コロナが流行しだしたころから東京には行っていない。

最近東京には行っているのかと聞かれたらそう答える。しかし「で、結局何年行ってないの?」と問われた場合は答えの代わりに舌打ちをお見舞いするようにしている。

無職やひきこもりに対し、時の流れを正確に答えろと言うのは、全裸の人に「どこで服買ってんの?」と聞くレベルの無神経さである。

我々は曜日を筆頭に時の流れがすぐ曖昧になり、社会からも隔絶しているため「世間でいつ何が起きた」かなど把握できているはずがなく、当然コロナも何年に発生したものなのかすでに見失っている。

そんなわけで何年東京に行っていないかは不明だが、そのおかげでここ数年全く使わなくなったものがある。

まずJALのカードだ。このカードを使い、他の人間が「QRコードを紙に印刷したやつ」という日本の美を感じるアイテムを使って搭乗しているのを尻目に爆走搭乗タッチ&ゴーをしていたのだが、何せ飛行機に乗らなくなったので全く使わなくなってしまった。

それでもWAON機能がついていたので買い物に使っていた時期もあったが「もっとイオソの軍門に下りたい」という気持ちからイオソカードを作ってしまったため、いよいよ使うことがなくなった。

そして次に使わなくなったのが「Suica」だ。私のスマホにもSuicaアプリが入っているのだが、災害が起こったと同時に止まった時計のように、数年前から「¥875」という数字を刻んだままだ。

電車に乗らずともコンビニとかで使えるのかもしれないが、何ゆえコイツはSuicaで電車に乗れない村でSuicaを使っているのかと思われそうだし、店によっては「支払いはSuicaで」と言った瞬間バイトが店長を呼びに行くおそれがある。

地方民にとっては常識だが、「Suica」は全国共通の交通系電子マネーではない。しかし不用意に「じゃあどのICカードを使っているの?」と聞くのもNGだ。「自動改札」が未上陸の駅だって田舎にはいくらでもある。

自慢ではないが私の家の最寄りの駅には自動改札がある。そう言いたいが真の最寄り駅は自動改札以前に「人間」が存在しない。

しかし東京よりの埼玉住みが「ほとんど東京に住んでいる」というように、一番栄えている駅が最寄り駅なのだ。

その最寄り駅の自動改札で何が使われているかというと「ICOCA」だそうで、知らない間にわが県でも山陽本線間なら大体の駅で利用可能のようである。もちろん我が真の最寄り駅は安定のスルーだが、そもそも車社会で電車に乗る機会がないため、私がICOCAを使うのは免許返納後、もしくは何らかの事情で免停になった時だろう。

地元の交通系ICカードでさえ無関係なのだから、Suicaなどサンパウロの花粉情報ぐらい私に関係がない。だが何故かこれからSuicaの話をさせられる、これが俺の仕事だ。

Suicaの改札システムが改修、どんなものでも「事故は起こるさ」?

  • ICOCAはカモノハシ、Suicaはペンギン。くちばしこそ共通ですが、東西でキャラのテイストがだいぶ違いますよね

今年の5月下旬よりSuicaのシステムが改修されるらしい。

システム改修と言われても、我々がスマホの仕組みを知らないまま使用しており、中に入っているのが電子基板だろうがのし梅だろうが使えればいいと思っているように、自動改札やSuicaを使っている人は多くても、その仕組みまで考えて使っている人は少数派だろう。

そんなわけで、先日まで手動で改札を開閉していたおじさんが引退し、新しいおじさんが就任しましたと言われても利用者がその違いを体感することはそんなにないと思う。

実際どのように改修されたかというと、従来の自動改札は運賃計算を改札自体で行っていたが、新しいシステムでは外部の中央サーバにデータが送られそこで運賃計算がされるという。

一見して利用者がその変化に気づき体感するような変更ではなく、改札が開いてくれればおじさんの手動でも構わない勢からすれば大した変更ではないように思える。

しかし、システムに明るい人間からすると、この改修は「もったいない」ことらしい。

従来であれば、自動改札のみで完結していたため、不具合が起きてもその自動改札だけの問題であり、そこを何とかすれば良かっただけだ。だが中央サーバ形式になったことにより、あらゆる駅の改札が開かないなど大規模障害が起こるのではないかと懸念されている。

もちろんJR側もそういった事態を全く想定していないわけではなく、ネットワークや機器の多重化により、そう簡単に障害が起きないように対策は考えているそうだ。

正直なところ、大規模障害のリスクはあるが、現在のローカルシステムではそろそろ限界なため、リスクを差し引いても使用エリアの拡大など新システムに切り替えた方がメリットが大きいという。

また中央サーバ形式にすることにより、コスト面でも大きく改善が見込めるらしく、今後は自動改札を導入するほどではなかった中途半端な過疎駅でも、自動改札の設置が可能になるかもしれない。

ちなみに我が真の最寄り駅は設置費30円ぐらいになってくれないと採算がとれないと思うのでまだまだだろう。

世間でも概ね必要な改修として受け入れられているようだが、どれだけ安全と言われるものでも一度は事故っているものだ。

この新システムも一度くらいは大規模障害を起こし、開かない改札の前で棒立ちになったり、駅員にブチ切れたりしている人々の映像が我々にお届けされそうな気がする。

その時ばかりは、我が真の最寄り駅の方が「通れる」だけ都会の駅より先進的施設と言えるだろう。