私は小中学生のころから、好きなキャラクターを何故か自分の拙い画力でブサイクに描きなおすという奇癖を持った創作オタだったのだが、当時は周囲に同癖を持った人がおらず、描いた作品を見てもらう人もいない、という悩みを抱えていた。
悩んだ末にアニメイト的な場所に置いてある「交流ノート」に、自宅で描いた渾身のイラストを貼り付け、「素敵な絵ですね、でも他の人の絵の上に貼らない方がいいと思います」など、メチャクチャ優しい人たちから蔑みの爆弾をいただいたり、大してオタクでもない友人にFAXで自作イラストを送り続けるなど、今思い出してもイマジナリーキンタマが縮む黒歴史を量産してきた。
だが、インターネットが現れたことにより「友達が作れない」という悩みは未だ健在だが少なくとも「作品を発表する場がない」という悩みは雲散したように思える。
ネットのおかげで消えた孤独と生まれた孤独
しかし、文明を発展させるために「労働」というシステムを作り出し、逆に文明が滅びるまで苦しむ羽目になった俺たち人間である。
基本的に1個問題を解決するたびに100個は新しい問題を作り出さないと気が済まないため、当然ネットが普及し「自己表現の場が格段に増えた」という利点を引き換えに、人は新しく様々な悩みに苛まれることになってしまった。
ネット普及以前は、自分と同じことに熱くなっている人間が周囲にいないという孤独感があったが、逆に他人と比較して落ち込むということは少なかったし、そもそも見せる場がないのだから感想や反応がもらえないというのが当たり前であった。
しかしネットが現れSNSなどを使い誰でも世界に向けて自己表現できるようになったせいで「大勢がいる場で発表した上で無視される」という、紅状態を味わう羽目になる人間も多いのである。
ここで「Xだけに」と言えるようになったことだけが、TwitterがXになって良かった点だ。
つまり、ネットのおかげで孤独感がなくなるどころか、さらなる孤独に加え、嫉妬や劣等感など、1人で無人島の洞穴の壁に血で推しの顔を描いていたころより苦しみが多様化し、「やる気」自体を失ってしまうことも珍しくなくなってしまった。
それも「こんな天才がいる業界でやっていられるか、私は部屋に帰らせてもらう」と言って変死体で発見されるならまだマシだが、「誰が何をきっかけにバズるかわからない」というネットの特性上、「自分より下手な人間が1回のラッキーバズで有名になりやがって」という一片の曇りもない妬みから、趣味が創作からバズ漫画に対し、いかに萎えるクソリプを送るかにシフトしてしまったりもする。
実際、天才もいるし、豪運による一発バズで有名になった人間もいないことはないのが、ネットやSNSの嫌なところだが、大半は「バズるまで発表し続けたからバズった人」であり、そこから有名になるのは「バズった後も発表し続けた人」なのである。
ゆりがごのぬくもり、帰る場所だった「ペイント」
やはり継続は力であり、特にコンテンツの消費が早い現代では、新しいものを次から次へと出せるというのは得がたき才能である。
つまり大事なのは「いかにやる気を失わずに継続していくか」ということだ。
どうやってモチベを保つかは人それぞれだと思うが、私個人としては、仕事であれば別として、趣味で発表するようなものには「一つ一つに力を入れすぎない」ことを心がけている。
何回でも全力投球可能な強靭な肩を持つ大リーガー絵師なら良いのだが、凡人は己の渾身の一球が、誰からも反応されない、天然の消える魔球になってしまうと、その場で体力を補う気力の限界を理由に引退しかねないし、逆に他人が鼻くそをほじりながら投げた鼻毛つきボールがバンバンストライクを取っているように見えて余計やる気を失ってしまうのである。
よって、見逃され三振を出した時も「ウオーミングアップにしてはまあまあかな」と、誰に言っているのかわからない言い訳混じりに肩をグルグル回して見せられる程度に力を抜いていた方が良いと考えている。
私の場合心がけなくても体中の穴を全開放して描いようにしか見えない絵しか描けないのだが、より自然体になれるよう使っているのが「ペイント」である。
「ペイント」とは、Windowsに初期装備されているお絵描きソフトであり、その機能は良く言えばシンプル、悪く言えば床と壁はつけてやったんだから屋根ぐらい我慢しろと言った感じだ。
無料という利点もあるが、今日びタダでも多機能なペイントソフトはあるので、ペイントを好んで使っている絵師はあまりいないと思う。
もちろん弘法筆を選ばずなので、ペイントを使ってすごいアートを作り出す人もいるのだが、逆に弘法じゃない人間が使うと「道具から入ることさえやめた人」による「諦め」というタイトルの名画が自動的に完成する画像生成AIと化すのだ。
よってペイントを使用することにより「これで万バズしてしまうのではないか」という、気負いや期待が最初からなくなり、投稿後に反応がなくても大して落ち込まず、逆に2桁でもいいねがつけば費用対策効果が良い、と思うことができて得なのだ。
志が低いし、先に言い訳を用意しないと描けないのかと言われればその通りだが、すぐにやる気を失う凡人は、メンタルを守る防御策をハックしながら描かないと、一番肝心な「描き続ける」ができなくなってしまうのだ。
ここからが本題であり、本題の発表と共にこの話は終わるが、この「ペイント」に「レイヤー機能」がつくらしい。
レイヤーがついたところで、他のペイントソフトの機能には全く及ばないと思うので、これを「事件」と考えている者はほとんどいないと思う。
ただ、ペイントの無機能ぶりに心を救われてきた人間もいるのだ、ということだけは伝えておきたい。