この物価高により、夏休みの間、低所得家庭が子供に満足な食事をとらせることができないと危惧されており、さらにそれを支援するフードバンクなども苦境にあるようだ。
そんな支援団体の奮闘を報道し、寄付や協力を仰ぐ番組もあったりするのだが、それ以前に視聴者の意見は「それ、国がやることじゃね」なのである。
そして先日も壮大な「それ国」案件が発生し話題になっていた。それが「国立科学博物館のクラウドファンディング」である。
新型コロナウイルスの影響による入館者の減少に加えて、光熱費や、標本・資料保全にかかる費用などの高騰が打撃となり、「自助努力や国からの補助だけでは到底追い付かず、その皺寄せは当然同館内の事業費・研究費削減等にも及んでいるため、今回苦肉の策としてクラウドファンディングに踏み切ったという。
このクラファンは反響を呼び、返礼が魅力的なこともあり、わずか1日で1億円を達成、現在6億以上の支援が集まっているそうである。
だが一方で「それ国がやることじゃね」という批判も大きく、日本がいかに歴史や文化、その研究に金を出し渋っているかという事実に絶望&激怒の声が多数上がった。
私も昔クラウドファンディングをやったことがある。自分のキャラグッズ制作やイベントを行うのに有志からの応援金を募ったのである。
個人的には今回の科博のように「出版社が出すべきだろいいかげんにしろ」「担当者を吊るせ」という暴動が起こっても良かったのだが、何故かナイス暴徒が現れることもなく粛々と完遂されてしまった。
だが、これは出版社が完全なる民間営利団体だからであり利益が出せないものに予算は出さないのは当たり前だ。そして普通ならそこで諦めざるを得なかったことが、クラファンにより資金を集めて、やりたかったことが実現した例は多い。
これが平常のクラファンだが、科博は「国立科学博物館」である、国立なのに国に立たせてもらえないのはどういうことなのか、これでは民立、もしくは国倒博物館である。
だが実は科博は「国立」と名乗ってはいるものの、完全な国立ではなく「独立行政法人」という位置づけで、国からの補助は出るが、あとは自分たちで儲けを出して自助れカス、といわれている立場だそうだ。
しかし、人間も自助れなくなったときに助けを求めるべきは国である。不特定多数の民間人に対して「オラに小銭を分けてくれ」と叫ぶのは「まずそこではない」だろう。
科博側もおそらく先に国に補助を求めたのだろうが、それではどうにもならなかったのでクラファンに踏み切ったのだと思われる。むしろこの試みは、文化保全や研究に対する国の補助が塩すぎるという現状を国民に広く知ってもらい、体質改善に繋げたいという思いもあったのかもしれない。
一般受けだけでは測れない「文化の価値」で「儲け」を出させる矛盾
私も10年以上都営の美術館の広報の仕事をさせてもらっているが、予算が厳しいというのは事実であり、何の話をしていてもいつの間にか「予算さえあれば」という話になってしまっている。
美術館や博物館というのはどれだけ経費削減しようとしても、収蔵品を保全管理するための光熱費などだけはケチれない。造りが雑な人間であれば最悪全裸になって水を浴びるなどすれば機能保全できるが、文化財にそんなことをしたら取り返しがつかないことになってしまう。
私が取材している美術館も、節電令の時、収蔵庫や展示室は従来通り24時間空調管理しつつ、あまり暑くならない人間ごときゾーンはサーキュレーターのみで乗り切るなどしていた。
だが科博はもはや収蔵品が収蔵庫に入りきらず、むき出しで廊下に出ているような状態らしい。収蔵品がこれなのだから、職員はとっくに全裸水浴び状態だろう。
この現状に世間が大きな関心を寄せ、支援金はすでに数億円に到達しているので、試み自体は成功といえるが、この成功がさらなる問題を引き起こすのではとも言われている。
まず、クラファンでこれだけ金が集まるという実績を作ってしまったが故に、国が補助を増やすどころか「お金がないならクラファンをすればいいじゃないの」と、世界一周がしたい大学生に対するアドバイスみたいなことを言いだし、さらに補助を渋るのではないかということだ。
また、今回は科博という大きな施設が初めて行った試みだったため、大きな話題になり支援も多く集まったが、小規模な施設が同じことをしても成功しないとも言われている。
つまり国からは「クラファンすればいいじゃん」と補助を渋られ、クラファンをしても資金が集まらない、さらなる苦境に立たされるかもしれないということだ。
また「クラウドファンディング」というのは、寄付や募金とは違う。クラファンが成功したら、主催は出資者に対し、出資額に応じた「リターン」をしなければならない。科博のクラファンもオリジナルグッズや収蔵庫見学ツアーなど、返礼が豪華なことでも注目を集めている。
それらの返礼を用意するのもおそらく職員の仕事である。
クラファンをしなければいけない施設の職員はすでに全裸水浴び状態のはずだ、その職員の負担をさらに増やすことになるのではないかとも危惧されている。
またクラウドファンディングは、集まった資金の1割程度が手数料として、クラファン運営に支払われてしまう。支援額が数億ともなれば数千万円が運営に行ってしまうので、それだったら博物館に直接寄付した方が良い、という声もある。
貧困家庭の窮状が報道されると、一定数「もっと節約できるはず、ウインナー使うな鶏肉買え」など厳しすぎる意見が出るように、科博も元々入場料などによる自助運営が前提なのだから、助けを求めるのもいいが集客をもっと頑張れよという声もあったのかもしれない。
しかし文化や歴史というのは、どれだけ一般の関心を引けそうにないクソつまらないものでも保存研究していく必要があり、確実に集客できる鉄板展だけでなく「これはよほどの変態しか来ないぞ」という激シブ企画展もできた方が良いのだ。
商業漫画誌に「誰が読んでいるんや」という連載があるのは問題であり、そういう作品は早めに打ち切る必要があるが、美術館や博物館は違う。
むしろ定期的に「誰が見に来るんや」という、コアな展示ができている施設はかなり健全な運営ができているのではないかと思う。