香川が大変なことになっている。
平素であれば多くの人が「うどんの身に何が?」と思うところだが、今回、うどんは関係ない。むしろ他県民がやる、雑なうどんギャグほど香川の人を激怒させることはないのだ。
ご存じの方も多いと思うが香川県で「ネット・ゲーム規制条例案」が可決された。その名の通り、県民のネットやゲームの時間を自治体が規制するという条例である。
これに対し、ネット上では当初から批判の意見が多く上がっていた。
むしろこれだけ批判だらけなのに良く可決したな、という気もするが「ネットの意見」というのは、当然ネットをやっている人の意見なので、ネット規制反対が多数意見になるのは当然と言えば当然だ。逆に病院のロビーで7時から談笑している方々に聞いたら「スマホとか持ってないからわかんないけど、危険なら規制でいいんじゃない?」という答えが100億%になる気がする。
では、今回可決された「ネット・ゲーム規制条例案」の内容はどのようなものだろう。
簡単に言うと条例の対象は高校生以下の子どもで、ゲームのプレイ時間を平日は60分、休日は90分に制限し、スマホを中学生以下は21時、高校生は22時以降使わせないようにする、というものである。
災害級オタクの多くは幼少期、趣味を抑圧されていたという説も
この条例が可決された時、私のTLでは「香川がディストピアになった」「ついに独立国家になるアップをはじめた」と騒然としていたため、もっと「子どもにスマホを与えるな!」という初期海原雄山ばりにキレた条例が可決されたと思っていたのだが、正直なところ初見では「割と普通」と感じた。
言わば「ゲームは1日1時間」という高橋名人の教えが条例になったということであり、どこのご家庭にもありそうなルールなので、一見そこまで異常性はないように見える。
しかし、そのような各家庭で定められるべきルールを県が介入して一律で定めてしまうこと自体がそもそも異常であり、香川県のイメージを大きく損なったという意見も多く出ている。
確かにこの条例のおかげで「香川だけには住みたくない」「1秒でも早く香川から出たい」と青少年に思われたら、国力が落ち、独立国家への道が逆に遠ざかる。
なぜこのような条例が出来たかというと、目的は「体力や学力の低下、身体の問題を引き起こす、ゲームやネットから県民(子ども)を守るため」だそうだ。
実際はよくある「ネット? ゲーム? よくわからないがけしからん精神」や、「ゲームに子どもを取られた県議の私怨」で作られたという説まである。つまり県議にNTR属性があったら、香川県民は1日1時間以上のゲームが義務づけられていたかもしれない。
可決に際しても、世間に広く意見を集めたパブリックコメントの公開を渋られたまま決まってしまったなど、条例自体の正当性、可決に至るプロセスまで、かなり不透明であったようだ。
しかし、ともかく可決されてしまった「ネット・ゲーム規制条例案」は実際、子ども、そして県民のためになるものなのだろうか。
まず、ゲームやネットに触れる時間を強制的にでも少なくさせれば、依存に陥る可能性は低くなるので、ネット・ゲーム依存防止になるのは確かだろう。正し、幼少期アニメや漫画を禁じられた者ほど、成人後に災害レベルのオタクになる、という研究結果も報告されているので、過度の抑圧が真逆の効果を生み出す可能性もある。
ただ、子どものゲーム・ネットのやりすぎ、依存を防ぎたく、親にそれを注意させやすくする、という意味ではこの条例に効果はあると思われる。
「鉄道模型を捨ててから夫の様子がおかしい」にならないといいね
しかし、ゲームなどに使われていた時間を、勉強や運動、家族との団らんに使わせたい、というなら、不十分である。
私は割とホンモノ寄りのゲームスマホ依存なので、先日ついにスマホとネットケーブルを隔離する鍵付きの箱を購入し、率先してこの条例に近いことを自らに課した。
その結果、確かにネットやゲームをする時間は減った。
しかし、その時間を仕事や家事、まして屋外でのフットサルに使うようになったか、というとそうではない。
「虚空を見つめる時間が増えた」のだ。
つまり、子どもからゲームやスマホを奪えば、その情熱がそのまま、勉強や運動、パパママ大好き、になるというわけではない。
「情熱自体が消える」という現象が起こる可能性があるのだ。
「ユーチューバーになりたい」という子どもの夢を諦めさせれば、今度は国家公務員になりたがってくれるわけではない「夢を持つこと自体やめる」かもしれないのである。
よって、ゲームやスマホを奪うことで、ネット・ゲーム廃人になることは防げるかもしれないが、その代わり、何事にも興味が持てない、ただの廃人になる可能性もある、ということだ。
つまり、ゲームやスマホを禁止するだけではなく、その分運動や勉強や団らんに興味が行く施策も同時にされなければ不十分である。
今のままでは「あの女を殺せば私の事を好きになってくれるに違いない」というヤンデレ条例だ。
ちなみに、この条例どうやって守らせるかというと、学校や行政も協力はするが、主に「親などの保護者の監視」である。つまり、自分の子どもにゲームやらせたくないから、香川の条例ええやん、と思っても、結局ゲームを止めるのは行政ではなく自分たちなのだ。
一斉休校要請の時しかり、この国や県の偉い人は、どこのご家庭にも、子どもの帰宅後や休日、子どもにつきっきりとなり、逐一ゲームやスマホの時間を計って注意出来る専業主婦、または孫の世話以外することがない祖父母など、の非実在生物が必ず存在していると信じているような気がしてならない。
今のところこの条例に罰則はないが、もし定められるとしたら、親の負担は凄まじいことになる。
国や県を運営する側の家族意識が古いままで、現代の一般家庭の家庭環境にそぐわない要請や条例ばかり出されてしまう、というのもネット依存に負けないぐらい深刻な問題である。