政府が打ち立てた「ムーンショット目標」が話題になっている。
そう言いたいところだが、私も初耳なので、そこまでは話題になっていないとは思う。少なくとも最近不倫した「誰かの夫」ほど話題になってはいない。
ムーンショット目標とは、我が国初の破壊的イノベーション創出を目指し、従来の延長にない、より大胆は発想に基づく挑戦的な研究開発をすべく設けられたムーンショット型研究開発制度が打ち出した、という目標のことである。
何のことかさっぱりである。
むしろ「『イノベーション』という言葉を普段使いする奴は信用するな」と、全国のババアが言ってそうそうだが、イノベーションの前に「デストロイ」がついている点には興味を引かれる。
つまり従来のやり方をいくら続けてもジリ貧でしかないので、全く新しい発想が必要ということだ。
人の魂を地球の重力から解放する系の話ではなかった
今の日本には5兆個ほど問題があるが、その中でも代表的なのは「少子高齢化」である。
しかし「少子化対策」というのは、今同時に勧められている「多様化社会」と、かなり相性が悪い。
多様化というのは人生の選択肢が増えるということであり、その中には当然「結婚して子供作らなくても良いじゃん」というのも含まれているのだ。
どれだけ、出産や子育て支援をしても、選択肢が増えてしまっている以上、出生率が戦後に戻る可能性は低い。戻そうと思ったら価値観まで戦後にもどさなければいけない。
「パートナー不在でも、1人で何人でも産んで育てられる社会になる」「男も産める」「口から卵を吐くナメック方式になる」「産んだ瞬間成人する」というところまで多様化すれば、わからないが、すぐには難しい。
「相性最悪だった2人が徐々に魅かれあい…」という少女漫画的展開もあるが、少子化と多様化が魅かれあうには少なくともまだ、98巻ぐらい尺が必要である。
よって「産めよ、増やせよ」というような古臭い政策では問題は解決しない。だからと言って「外国人をより受け入れる」というのもすでに平成の発想だ。
ムーンショット目標はもっと斬新なものである。
ムーンショット目標は6つあるのだが、今回はその中で、ここではないどこかで最も話題になった1つ目の目標を紹介しよう。
「人が体、脳、空間、時間の制約から解放された社会を実現」
これが第一のムーンショット目標だ。
どんな政策を出しても文句をつけられるので、ついに「文句がつけづらい」というテーマで目標を立てるようになってしまったのか、と思ったが、「ムーンショット」という言葉自体「独創的で実現すればすごいが、難しい挑戦」という意味なのだそうだ。
とりあえず、現実的であるかどうかは度外視なのだ。
ところで「ムーンショット」というのは「月を撃ち落とす」という意味ではない。さすがにそれはデストロイが過ぎる。「月へのロケット打ち上げ計画」が元ネタであり、それはすでに実現している。
携帯やネットの普及により、どこにいても捕まり、仕事をさせられるという悪夢を実現させるなど、昔なら一笑に伏された発想も割と実現させてしまっているのが我々人間である。
今回のムーンショット目標も完全な絵空事とは言えない。
では具体的にどのように、人間が体や脳、時間から解脱するかというと、「アバター」や「ロボット」を使うのだそうだ。
「アバター」というのは、ゲームをやる人間なら馴染みが深いと思うが、「分身」という意味だ。自分の分身となるキャラクターを作り出し、ゲームの中で生活させたり戦わせたりというゲームはたくさんあるが、それを現実でもやろうというわけだ。
つまり1人の人間が複数のアバターを操作し、多くのタスクをこなせば、人口減少による労働力不足なども解消されるということである。
またゲーム上のアバターというのは「プレイヤーはおっさんだがゲーム上ではJK」ということが良くある。「分身」と言っても、本当に自分を完コピする奴の方が少ないのだ。
それと同じように、アバターを使えば、高齢者でも若者と同じ働きが出来るし、JKとして振る舞うことも出来る。また現実世界では中型犬に負けるような人間でも、ゲームの中では魔王を倒せるように、アバターを使えば能力以上のことも出来るようになる。
つまり、これが実現すれば、誰でも年齢、性別、能力を問わない働きが出来るようになる、ということである。
無課金勢でも生きたり、イキったりできる設計だといいな
かなりムーンショットな話ではあるが、実現出来ればすごいし、私のようにネット上では威勢が良いが、実物は陰気極まりないという人間にとっては画期的な提案である。
きっとアバターを使えば「人間と目を合わせて話す」という自分には不可能と思っていた高度なタスクも実現可能になるに違いない。
しかし、ゲームをやる人なら知っていると思うが、「アバター」もほとんど課金制である。
課金すれば、様々な衣装やアイテムなどをアバターにつけられるが、無課金だと、白のタンクトップにジーパンという往年の吉田栄作スタイル、酷い時はパンイチである。
結局アバター社会になっても、経済力によって操作できるアバターの質が変わってくるような気がしてならない。
パンイチのアバターではシャネルを着ているアバターとは目を合わせられそうにない。