップしている。

先述のとおり、オーバークロック後のCore 2 Duo E8600相当といえる動作クロックである。E8500とE8600の価格差は1万円。この差を、タダで埋めてしまうのだからオーバークロックに魅力を感じる人もおられるのではないだろうか。

定格クロック時のCore 2 Duo E8500。やや誤差が大きいが、ベースクロック333MHzの9.5倍で3.16GHzが定格動作となる

定格時のメモリクロックは、ベースクロック333MHzに対して5:6の比率で、400MHz(DDR2-800)になる

オーバークロック後。ベースクロックを350MHzにアップし、9.5倍して約3.33GHzとなる

オーバークロックごもメモリ比率は変えず5:6のまま。420MHz(DDR2-840相当)になっている

(機材協力 : ASUSTeK Computer)