昨今、世間では第三次ラップブームが起こっているらしい。

私個人としてはラップブーム歴20年ぐらいなので今更感があるのだが、もちろんただ好きなだけで、音楽ジャンルに詳しいわけではない。

平素は、「腐女子と夢女の区別がついていない奴」に烈火の如く怒りがちだが、門外漢というのはそんなものであり、右脇出身だろうが左脇出身だろうが、はたから見ればワキ毛は等しくワキ毛だ。(「ワキ毛」の詳細はこちら)

私もラップが何なのか完全に理解しているとは言い難い。よって、「わかってない奴」への寛容の心を持って読んでもらえれば幸いである。

ラッパーになりたかったカレー沢氏、断念した理由は

まずラップとは、メロディをつけず韻を踏みながら歌う、アメリカ発祥の音楽である。日本で初めてラップアルバムが出たのは1985年らしいが、私が最初にラップというものを認識したのは90年代に出た「East End×Yuri」の「DAYONE」だと思う。

毎年、数年後「何故これが流行ったかわからない」と言われるものが一つや二つ出てくるが、「DAYONE」は結構すぐにそういう物にされてしまった気がする。だが流行ったもの勝ちだし、何故と言われたら流行らせた我々に責任がある。

私もその当時は特に琴線に触れることがなかったのだが、その後「KICK THE CAN CREW」や「RIP SLYME」「SOUL'd OUT」などのヒップホップグループに出会い、「これはすごくイイものだ」と思い、引きこもりにも関わらずライブにも何度か足を運んだ。

ラップは何せメロディがないので、初聞きでは正直ピンとこない。「何か喋ってんな」と思うだけだ。しかし、何度も聞いているうちに、独特のリズムと巧みなライム(編集注:韻を踏むこと)がどんどん癖になり、最終的に「俺もヤりたい」という中毒者となる。

私は冗談ではなく、昔ラッパーになりたかった。かっこよかったし、「自分でラップができたらさぞかし気持ちよかろう」と思えたのだ。だが、「家から出るのが怖い」など諸般の理由があり、ラッパーにはなれなかった。

「悪そうな奴は大体友達」ではない現代のラップ

この第三次ラップブームにより、昔よりカジュアルにラップを楽しむことができるようになったという。たとえば、都会の各所では「サイファー」というイベントが行われているらしい。

「サイファー」とは町中でラッパーたちが集まり、即興のラップを披露しあうことである、テレビ番組「フリースタイルダンジョン」に出演するラッパーが主催したサイファーから人気に火が付いた、という。

「そんな恐ろし気なイベント参加できないぜ」と思うかもしれないが、それはラップのイメージが「悪そうな奴は大体友達」で止まっているからである。

ラップと言えば、サイズをツーサイズ間違えたダボダボの服に、斜に構えた帽子、首を鍛えるアクセサリー類、という所謂「ワル」なイメージがあったと思うが、今ラップをやっている人は、もっとシンプルなスタイルで、それどころか「オシャレ」の方向に行っているらしい。

それだとますます入れない気もするが、「怖くない」というのは重要である。東京生まれヒップホップ育ちじゃなく、山陰生まれ公立高校卒業でも余裕でやれる感じがする。

しかし、ラップがいかにカジュアルになろうとも、イベントに参加して即興ラップとか敷居が高すぎる、そもそも家の外が怖い、という人もいるだろう。

そういう人にとっても、ラップは「SNS」により身近な物になっている。SNSの投稿をラップ調に韻を踏んで行うのだ。これなら、人前で歌うことも、外に出ることもなく、ラップで自己表現できる。

それに、SNSでいきなりポエムを発信したら、メンのヘルを心配されるか、引かれてしまう恐れがあるが、愚痴もラップにすればごきげんな感じになって、他人にもウケるのである。

私も仕事で何回か歌う当てのないラップのリリックを書いたが、これがなかなか楽しいし、最初は「できるはずがない」と思っていても、やりだしたら「結構できる」のもラップの良いところである。

2次元と融合するラップ、相手をdisる難しさ

ラップブームはついに二次元にまで波及し、現在「二次元×声優×ラップ」の「ヒプノシスマイク」が人気を博している。声優が二次元キャラとして歌を出す、というのは全く珍しいことではないが、「ラップ」というのはありそうでなかった。

二次元とラップ、という両方好きな分野なだけに、登場した時はコケたら悲しいと勝手に思っていたが、全く心配いらなかったようである。

ラップと言えば、音楽とは別に、MCバトルのイメージもあると思う。さっき挙げた「ヒプノシスマイク」でも、平たく言えば「チーム対抗MCバトル」をしているCDが出ていたりする。

MCバトルとはお互いが交互にラップで「イキり倒して相手をディスりまくる」やつである。ラップと言ったら即興という感じがするが、MCバトルは、相手のことを良く知らないとできない。初対面の相手を予備知識なしでディスろうと思ったら、容姿、性別、年齢など最も低い部分をディスるか、「守護霊がイケてない」などボンヤリとしたことしか言えないからだ。

公然と相手の悪口を言って良いMCバトルだが「どこまで言っていいのか問題」はある。いくらディスが許されているからと言って、差別発言はダメと言う意見は当然あるし、それに対し「ヒップホップとはそういうものだ、そこが許容できないなら帰れ」と言う人もいる。

もちろん、どこまで言って良いかも個人差がある。先述の通り何でもありという人もいれば、自分のことと妹がブスというところまでは良いが、母ちゃんの悪口だけは許せねえ、という人もいるだろう。

あまりルールを決め過ぎるとフリースタイルの良さが失われてしまうが、せっかく広まったラップが学級会の場になるのももったいないので、何かしら明確な線引きが必要な気もする。お互い地雷を決め、そこを踏んだら一発失格というルールにしてもいいかもしれない。