ローカルニュースを見ていると3回に1回は「地元の老が特殊詐欺に引っかかった」というトピックが出てくるのだが、最近その内容が電話での振り込め詐欺から「SNS上での投資詐欺」に代わり、ついに国際ロマンス詐欺に引っかかる老が登場した。
こういう手口の詐欺があると警鐘を鳴らすために名称が必要なのはわかるが、こんなハーレクインと現実の区別がつかなくなった人しか引っかからなそうな名前にするのはいかがかなものかと思う。
ちなみに私は二十代前半のころハーレクインにハマり、ほぼ毎日古本屋でハーレクイン小説を購入していたところ、レジが同級生であったことが判明し「お前だったのかい…毎日ハーレクインを買っていく女ってのは…」と現実が辛すぎるごんぎつねみたいにされてしまったが、私はそれ以前に「女性向けエロゲーを買おうとしたらレジが同級生」を経験していたので、その程度では少しぐらいしか動じない。
しかし、私ほどの面構えになっていない奴は国際ロマンス詐欺に引っかかったという事実を隠したくて被害届提出を断念してしまうこともあるのではないか。
詐欺に色恋やエロが使われやすいのは、引っかけやすいのと同時に訴え出にくいからなのかもしれない。
このように色恋やエロが絡んだ詐欺をマヌケに報道したり、名前をマヌケにしすぎると「俺はこんなのに引っかかるようなマヌケではない」と思い込んで同じ詐欺に引っかかるマヌケが減らないので、メディアはこれらが笑いごとではなく、いかに詐欺の手口が巧妙で、誰でも引っかかる可能性があるということを報道していかなければならない。
そういう意味では、出会い系で知り合った外国籍女性という設定の多分おっさんに1500万円だまし取られたことを、隠すことなく通報してくれた地元の60代男性には感謝したいし、そういう若干うかつな人でも1500万円以上の貯蓄ができるというのも朗報だ。
ネット広告を誤クリックしたことが無い人だけが石を投げなさい
しかし、そうは言っても詐欺というのは引っかかる瞬間まで「自分は引っかからない」と思い込んでいるものだし、詐欺では? と疑いを抱くこともなく詐欺られていたりもする。
先日、ドラッグストアで薬を購入しようとしたところレジの者に「大丈夫ですか?」と言われた。
脇腹に包丁が刺さったままロキソニソを買いに来たわけではなく、文脈としておかしいと思うかもしれないが、実は私にとってこれは珍しいことではない。
私はデフォルトで大丈夫ではない顔をしているのか、健康診断の問診が「大丈夫ですか?」という、非常にプリミティブで核心をついた質問で始まったこともある。
確かに薬を買いに来ているのだから大丈夫ではない可能性もあるが、私の後に風邪薬を買いに来た客は特になにも言われていなかった。
店員的にもその場で死なれては困るのでそう聞かざるを得なかったのだと思うが、私が大丈夫だと答えたあとも、店員の心配は尋常ではなく「そうだ、いい栄養剤があるから試してみませんか」と言い始めた。
試供品的な物をくれるのだと思い、何も考えずに所望したところ、店員は空のカプセルと液体を持ってきて、その場で「作製」を始めたのである。
何か俺が考えていたのと違うなと思っているうちに、カプセルは完成し、今ここで飲めと白湯入り紙コップと共に渡されたため、もはや飲む以外の選択肢がなくなってしまっていた。
飲んだ後も何か買えと言ってくるわけではなく、異常に親切な店員、もしくは私の顔の大丈夫じゃなさが異常だっただけ、と思っていたのだが、冷静に考えるとクラブでパイセンのパイセンのお世話になった人に「これ楽しくなれるラムネ」と言われてMDMAをその場でキメてしまうのと何ら変わらないことをしていると気づいた。
まだ違法薬物なら良いが、ドラッグストア店員を装ったテロリストだったら私は今頃死んでいる。
実際に過去、そういう事件で人が死んでいるのだからその可能性はゼロではない。
そういう犯罪や事件が存在すると知っていても、無意識やその場の流れに乗じているうちにいつの間にか引っかかっているというのはよくあることなのかもしれない。
そんな人間の無意識と惰性につけこんだ詐欺というのももちろん数多く存在する。
私のようなインターネット野郎が最も惰性でやっていることと言えば、クリック、そしてタップである。
誇張ではなく、本当に1日1万回、感謝のクリック&タップを続けているのだが、一向に祈る時間は訪れない。
そのクリックスピードは当然画面表示速度を軽く凌駕しているのだが、それは画面を良く見ずにクリックしているということだ。
そしてたどり着いたのは、NHKへの感謝の正拳突き
そういうスピードの向こう側に行ってしまった奴が引っかかりやすいのが「ワンクリック詐欺」である。
ワンクリック詐欺とは、その名の通り、クリックしたが最後「契約が成立された」ということにされ、多額の料金を請求される詐欺のことだ。
もちろん、契約が成立したというのはハッタリであり、支払い義務はないので無視すれば良いのだが、ろくに画面を見ずにクリックしていてそう言われると自分がやらかしてしまったかのように感じるし、特にエロサイトを「早く見せろ」という一心で1秒間に10回タップしていた場合は動揺して言われるがままに支払ってしまうケースも多いらしい。
また、我々の「肩書に弱い」という脆弱性につけこんだ詐欺も多く、警察や国税局を装った振り込め詐欺や、大手銀行やECサイトを騙って個人情報を入力させるメールも多く出回っており、どんどん偽物と見破るのが難しくなってきているという。
そんなワンクリック詐欺と騙り詐欺の上位互換が近日実装されるのでは、と話題になっている。
あのNHKが「ニュースなどネットのNHKコンテンツを見ようとした際に表示される案内で、特定のボタンをクリックすると、NHKのネットサービスの受信契約の対象になることに同意したと判断し、契約締結義務を課す仕組みを検討していることを明らかにした」そうである。
難解な言い回しなのでよくわからないが、意訳すれば惰性でNHKのHPをクリックしていると、いつの間にか受信契約しているかもしれないということだ。
これが「ワンクリック詐欺じゃねえか」と話題になってしまった。法に則っているだろうから詐欺は言い過ぎかもしてないが、1回でもクリックしてしまうと取り消し不可という取り返しのつかない仕様も示され人々を恐怖させている。
偽物であれば、見破ることも不可能ではないが、何せホンモノなため、見破りようがないという時点で相当強い。
つまり、NHKは例えワンクリック詐欺じゃねえかという汚名を着せられてでも、我々に「画面を良く見ずクリックするな」ということを伝えようとしているということだ。
例え、朝ドラに、見たこともないかわい子ちゃんが出ていたとしても、あれは誰だと勇んでNHK公式を鬼タップしてはいけない。
我々は1タップの重み、そして1クリックの危険性を改めて見つめ直す時期にきているということだ。