日本で「サカバンバスピス」が大人気だ。
そう思っているのはツイカスだけで一歩家の外に出たら誰も盛り上がっていない気もするし、この記事を書いている時点でTwitter内ですら、こいつの姿を見かける頻度が減ってきているので、掲載されるころには誰も覚えていないのではないかと心配である。
つくづく、Twitterバズキャラクターの消費は早い。皆はコロナ全盛時「疫病を祓う」としてブームになった妖怪の名前を憶えているだろうか。また、ミャクミャク様レベルのインパクトを持ってしても、TL上に頻出するのはニュース投下から1週間程度である。
もう少し長く味わった方が良くないか、とも思うがTwitterの話題はバズッたと思った瞬間イラストやアニメーションを投稿し終わっていないと、瞬く間に「腐っていやがる、遅すぎたんだ」となってしまう。
そしてこのような時期を逃したシケ記事を生み出してしまい、アクセスの代わりに「今更」と失笑を得ることになる。
しかし、サカバンバスピスは初出よりは落ち着いたが、現在でもグッズ化や新情報が出たりと動きのあるコンテンツであり、個人的にも一時期の痙攣発作で終わるには惜しい、秀逸すぎるデザインだとも思っている。
絶滅種が一躍ネットの人気者に、注目の理由は「俺たちすぎる」から?
そもそも「サカバンビスパス」とは何なのか。
先ほどから全国民が知っている体で語っているが、Twitterなどやらない方からしたら「こいつ陰キャのくせにさっきから『ババンババンバンバン』みたいな陽気な音頭を取りまくってるな」と思われている可能性すらある。
「サカバンバスピス」とは昔存在したとされている古生物のことである。フィンランドのヘルシンキ自然史博物館に「おそらくこんな奴だったのだろう」というサカバンバスピスの模型が展示してあるのだが、その姿があまりにも味わい深く、Twitterで一気に拡散され、一躍ブームとなった。
その姿は実物をググって見てもらうのが一番早いが、模型を見た者に「こいつを見つけて泣きそうになった」と言わしめるほど、人の情緒を乱すビジュアルをしている。
泣いてしまうほど恐ろしい姿をしているわけではないが、「何でこいつは生まれてきちゃったの」と神の残酷さに畏怖するという意味ではやはり「泣くほど怖いビジュアル」と言える。
しかし「なんで生まれて来ちゃったの」というのは、常に自問自答している問いである。
人はサカバンバスピスに対し「なんて情けない姿をしているんだ」という、哀れみと可笑しみを感じつつも、心の奥底で「他人とは思えない」ため、これほど受け入れられたのかもしれない。
「何で生まれて来ちゃったのかわからない人間」率が他SNSより群を抜いて高いTwitterでバズったのも納得だ。
そのビジュアルは魚の胴体に「俺たちみたいな目」が2つ、顔の正面に絶妙なソーシャルディスタンスを保って配置され、鼻のように見える穴2つ、そして何となく笑っているように見える「常に開いた口」が特徴だ。
まさにTwitterを見てるときの我々のような顔だが、最大の違いは「愛嬌がある」という点であり、サカバンバスピスはすぐに愛されキャラとなった。
さらに、海洋生物にもかかわわらず「泳ぎが下手だったと思われる」という点が哀愁を誘う。
こちらも「じゃあ貴様は人間社会で上手く泳げているのか」と言われたら、すでに溺死して水面に浮かんでいる状態なので、生態も共感度が高い。
逆に我々とこれだけ共通点があるくせに何故こんなに人気者になれるのか腹立たしく思えてきた。
そしてバズった瞬間商品を完成させ終わっているプロシュートツイッタラーによってサカバンバスピスはグッズ化が発表されたり、LINEスタンプが制作されたりしているようである。
それに対し「著作権的にありなのか」という物言いもTwitterらしい爆速でついたようだ。
サカバンバスピスは完全なオリジナルキャラクターと言うわけではなく、実在したとされる生物である。これに著作権が発生するとなれば「恐竜」などをモチーフにした商品も著作権に引っかかることになる。
しかし現在日本に出回っているサカバンバスピス作品は「サカバンバスピスという実在したらしい生物」ではなく、明らかに「ヘルシンキ自然史博物館にあるサカバンバスピスの模型」をモチーフにしたものだ。
ちいかわのハチワレを完全にパクった商品を「これはちいかわのハチワレではなく『ハチワレの猫』という生物をモチーフにしただけだ」と言っても通らないように、現在のサカバンバスピス商品も、著作権は「ヘルシンキのサカバンバスピスの模型を作った人」にあるのではないかということである。
確かにあの模型は、模型製作者である古生物学者のElga Mark-Kurik博士のセンスとオリジナリティがかなり炸裂しているようで、他のサカバンバスピスの図案とはかなり異なっているようだ。
それに対し、すでにヘルシンキ自然史博物館に問い合わせをした者もおり、博物館側はかなり寛容な姿勢を見せているという。
しかし完全に許可されたというわけでもなく、博物館側がいきなり「戦る気」になればどうなるかわからないので、今のところはファンアート程度に留め、商品化などはステイしておいた方が無難なようである。
だが、著作権についてはっきりしたころ、我々はサカバンバスピスのことを覚えているだろうか。