「ティラミスヒーロー」とはシンガポールの人気ティラミス屋で、2013年から日本にも進出。主にデパートの催事などで、オリジナルキャラクターの描かれた「瓶入りティラミス」の販売を行っていたそうだ。
そのシンガポールのティラミスヒーローに酷似したティラミス屋が表参道にオープンしたとして話題になったのだ。これから神戸にも出店する予定らしい。
問題のティラミス屋の名前は「HERO’s」。こんな名前だが乾物屋で看板商品は瓶入りかんぴょう、と言うならまだ「そういうこともあるかな」という気はするが、この店の商品もキャラクターが描かれた瓶入りティラミスだ。この時点で完全に黒だし、確信犯である。
また、それだけなら「パクり業者め、速やかに営業を止めるか、かんぴょうを売れ」という話になるだけだが、このティラミスヒーロー問題が大きく騒がれたのは、単に売れた店を真似しただけではないからだ。
本家シンガポールの「ティラミスヒーロー」は、日本で「ティラミスヒーロー」の屋号とロゴの商標登録を行っていなかった。そしてパクった方とされている「HERO’s」の方が「ティラミスヒーロー」という屋号、および本家のほぼコピーであるロゴの商標登録をしてしまったため、本家の方が「ティラミスヒーロー」という文言を日本で使えなくなってしまったのである。
つまり、法律上ではパクった側に権利があり、本家がそれを使うと逆に罰せられるという状態なのだ。そんなことがあっていいのか、と多くのツイッター民が絶望し怒ったのが、今回の件が大きく拡散された理由である。
この「HERO’s」の親会社は「gram」という。パンケーキが売りのカフェを出店しており、全国にかなりの店舗数があるようだ。
しかし、この「gram」そのものも、元々あった人気カフェの屋号と商材を奪ったもの、という噂があるほか、ローソンの人気商品「プレミアムロールケーキ」など、自社と関係ない有名スイーツの名前を商標出願しているそうだ。これらをティラミスヒーローの騒動とあわせて考えれば、商標未登録の人気商品を狙った「乗っ取り」の常習会社では、と言われている。
「ツイッター民の怒り」が持つ力と「弱点」
やり方だけ見ると吐き気を催す邪悪だが、「悪い奴ほど法律を守る」と言うように、日本の法律上、「HERO’s」や「gram」が罰せられることはない。
ただ、このツイッターでの騒動を受けて、各種メディアがこの問題を取り上げたことで、オープンしたばかりの「HERO’s」の店舗には客が来なかったり、逆に本家ティラミスヒーロー(編集注:現在は屋号をティラミススターに変更)の催事会場には客が殺到したりしている。「ツイッター民の怒り」というのはすでにバカに出来ないものであり、暴走しがちではあるが、問題提起や世の中を動かす力を持っているのも確かである。
しかし、「ツイッター民の怒り」には「長持ちしない」という特徴がある。何故ならツイッター民には他に怒ることがたくさんあるからだ、実に多忙なのである。実際、ツイッターを一日68時間やっていると、「嫌な事件」を5つは目にする。
ティラミスヒーローの件もその一つに過ぎず、HERO’sも「(同社が商標出願したロゴに関して)シンガポールの日本側運営会社に対し、その使用権をお渡しする所存でございます」という発表以降、普通に営業している。その内、新しい「嫌な事件」にツイッター民の関心は移り、HERO’sはうやむやの内に逃げ切るだろう、という見方もある。
確かに、世の中は一日68時間ツイッターを見ている人ばかりではないので、騒動が沈静化した後、何も知らない人が「瓶入りティラミスおもろいやんけ」と買ってしまうことは大いにあるだろう。しかし、今回の事件の真に嫌なところは、ティラミスヒーローのキャラクターが猫、つまりおキャット様という点である。
本家ティラミスヒーローは「世の中に瓶入りティラミスを広めるために活動するヒーローアントニオ」という猫をキャラクターにしており、そのストーリーだけで泣いてしまう。それなのに今回の騒動のせいで、アントニオは「ティラミスヒーロー」を名乗れなくなってしまったのだ。もう本当に泣く。
そして「HERO’s」の方も、ヒーローをモチーフとした数種類の猫のキャラクターを使っている。会社のやり方がどれだけ汚かろうと、猫はかわいい。この猫たちが描かれたティラミスが、運営会社の風評により売れ残っているかと思うと、とてもじゃないが「ざまあ」とは思えない。まさに、人間如きのいざこざにおキャット様が巻き込まれている状態である。
このおキャット様の犠牲から我々が何を学ぶべきかというと、まずおキャット様を私欲のために利用すると必ず地獄の業火に焼かれて死ぬという点。そして、商売をやる以上「うちのような小さいところがまさか」とは思わずに、商標登録ほか、権利に関しては法的に主張できる状態にしておかなければならないということだ。
特におキャット様関連で商売をさせていただこうと思っているものは必須である。自分のおキャット様は自分で守らなければならない。
ちなみに、「HERO’s」は現在もフランチャイズを募集しているようだ。今の騒動を知らずに「何か話題だし」と申し込む人がいたら、情弱を越えて商売自体に向いていないと思うが、gramについてはすでにフランチャイズ店があり、今回の件で深刻な被害を受けている店もあるという噂がある。
こちらも告発がツイッターでなされ、炎上の後アカウントを消してしまったようだ。気の毒な話ではあるが、フランチャイズ店舗は親企業の良い評判や知名度を借りて運営するものなので、逆に悪い風評に左右されるのも致し方ないところがある。
もしフランチャイズで何か店をはじめようと思ったなら、その会社のことを良く調べてから行うべきだろう。それが自分のためであり、おキャット様のためにもなるはずだ。