この連載では、デスクトップ型のPCを自作するうえで必要最低限の知識やテクニック、応用として自作したPCの簡単なカスタマイズ方法などを、実際に自作する際の手順に沿って紹介していく。連載を参考にパーツを入手、組み立てていけば、初めての人でも問題なく自作PCを完成させられるだろう。
CPU、グラフィックスカードに大きな変革……2008年の自作シーン
2007年冬から2008年秋間は、PCのハードウェアに大きな変化がもたらされた重要な時期として記憶されるのではないだろうか。PCは日進月歩で進化を続けているが、新しい技術を導入した製品は高価であったりして、なかなか幅広いユーザーにはピンと来ないことが多い。
ただ、この1年間に起きた変化は、そうではない。例えば、CPUにおいては1年前は非常に高価なイメージもあったクアッドコアCPUの存在が挙げられる。AMDが2007年11月にPhenomを投入したのを機に、クアッドコアCPUでも入手しやすい価格の製品が増えてきている。グラフィックスカードも性能の高いハイエンド向け製品の価格が急落し、非常に求めやすくなった。手頃な価格帯で大きな変化が起こったのが今年1年の特徴になっており、自作PCのみならず大きな意味を持っているのだ。
こうした変化については、パーツごとにもう少し詳しく紹介していくが、最新トレンドに即したパーツをいち早く導入しようと思うならば、自作PCという選択肢は有力な候補になる。何といっても、自分がフォーカスしたいポイントから徐々に新しいものを導入していけるし、後々もポイントを絞ってカスタマイズしていきやすい。一変したPCハードウェアを使った自作PCの製作を、ぜひ検討してみてほしい。
CPU : 普及価格帯クアッドコアと新しい価値観
クアッドコア低価格化の先鞭を付けたアイテムといえるAMDのPhenom X4。コアを三つにしたトリプルコアの投入などユニークな製品も |
絶対的な性能では優位にたっているCore 2シリーズ。オーバークロック利用でも人気を集めている |
PCの多くの処理を担う中心的存在となるCPU。現在のPCにおいては、インテルとAMDという二つのメーカーがシェア争いをしている。製品数は非常に多いが、対象ユーザー、価格帯に合わせて、大きく「ハイエンド」「メインストリーム」「バリュー」の三つに分けることができる。セグメント別に両社の製品を分類してみると、
■インテル
・ハイエンド : Core 2 Extreme
・メインストリーム : Core 2 Quad、Core 2 Duo
・バリュー : Pentium Dual-Core、Celeron
■AMD
・ハイエンド : Phenom X4 Black Edition
・メインストリーム : Phenom X4/X3、Athlon X2
・バリュー : Athlon X2
といった具合になる。全体にAMDのほうが安価な価格帯になっており、ハイエンドといっても、インテルのメインストリーム製品の価格と似たようなレベルにある。現在のCPUのトレンドの一つは、このAMDの価格戦略が作り出したものいってもいい。
AMDは昨年11月に、同社初のPC向けクアッドコアCPU「Phenom」を投入したが、この価格帯は3万円台という、先にクアッドコアCPUを投入していたインテル製品に比べると割安感のあるものだった。
一方のインテルは、今年に入って、従来のCore 2シリーズの45nmプロセス版を投入。クアッドコア版はQ9xxxのプロセッサ・ナンバが割り振られているが、現在は最上位モデルを除いては3万円台で購入が可能になっている。
つまり、AMDが投入したPhenomの存在により、価格競争が発生し、クアッドコアの相場が2万~3万円台前半へと移行したわけだ。この3万円前後という価格は、従来から「コストパフォーマンスにこだわるユーザー」に好まれる価格帯であり、自作PCやショップブランドPCのクアッドコア化が急速に進んだのである。
もちろん、クアッドコアCPUの価格帯が引き下げられたことで、デュアルコア製品も割安感が出ている。クアッドコアよりも高いクロックの製品もあり、こちらの魅力もまだ色あせていない。また、AMDはデュアルコアとクアッドコアの間の製品として、三つのコアを一つにまとめた「トリプルコア」製品なるものも発売している。やはりクアッドコアよりも割安なので、コストを気にするなら選択肢に上がる製品だろう。
ちなみに、価格性能比が重視される製品とは別のトレンドが生まれていることも気に留めておきたい。一つは低消費電力CPUの人気が高まっていることである。これも、力を入れているのはAMDだ。デュアルコアのAthlon X2に続き、クアッドコアのPhenom x4にも「Phenom X4 9350e」などの低消費電力版をラインナップ。デュアルコア製品並みの消費電力、発熱でクアッドコアを利用できるとあって人気を集めている。
一方、インテルは小型のフォームファクター向けに「Atom」と呼ばれるCPUを投入。ほかのデスクトップ向けCPUに比べると性能は著しく劣るが、消費電力が極めて低いとあって、これを搭載したマザーボードも発売されるやいなや即完売という人気を集めた。消費電力というものに対するユーザーの意識が高まっていることを端的に表すエピソードといえるだろう。
もう一つのトレンドは、オーバークロックが非常にカジュアルなものになったことだ。オーバークロックとは、CPUごとに本来設定されている動作クロックを、ユーザー自らの手で変更し、より高いクロックで動作させることをいう。CPUも工業製品である以上、安定して動作し続けるよう、定格の動作には一定の余裕を持たせてある。このマージンを使い切ってしまおうというのがオーバークロックの思想である。以前からパワーユーザーの間では行われていたが、発熱対策などが必要なうえ、リスクの高い行為であった。
しかし、最近はその印象もずいぶん和らいでいる。AMDは「Black Edition」というオーバークロックをアピールする製品を発売している。さらに、インテルのCore 2シリーズは、オーバークロックのマージンが高いことで人気になっている。1万円前後で購入可能な低いクロックのCPUでは、付属のCPUクーラーで1GHzを超えるオーバークロックを実現するのも夢ではなくなっている。また、8~9月にかけて順次投入されている「E0ステッピング」と呼ばれる、45nmプロセスの新モデルもオーバークロックマージンが高いとのことで、早速人気を集めている。
もちろん「自己責任」で行うべき作業なのでリスクはあるわけだが、かなり気軽にオーバークロックしても劇的な効果を得られるとあって、オーバークロックを前提にCPUを購入する人も増えている。一つの潮流として心に留めておくといいだろう。
マザーボード : メーカー独自の機能にも要注目
ASUSTeKのIntel P45搭載製品「P5Q-E」。DDR2 SDRAM対応モデルで、CPUへ電源を供給するVRMと呼ばれる部分をリッチにするなど、コスト+信頼性を重視したモデルだ |
ASUSTeKのIntel P45搭載製品「P5Q3 Deluxe」。こちらはDDR3 SDRAMに対応した上位モデル |
ASUSTeKのIntel P45搭載製品「P5QC」。DDR3とDDR2の両方に対応したユニークなモデル |
ASUSTeKのIntel P45搭載製品「Maximus II Formula」。パワーユーザー向けにオーバークロック機能を充実させたモデル |
CPUやメモリ、グラフィックスカード、各種周辺機器が接続される、PCの土台になるマザーボード。各パーツの橋渡しという重要なポイントを占めるだけでなく、最近のマザーボードはオンボード搭載するパーツも多く、後々交換しようと思った場合は、ほとんどのケースでOSの入れ直しが必要になると考えていい。PCパーツのなかでも、将来的なカスタマイズのさいに最も交換が面倒なパーツでもあるので、慎重に製品選びをしたい。
こうした、パーツの橋渡しを行うマザーボードにあって、中心の存在となるのがチップセットだ。電気的な橋渡しがチップセットの役割でありで、マザーボードは物理的なインタフェースを提供するものとなる。
つまり、マザーボード選びとはチップセット選びにも深く関連する。チップセットは、サポートするCPU、メモリ、搭載する機能によって、さまざまな種類が存在する。例えば、インテル製CPU対応チップセットとAMD製CPU対応チップセットには互換性がない。メモリもDDR2 SDRAM対応なのか、DDR3 SDRAM対応なのかをチェックする必要がある。さらには、グラフィックスカード代を節約するためにグラフィックス機能を内蔵したチップセットを選びたいニーズもあるだろうし、HDDなどを接続するシリアルATAインタフェースの数なども重要なポイントだ。
チェックすべき要素が多岐に渡るということは、それだけ細かいニーズに合わせて製品選びが可能ということでもあるのだが、まずは、チップセットを大きく次のように提案してみたい。
■インテル製CPUを使いたい人
→パフォーマンス重視 : Intel X48、NVIDIA nForce 790i SLI
→コストパフォーマンス重視 : Intel P45、Intel P43
→コスト重視 : Intel G45、Intel G43
■AMD製CPUを使いたい人
→パフォーマンス重視 : AMD 790 FX
→コストパフォーマンス重視 : AMD 790 GX、NVIDIA nForce 780a SLI
→コスト重視 : AMD 780G、NVIDIA GeForce 8300/8200
このほかにもチップセットは存在するが、ここで挙げたものは代表的なチップセットであり、搭載マザーボードも多いので入手も容易だ。まずはチップセットを決定したうえで、拡張性などのニーズに合った製品を選択するいいだろう。
例えば、ASUSTeKの場合、同じIntel P45を搭載するマザーボードだけで、実に11製品がラインナップされている。何が違うのか、対応メモリや拡張スロットの構成、オンボード搭載されているデバイスといったPCとしての基本的な機能面が異なるほか、ASUSTeK独自設計・機能面の違いとなる。
この独自機能の部分は、PCのスペックとしては表に出づらいが、信頼性を向上させるために厳選した電子部品を採用していたり、省電力機能を搭載しているなどが挙げられる。もちろん、こうした付加価値は価格にも反映されているので、予算とも相談する必要があるが、一度買ったら長期間使う可能性が高いパーツだけに、妥協無く選んでいきたいポイントだ。
といったところで、今回はここまで。次回も引き続き、パーツごとの最新トレンドを紹介していきたい。
(機材協力 : ASUSTeK Computer)